二人だけの秘密
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今日この日、我々は600gという大量の鶏もも肉を前に得物を取り出した。
鈍色に光る刃が二つついて重なり合ったそれを動かすと、何でも紙のように切ることが出来そうな、鉄と鉄が擦れる鋭利な音がする。そこに肉を入れて力を入れれば何の抵抗もなく切れた。
すっかりキッチン鋏大好きお兄さんになった秀一は次々と肉を切り裂いていく。きっちり一口サイズだ。
流石に600gを一人で切るのは骨が折れるため援護しようとラウラもキッチン鋏を取り出せば、手で制された。
「……」
一人で切れるのかと目で問いかければ、しっかりとまばたきで返された。全部自分で切りたいらしい。「どんだけキッチン鋏が気に入ったんだFBI!!」という金髪褐色肌ベビーフェイスの叫び声が聞こえた気がした。
そのうち肉だけではなく挟めるもの全てキッチン鋏で切るようになりそうと思いながら、ラウラは味付けの準備をした。
生姜醤油味と塩ニンニク味の2種類展開の予定だ。
生姜醤油味は醤油、みりん、酒、砂糖にすりおろし生姜をこれでもかというくらい入れる。チューブではなく生の生姜をすりおろした方が味がしっかりするためラウラは後者を採用している。
塩ニンニク味は塩、鶏がらスープの素、砂糖、酒、ニンニク。このニンニクもチューブではなく生がベストだ。
余談だがラウラはすりおろす作業が好きではなかった。皆一度は皮膚をすりおろした経験があるだろう。爪が欠けることもある。小さくなってきた時の持ち方も困るし、腕も疲れる。そのくせ労力に対しての成果はほんの少ししかないのだ。費用対効果が悪すぎる。
よってラウラは、鶏肉の前に秀一に生姜とニンニクを擦りおろしてもらった。「擦りおろす作業をしたことないから丁度いいし」と自分を正当化した。
あとは半分に分けてキッチンバッグに入れて、それぞれの味がしっかりと染み込むように揉み込む。そして冷蔵庫に数時間から一日放置する。
18時すぎ、ラウラは秀一とキッチンに並んだ。メニューが決まっていて、仕込みも完璧なので気が楽である。
小鍋にサラダ油をひっくり返す勢いで入れる。とぷとぷと音を立たせながら油を入れることなど、揚げ物以外ない。三分の一ほど減ったサラダ油を見た秀一が少し引いていた。
「そんなに使うのか…」
「そーだよー。お肉が多いから、もしかしたら追加するかも。」
「追加…、」
そう呟いたきり動かなくなってしまった秀一に、ラウラは面白がってさらなる追撃を与えた。気分は豆と柴犬が合わさったあの緑色のマスコットだ。
「ねぇ知ってる? ………サラダ油ってね、大さじ1で120kcalあるんだよ」
「!!!」
案の定驚いて目をひん剥いている秀一が面白くてラウラは腹を抱えて笑った。
つまり小鍋に入った油だけで、計算したくないほどのカロリーが含まれているのだ。そんなカロリーの海とも呼べる油で揚げられたものが高カロリーになるのは当然のことだ。
気を取り直して中火で火をつけ、油の準備ができるまでに肉に片栗粉をつける。
「全体的に白くなるくらいつけて、最後にちょっとはたくの。あんまりつけすぎると油が汚れちゃうから。」
「……これくらいか」
「あ、そう。それくらい。」
粗方準備が終わる頃には油の準備が出来ていた。試しに小さな欠片を入れてみるとジュワァという音を立てて細かい泡が出てきた。いいタイミングだ。
「じゃあ一度に4個か5個ずつ揚げよう。当たり前だけど投げ入れると跳ねて火傷するから、そっとね。」
「……あぁ、わかっている。」
本当に大丈夫だろうか。硬い表情の秀一に笑いそうになるがグッと堪える。初めての揚げ物はFBIの凄腕狙撃手でも怖いのだ。
「……っ!!」
サッと入れた瞬間に跳ねる油を警戒してシュパッと手を引く秀一の気持ちが手に取るようにわかる。いつも堂々としてて物怖じしないためビクビクする秀一が新鮮だ。
「入れたぞ」
「そしたらちょっと放置。でも揚げ物やってる時は目の届く範囲にいなきゃダメ。火事になるから。」
「わかった。……キツネ色、だったか。何キツネだ?」
「え、えっとーーー、なんだろ。」
まさかキツネの種類を聞かれるとは思わなかったラウラは即答できずに視線を彷徨わせる。
そもそもキツネ色というのはあくまでも目安であって、全てがキツネと同じ色になるわけでもないし、キツネと言われて想像する色でいいのだ。
ということを説明すると一応納得したようだ。
「あ、それもういいよ」
「む。……これか。」
「そうそう。はい、こっちにおいて」
揚げ物用の網がついたバットにからあげをのせる。油から出してもジュワジュワしているそれを見て秀一が不安そうな顔をする。
「大丈夫。余熱でジュワジュワしてるだけだから。ほら、他も出して次のお肉入れないと。」
「っあぁ、そうだな。」
「で、この後二度揚げするよ。高温でサッと揚げてから余熱で中まで火を通して、その後もう一度揚げることで中はジューシー、外はパリッとするの」
「ホォーーー」
菜箸で油の中から取る時は迷いがないが、入れる時におっかなびっくりする秀一が愛おしい。料理のことになるとポンコツになる。こんな彼を知っているのはラウラだけだろう。
別の肉を揚げている間に、余熱で中まで火を通す。そして一度目の揚げを完了した肉を取り出し、余熱で火を通していた肉を入れる。この繰り返しで600gの肉を次々と唐揚げに変えていった。
付け合わせはさっぱり系が良いため、コールスローを作る。スライサーを使用してキャベツと人参を千切りにする。塩を揉み込んでから10分置き、水気をよく絞る。コーンと千切りにしたハム、マヨネーズや酢、砂糖を加えて、よく混ぜれば完成だ。
簡単に豆腐と長ネギの味噌汁も作って、テーブルに並べた。
早速メインの唐揚げを口に放り込む。はふはふと熱い空気を逃しながら噛むと、じゅわぁ〜と肉汁が溢れた。
「ん〜〜!!! 味が染みてて美味しい!!」
鶏肉特有の臭みもなく、味が奥まで染みていて非常に美味しい。続けて塩ニンニク味を食べるとガツンとニンニクが香った。どちらも米が進む味である。つまりは酒も進む味である。
「……これに酒を合わせないのは唐揚げへの冒涜だ。」
そう言いながらウイスキーを取りに行った秀一にラウラはケラケラと笑った。
「ラウラも飲むか?」
「お願い♡」
「了解。」
二人の晩餐は今日も穏やかに過ぎていった。
