二人だけの秘密
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ラウラは昴に向かってそっと手を伸ばした。触れたのは極薄いプラスチックで作られた板。硬質で温度を持たないその無機物の記憶を視てしまわぬよう、自身の力を抑え込む。
本音を言えばこのポーカーフェイスの上手い、いや、マスクを被って完全に顔を覆い隠している相手に対して使うのはズルではないのかもしれない。どんな顔をしているか物理的に覆い隠している方がズルである。ポーカーフェイスもさして上手くないラウラからすればそう思ってしまうが、「この人マスク被ってるからズルしてます」と指摘するわけにもいかない。
やがてラウラは二つの選択肢のうち、一つを選び取った。そこに描かれたものを確認した瞬間、苦い顔をする。にっこりと笑うピエロが憎たらしい。
「…っはーー」
ラウラはソファの背もたれに身体を預けながら2枚のカードをひたすら混ぜた。もちろん昴には見えないように。
一体何度目だ、このやりとり。なぜ互いにピエロを引き続ける。
「はい、どーっちだ!!」
「……」
そして昴の前にカードをかざした。昴は少し迷いながらも右のカードを手に取ろうとする。
「そっちでいいの?」
「……」
ぴくりと昴の手が止まった。意思が揺らいでいるようだ。昴がジョーカーかダイヤの3のどちらを取ろうとしているかラウラにはわかっている。その上で問うているのだ。ポーカーフェイスというより挑発に似ている。
「あ、」
「……、」
結局、ジョーカーは再び昴の手に渡った。
負けた昴は大人しくテーブルの上のカードをシャッフルして整えていく。もうこの作業も何度目になるかわからない。
「にしても昴さんがババ抜き最弱とはなー」
「ねー! ポーカーフェイスは強いのになんでだろう?」
「運がないんじゃない? それがジョーカーに好かれているかのどちらかよ。」
灰原の毒舌は今日も冴えている。
今日は阿笠邸にてラウラと灰原がともに夕食を作り、皆でテーブルを囲むというちょっとした夕食会が開かれていたのだ。コナンも招待され、話の流れでなぜかババ抜きをすることになった。
「次ナポレオンやらない?」
「お、いいな!!」
ナポレオン。それは4人から6人で、絵札と呼ばれる各スートの10、J、Q、K、Aの合計20枚を取り合うチーム対抗のカードゲームである。ナポレオンと副官、その他の連合軍で絵札を奪い合う。
前提として、一番強いカードはスペードのAだ。オールマイティとも呼ぶ。このカードが一番強い。次に正J、裏Jと呼ばれる、ナポレオンが指定したスートのJを正J、それと同じ色のJを裏Jと呼ぶ。その次はナポレオンが指定したスートのA、K、Q、10と続いていく。
場の最初に出したカードを台札と呼び、手持ちに同じスートのカードがあればそれを出さなければならない。なければどのスートを出してもいい。
まず参加者に同じ枚数のカードを配り、余ったカードは真ん中に置いておく。
次に参加者の中からナポレオンになる人物を決める。ナポレオンは絵札を何枚取るか、自ら勝利条件を設定する。それを達成できれば勝利、未達成なら連合軍の勝利となる。その際に今回のゲームで一番強いスートを決める。ハートならば、ハートの4とダイヤの4ではハートの方が強くなる。スペードのKとハートの4でも、ハートの4が勝つ。
ナポレオンが決まれば、副官となる人物を指名する。これは「〇〇のカードを持っている人」というように指名し、副官は名乗り出る必要はない。その後、真ん中に置いておいたカードを見て、己の手札から不要なカードを同じ枚数捨てる。
ここからゲームが始まる。
「私がナポレオンになります。宣言はハートで13枚で。」
「どうぞー。」
「副官は?」
「オールマイティで。」
ゲーム開始時点で連合軍はおろか、ナポレオンですら味方である副官が誰なのかわからない。それを予想しながらゲームを進めるのだ。つまり、この場で全てを把握し、高みの見物が出来るのは副官ただ一人。連合軍もナポレオンが誰かはわかっていても、副官は誰だかわからないし、同じ連合軍の味方も誰だかわからない。この心理戦がゲームを面白くする。
ナポレオンからカードを出し、全員カードを出し終えたらその場で一番強いカードを出した人が場を制す。絵札がある場合は獲得できる。次の場はその者からカードを出し始める。
まだ一巡目ということもあり、誰も絵札や強い札を出していない。最後だったラウラはクラブの10を出し、自分で獲得した。そして新しいカードを場に出した。
何巡かして手札が少なくなってきたが、まだ副官が誰なのか本人以外わからない状態が続いていた。
そんな時、灰原の次がナポレオンである昴という順番になった。
「もう出せるのがこれしかないのよね」
そう言いながら出したのはクラブのQ。その場では一番強いカードだ。だが灰原の後にはナポレオンである昴が控えている。昴がクラブのQより強いカードを出せば、灰原の出した絵札はナポレオン軍のものになる。昴が強いカードを持っていなくても灰原は自分で獲得できる。
このような行動でラウラとコナンは気付くのだ。
「副官お前か〜?」
「頑張ろ、コナンくん」
「……フッ」
昴は軽く笑って灰原の出したクラブのQを獲得した。それを見た灰原が昴と目を合わせて似たような笑い方をする。どうやら副官は灰原のようだ。
結局、昴と灰原というタッグにラウラとコナンは歯が立たず完敗した。FBI捜査官と科学者の組み合わせだ。勝てる気がしない。
次のゲームではコナンがナポレオンになった。
「副官はオールマイティで」
そう言ってから最初に真ん中に置いておいたカードの中にオールマイティがいた。
「……げ」
コナンはスイッチが入れば藤峰有希子の血を感じる演技をするが、それ以外では基本的に大根役者もいいところだ。
鋭い昴と灰原はもちろんのこと、ラウラでも何が起きたのかすぐわかった。3人は目配せをしてほくそ笑んだ。コナンがナポレオンと副官を兼ねるため、1対3なのだ。楽しくないわけがない。
孤独な戦いを強いられたコナンは敗走し、連合軍が勝利した。
「ラウラさん、スピードしましょ」
「え! やるやる!! 私あんまり強くないけど!」
「私も久しぶりよ」
2人は絨毯の上で向かい合わせに座り込んだ。カードを半分ずつ配り、上から場に4枚並べる。
「「スピード」」
出たカードは6と10。ラウラはすかさず並んでいる5を出し、Jも出そうとした。が、灰原がその前に9を重ねたため出せなくなる。
「あ!」
出した分のカードを補充したら8だった。ラウラが8を出している間に灰原が5に4を重ね、続けて3を出す。
互いに出せるものがなくなった。
「「スピード」」
「じゅういち!! じゅうに!!! ……あ、じゅうさん!! ………に、は出せないからさんッ、も無理」
ラウラがぶつぶつ言っている間に灰原はどんどんカードを出していく。灰原が6を置いた瞬間、ラウラは続けてカードを出した。
「なな!! はち!! なな!!!」
「ラウラさん、必死すぎよ」
その必死さに灰原も笑ってしまうほどだ。昴は後で見返して笑うつもりなのか動画を撮っている。
「ちょっと待って、なんで手札それしかないの!?」
スピードというのは、声を出して必死になっている者ほど遅く、冷静に素早く腕を動かしている者ほど早いのだ。
結局、大差をつけられて負けたラウラはその悔しさを、バディを撫で回すことで解消した。ちなみにバディは少し迷惑そうな顔をしていた。
