二人だけの秘密
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遠くでパタンという扉を閉める音、それからスリッパの音とフローリングに爪が当たる音で顔を上げた秀一は、僅かに目の力を緩めて安堵の息を吐いた。
「もういいのか?」
「うん、大丈夫。ありがとね」
「いや、礼を言うのは俺の方だ。おかげで作戦通りに事が進んだ。」
ラウラは大丈夫と言ったが、まだ気怠さが残っているのだろう。良いとは言えない顔色に気付いた秀一はラウラをソファに座らせると、いつものコーヒーではなくはちみつ入りのホットミルクを渡した。昨日散々吐いてから何も物を入れていない胃に、いきなりコーヒーは良くない。
「あら、ありがと」
ふーっと息を吹きかけながらホットミルクを飲むラウラの膝には、伏せをしたバディが顎を乗せている。
昨日帰宅してからバディへの挨拶も控えめにしてベッドに倒れ込んだラウラは、当然バディの散歩も秀一に任せていた。バディもラウラの具合が良くないことをわかっているのか、散歩から戻ってきたらすぐにラウラの元の行き、大人しく過ごしていた。控えめに鼻を寄せては匂いを嗅ぎ、ないはずの眉毛が下がったような顔をしてラウラを見つめる。遊びに誘うわけでもイタズラをするわけでもなく、ただ純粋に心配している気持ちがヒシヒシと伝わってくる。そんなバディが可愛くてたまらない。ラウラは左手でバディの頭から背中を優しく撫でた。
「バディのこともありがとうね。」
「大丈夫だ。バディは随分と心配していたみたいだがな。ずっと一緒にいたんだろう?」
「うん、トイレに起きるたびに後ろ着いてきてくれたし、寝る時もずっと隣にいてくれて。……ほんとかわいいなぁバディは」
うりゃうりゃと両手でバディを包み込んで目を合わせる。いつも通りのラウラになったことがわかったのか、嬉しそうに尻尾を振っている。
「それで? あれからどうなったの?」
「無事、シェリーは死んだと思わせることが出来た。思わぬハプニングもあったが、結果としては上々だな。」
「そっか。……なんか爆発してた? ぐちゃぐちゃの頭に流れ込んできた気がして。」
「ベルモットは否が応でもシェリーを消し去りたかったらしい。貨物室にぎっしりと爆弾が積んであったようだ。」
「えぇ!? それ大丈夫なの!?」
「スペシャルゲストは空の逃走経路が十八番だからな。かなり危なかったようだが、問題ないそうだ。」
もちろんスペシャルゲストの正体はラウラも知っている。変装の達人で、コナンや秀一とは違い、変声機を使わずに自由自在に声色を変えることができる天才。まさにベルモットの男版と言えるだろう。敵ならば誰に変装しているかわからないため恐怖しかないが、味方なら頼もしい存在だ。
「哀ちゃん怒ってた?」
「フッ、ボウヤにはかなりキツく当たっていたらしい。どうやら、俺の接し方が悪かったようでね」
「あれは私も怖いと思った!! "流石は姉妹だな…行動が手に取るようにわかる"って、怖いに決まってるじゃない!!」
「……す、すまん」
ラウラに押されて秀一は素直に謝った。ラウラに責められるとどうも弱いのだ。これを人は惚れた弱みという。
秀一はシェリーに変装した怪盗キットがバーボンこと安室透と対峙しているとき、安室の気を引いて怪盗キットが逃げる隙を作るため、一時的に変装をといた。もくもくと煙幕が視界を覆うなかで核心的な何かを与えたわけではないが、下車する安室の様子を見る限り、秀一の生存をかなり疑っているとみていい。秀一の身を捕らえて組織に突き出し、より中枢に組み込むことを狙う安室は手段を選ばないだろう。
それこそ、ラウラを人質にする可能性すらあった。
「しばらく身の回りには気をつけろ。何か異変があればすぐに言え。」
「……それは組織が動くってこと?」
「シェリーを殺害した気になっている奴らはしばらく大人しいだろう。動く可能性があるとすれば安室君の方だ。」
「わかった、気をつける。…って言っても私にできることなんて少ないけど。」
「バディの散歩にも着いていくようにする。可能な限り一人で外出するな。」
「え、そんなに? だって安室さんって警察なんでしょ?」
「腐っても警察なのだからそこまでしないと思うけど」とラウラは言外に言ったが、秀一はそれを否定した。
「彼はまだ若いんでな…目先のことにとらわれて本当の目的を見失いがちなところがある。充分あり得る話だ。」
真剣な秀一に、ラウラも自分の認識を改めて固い声で「わかった」と返す。
間髪入れず、ラウラは思い出したかのように口を開いた。
「そうそう、やっぱり具合悪くなったのは、視すぎたのが原因だと思う。」
今までは数日に数回視るだけだったのが、いきなり短時間で何十回も記憶を視ることになったのだ。そりゃあ脳の許容量も超えて具合も悪くなる。
「だからこれからは、毎日何回か使って慣らしていこうかなぁと」
「……ますます隠し事が出来ないな。」
「隠したいことあるの?」
ラウラは悪戯っ子のような顔で隣の秀一を見上げた。何を隠したいのかは知らないが、恋人に知られたくない性癖が前面に出たアダルトビデオとかが出てきたら最高に面白い。妹系が出てきたらどうしよう。そんなアホなことを考えて一人で笑う。
「フッ、お前に隠すことなんて何もない。好きなだけ視ていいぞ。」
「ちぇーつまんないのーー。エッチなビデオとか隠してないの?」
「ないな。なんせ最高な恋人が隣にいるからな。」
「うふふ♡」
望む通りの答えが返ってきたため、ラウラは満足げに笑って秀一の肩に頭を預けた。引き金が当たる位置に出来た指のマメも、人より硬い手のひらも、秀一が努力してきた証である。それを時折親指で撫でながらそっと目を閉じた。
