二人だけの秘密
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「はい、次目線こっちでお願いしまーす………いいね〜やっぱラウラさん顔出した方が良いと思うんだけどな〜」
「監督、その話は…、」
「あぁ、すまんすまん。綺麗な顔してるのにもったいなくてさ、」
何度目かのやりとりにラウラはため息を飲み込んでポーズを決めた。
今日は二ヶ月に一度の撮影の日である。
自らデザインした服を身に纏い、商品ページに載せる写真を撮る。もちろん顔は映さない。見て欲しいのは顔ではなく、服なのだから当然と言えば当然なのだが、担当する監督はラウラのシンメトリーの美しい
そんな楽しくも少しだけストレスが溜まる撮影後は、いつも決まって行く場所がある。自宅から行くには少し遠い場所にあるそのカフェは知る人ぞ知る穴場で、満席になることはほぼない。学生が行くような価格帯ではないため、キーボードの音と店内でかけられているジャズだけが耳に届くような場所である。席間がゆったりと作られた店内はダークブラウンで統一されている。皆周りの人間を気にせずに読書したり仕事したり、物思いに耽ったりと自由である。
ラウラはそんなカフェでガトーショコラを口に放り込んだ。
濃厚なカカオが口に広がり、そこにホットコーヒーを入れると絶妙な甘さになる。このガトーショコラはブラックコーヒーとセットでしか注文することが出来ない。ガトーショコラはブラックコーヒーのために甘めに作られ、ブラックコーヒーはガトーショコラのために苦めに作られている。つまりは最高の組み合わせなのだ。
ほっと一息ついたラウラはなんとなく店内を見回した。通路を挟んで隣の席には仕事中のサラリーマン、反対側には読書する老人、その向かいには小難しい顔で新聞を読む女性。思い思いの時間を過ごすこの空間が非常に心地良い。
が、ここが米花町だということを忘れてはいけない。
「金出せ!!!! ブッ殺すぞ!!」
全身黒い服にマスクにニット帽姿の男が店内に入るなり叫んだ。手にはナイフがあり、威嚇するように振り回している。
「きゃーー!!」
入り口に一番近い位置にいた女性が悲鳴をあげながら立ち上がり、慌てて男から離れる。
男が女性を追いかけて背中に向けてナイフを振り翳したその時、顎に向かって飛んできた鋭い手刀を喰らってひっくり返った。手刀を繰り出したのはラウラの隣で仕事をしていたサラリーマンだ。彼は懐から手錠を取り出すと、迷いない手つきで男の両手を後ろにして拘束した。
「午後4時26分、犯人逮捕」
呆気に取られる店主と客たち。あまりの鮮やかさに台本があったのではないかと疑うほどだ。サラリーマン改め風見は、自ら知り合いの刑事に通報した。
「お兄さん警察なの?」
「……えぇ、まぁ。」
「あらま〜!! かっこよかったわよ〜! バシッて!!」
「あの、助けていただきありがとうございました」
「若そうだけど、おいくつなの?」
「警察手帳見せてくださる? 本物を見てみたかったのよぉ〜!」
あっという間にマダムに囲まれた風見はやたらと近い彼女たちの勢いに押され気味だ。本物の警察、それも交番勤務の者ではなく警部補という階級にマダムたちが一際盛り上がった。
「あ…、」
身体が当たってしまったのだろう。テーブルの端の方に置いてあったボールペンがカランと音を立てて床に転がった。ラウラが手を伸ばせば届く位置に落ちたそれを拾うのは当然の流れだった。───そこに残された記憶を視てしまうのも、当然の流れだった。
なんてことない記憶だった。風見が上司と思われるスーツを着た男性に事件の報告をしているだけの、よくある光景だった。その上司と思われる男の容貌が特質していようが、今まで数多の記憶を視てきたラウラからすれば、なんてことない日常のひとコマだ。
問題だったのは、その上司に瓜二つの人物と別の場所で出会ってしまったことだ。
* * *
カウンター内で食器を拭き上げていた梓は店外で手を振る女性を見つけて嬉しそうに顔を綻ばせた。女性はドアに取り付けられたベルを鳴らして入ってくる。
「いらっしゃいませ、ラウラさん。今日はお一人ですか?」
「そうなの。急に梓ちゃんのボロネーゼが食べたくなっちゃって」
「あら嬉しいです〜! ドリンクは何にしますか〜?」
「カフェラテでお願い」
「かしこまりました」
ラウラの他に客はいないため、カウンターに座ったラウラと世間話をしながら調理に取り掛かる。最近の梓のビックニュースといえば、なんと言っても新しいバイトが入ったことだろう。
「え、おめでとう〜! なかなか入らなかったもんね〜!! どんな人なの?」
「そ れ が っ ! ! ! びっっくりするくらいイケメンなんです!!」
「あら、良いじゃない! 恋しちゃった?」
「いえいえ!! 安室さんそうゆう系統ではなくて、なんでしょう……目の保養? みたいな感じです!!」
梓はいかに安室が危険な存在であるか力説した。確かに仕事の覚えは早い。それも異常なまでに。一度言ったことは忘れず、言葉の裏を察して動いてくれる。客への対応も文句なく、彼が入ってから女性客が増えて売り上げが上がったほどだ。だが一部のガチ勢が共に働く梓との仲を邪推し、ネット上で何度も炎上したのだ。
「いるよね、そういうイケメン。遠くで見てる分には良いんだけど、近付くと思わぬところから攻撃くらうのよね〜」
「そうなんです!!」
「ただいま戻りました〜」
「「……あ、」」
噂をすればなんとやら。業務スーパーの袋を両手に下げた安室が帰ってきた。
「おかえりなさい。買い出しありがとうございました」
「いえ、こちらこそ店番ありがとうございました」
ラウラはこちらに一度会釈してからカウンター内に入っていった安室の姿を目で追った。確かに驚くほどのイケメンだ。褐色の肌に、自身と同じ金髪と碧眼。これほど見目が整っているならば女性客が増えるのも頷ける。
が、ラウラが驚いたのはそれだけではない。似ているのだ、先日カフェで強盗犯を逮捕した警察の、持ち物に宿っていた記憶の彼に。こんな派手な容姿を簡単に忘れられるわけがない。
「梓さんのご友人の方でしょうか?」
「そうなんです! よく来てくださる篠宮 ラウラさんです!」
「篠宮 ラウラです。梓ちゃんとは私がこっちに来てからの付き合いで、よくしてもらってます」
「先日からこちらで働かせていただいています、安室透です。よろしくお願いします。」
「安室さんは探偵でもあるんですよ〜! だからラウラさんも困ったことがあったら相談してくださいね!」
「探偵さんなんですね〜!」
「えぇ、まぁ。……ところでこちらに来てから、ということは、以前は別の場所に?」
「7年前までアメリカにいたんです。日本が好きで移住してきまして」
「それはそれは」
日本が好きという言葉に安室は顔を緩めた。日本人なら多少日本への愛着があるだろうが、安室のそれは普通より遥かに強い。
「はい、お待たせしました、ボロネーゼです!」
「わぁ〜! ありがとー!」
粗挽きの挽肉をたっぷりと使用し、赤ワインを入れて煮込んだボロネーゼはコクと酸味のバランスが丁度良い一品だった。ほのかに香るガーリックが良いアクセントになっている。
ラウラは安室のことは一旦置いておいて、目の前のボロネーゼにフォークを入れた。
「ねぇ秀一」
「なんだ?」
「世の中に自分に似た人が3人いるって説、信じる?」
「……80億も人間がいれば自分の他に2人くらいいそうだからな。……急にどうした」
帰宅するなりそんな質問を投げかけてきたラウラをチラリと見た秀一は、己が座っているソファの横を軽く叩いた。誘われるようにラウラが隣に座ると、その頭を胸に抱き込んで優しく問いかける。
「何か視たのか?」
「……視たというか、視た人とそっくりな人と会ったの。別人には見えないくらい似てて……でも流石にカフェ店員と警察だからね、別人だよね」
「!! 詳しく聞かせろ」
ただのよく似た別人の話なら秀一も身を乗り出すことはなかった。しかし、それがカフェ店員と警察ならば話が変わってくる。
先日、秀一はバーボンもとい安室透がとある喫茶店の店員として潜入していることを知った。その情報を聞いた時己の耳を疑ったが、偵察に行くと本当に安室透がエプロンをつけて接客しているではないか。さらに調べると、ポアロの真上にある毛利探偵事務所の毛利小五郎に弟子入りしているという。頭のキレる安室がコナンの傀儡でしかない小五郎に弟子入りしても得られることなど何もないだろう。目的は別にあり、そのためにポアロに潜入していると考えていい。
秀一は組織で組んでいたときから、安室のことをNOCだと疑っていた。その疑いは秀一がNOCと判明して組織を抜けた今でも続き、所属組織に目星こそつけるがリスクを考えて行動に移していなかった。巧妙に隠された情報を闇雲に探しても時間の無駄だ。
そんな時に飛び込んできた吉報。
ラウラは秀一に最初から説明した。カフェで強盗未遂があり、偶然そこに居合わせた警察官の持ち物の記憶に安室透とよく似た人物がいたこと。褐色の肌に金髪碧眼というまず被らないであろう組み合わせだったこと。
「なんと呼ばれていたかわかるか?」
「んーーー……たしか、フルヤさん? だったと思う」
秀一はニヤリと笑った。苗字までわかればあとは簡単だ。大体の年齢から目星をつけ、警察学校の卒業名簿を探す。すると笑ってしまうほど簡単に答えに辿り着いた。
「……やはり同じだったか…」
警察庁警備局警備企画課、通称ゼロの潜入捜査官。降谷零。その正体を知った秀一はオリーブグリーンを光らせて笑った。
