彼女の秘密
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赤井がラウラの家に住み始めてから一週間が経過した。例の裏掲示板サイトは警察によって封鎖されたものの、一度ネット上に公開された情報は二度と消すことができない。二回目の強盗を赤井が撃退した後も、警戒を怠ることなく生活していたのだが。
ラウラはこの一週間で新たな悩みを抱えていた。───赤井との生活が快適すぎるのだ。
食事の支度は、朝はラウラが、昼はラウラが一人で作ったり赤井も手伝ったり、夜は二人でともに。後片付けは作っていない方がやる。掃除は分担で、洗濯はラウラの仕事だ。
もっとも、二人とも一人暮らしが長いため家事をすることにそこまで嫌悪感があるわけではない。負担が減って楽になる程度だ。問題はそこではない。
隣にいて、居心地がいい。
今の二人の状況を表す言葉に一番近いのはこれだろう。
同じ空間にいて、無言であっても全く気にならない。食事中にふと会話が途切れても気まずくならない。むしろそんな時間すらも心地良い。
今だってそうだ。テレビを付けっぱなしにして赤井は本を読み、ラウラはタブレットでデザインを描いている。ページを捲る音とペンを走らせる音、そして小さめのテレビの音。その全てが調和して、ひどく心地が良い。
テレビがCMに入りポーンとピアノの一音が響いた瞬間、ラウラは何となく顔を上げてテレビを見た。それは赤井も同じだった。
始まったのは映画の予告編。シリーズ七作目となる最新作が来月公開されるようだ。
ふと、赤井が独り言のように呟いた。
「忙しくなって三作目までしか観ていなかったな……」
「私も同じくらいのところで止まってます…」
赤井のそれは独り言にはならず、ラウラも手を止めて自分と同じくCMを見ていることを予想しての行動だった。
「一から見直すか?」
「良いですね!! 続きが気になってはいたんですけどね、忙しくて…」
「あぁ、俺もだ。今なら時間もあるし、シリーズ全部観てから最新作を観に行くとしよう。」
互いの趣向どころか、相手が何を考えているかまでなんとなくわかってしまう。自分も気になるからきっと相手も気になるだろう。そんなことを自然と考えているのだ。
料理をしていてもそうだった。
火を止める直前のスープを二人で味見する。そして目を見合わせた。
「美味しいけど……」
「美味いが……」
「「少し濃い」」
二人の気持ちが一致した。
「水を入れよう。」
「とりあえずおたま二杯で様子見て、と……ん、良い感じ!」
「あぁ、ちょうど良いな。」
味の好みの一致。
食事は生きていく上で欠かせないもので、一日三回もあるのだ。それが片方は濃い味派、もう片方は薄味派の場合大変である。常にどちらかが合わせなくてはならないのだ。薄味派が作った場合、濃い味派は調味料を追加するなりしなければ美味しく食べられない。だが作った方としては自分の味付けに文句を言われているようで少々不快な気分になる。逆もまた然り。
味の好みが似ていると、そういう煩わしいことがない。
「映画は…、」
「ポップコーンは食べない。」
「ですよねー!! ……でも家では、」
「何かつまむ。」
「わかります!! でも結局映画に夢中になって終わってから食べるんですよね〜」
「あぁ。始まってしまえばつまみどころではなくなるからな。」
「ほんとそれ!」
と、こんな具合に。基本的に意見が一致するし、例え異なったとしても互いの主張を聞いて納得する。相手を尊重しあって生活しているのだ。
好きにならないわけがない。
それはラウラだけではなく、赤井にも言えることだった。初めは彼女の秘密を知りたいという気持ちが大きかったが、共に生活しているうちに彼女のことを好ましく思っていた。この気持ちが何だかわからないほど赤井は子どもではない。
「なぁ、ラウラ、」
「んー? どうしましたー?」
「……」
名前を呼んだきり黙り込んでしまった赤井を不思議に思い、ラウラはソファに座る赤井の顔を覗き込んだ。その鋭いオリーブグリーンの目がふっと和らいだとき、赤井の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「……愛おしいな。」
「………へ?」
この流れでいきなり告白されると思わなかったラウラはぽかんと口を開けて固まった。
そんな彼女を知ってか知らずか、赤井は続けた。入念な準備をした一世一代の告白ではなく、ずっと思っていたことが口からするすると出てしまった。そんな告白だった。
「ラウラを見ていると愛おしい気持ちになる。守ってやりたいと思うのは、俺がお前のことを大切に思っているからだろう。」
「……それってつまり?」
「好きだ。愛している。」
「…ッ!!!」
ラウラが自分に好意を抱いていることを気付かない程、赤井は鈍い男ではない。むしろ彼女が気付く前から察していた。
故に赤井はラウラの返事がわかりきっていた。だから自信をもってこう言ったのだ。「返事はYesかはいしか聞かんぞ」と。
それに対してラウラは頬を赤くして目を逸らしてから数秒、あることに気付いたのかニヤッと笑って赤井に向き直った。
「ねぇ、秀一さん。………私の秘密、わかった?」
「……、」
その次に続く言葉が想像できてしまった赤井は苦い顔をして頭を抑えた。
( まさか、ウソだろ。そんなことがあるのか? 鬼か? )
そのまさか、である。
「私の秘密がわかるまで、返事は保留でーーす!!」
満面の笑みでそう言われてしまえば赤井は唸ることしか出来なかった。心底楽しそうな笑顔が可愛さ余って憎さ百倍だ。だが赤井に不安な気持ちは一切なかった。
「だから謎を解き明かすまでは……、これで我慢ね♡」
そうやってわざとらしく音を立てて唇の横にキスをするラウラを愛おしさのあまりぐしゃぐしゃにしたくなった。
答えなんてわかりきっている。口には出さないくせに行動でわかりやすく伝えてくるラウラが愛おしくて、楽しくて、面白くて。目が離せない。
「フッ……いいだろう。」
「ふふふっ、そうこなくっちゃ!」
こうして、早くラウラの秘密を暴いて彼女の口からYesの返事を聞きたい赤井と、早く秘密を暴いてもらって大きな声でYesの返事をしたいラウラの、不毛な闘いが始まった。
