彼女の秘密
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材料は卵、バター、牛乳。ご飯、鶏肉、玉ねぎ、にんじん、ピーマン、ケチャップ。
作業台に並んだ材料たちを示して、ラウラは赤井にクイズを出した。
「さて、今日の晩ご飯はなんでしょーか!!」
先日ラウラがプレゼントしたネイビーにホワイトのステッチが入ったエプロンをつけた赤井は、顎に手を当てて考えた。
事件のトリックを推理しているわけでも、難しいことを考えているわけでもなく、ただ今日の晩ご飯のメニューを考えているだけというのがポイントだ。そんな真剣に考えることではない。
赤井はこれまで彼女から教わった料理の知識を総動員して考えた結果、答えに辿り着いた。そして律儀に手を挙げる。
「……はい。」
「お! では答えをどうぞ!」
「オムライス、だな?」
「ピンポーン! だいせいかーい!」
一応疑問形だが、赤井は自信満々に言いきった。顔が良い。
「……」
オムライスであることが確定した瞬間、なんとなく強張った顔をした赤井の不安が、ラウラには手に取るようにわかった。
今まで赤井が作ることが多かったのは煮込み料理。先日ムニエルなどの焼くだけ系にも手を出したが、どちらにしろ材料切ってから一工程で終了だ。
だがオムライスはチキンライスを炒める工程と卵を焼く工程の、最低でも二工程ある。料理初心者にとっては急にハードルが高くなったように感じるのだ。
だが安心して良い。
「自分には難しいって思っていません?」
「…あぁ。破く自信がある。」
どこかのCMにありそうな会話になってしまったが、本当に大丈夫だ。───と言えば言うほど信用が薄れていく。
「大丈夫です。ちゃんと初心者向けの優しいオムライスから始めるので! いきなりとろーり半熟オムライス作れ、なんて言わないですよ〜」
「いずれ作ってみたいものだがな。ラウラは作れるのか?」
オムライスといっても様々な種類のオムライスがある。
基本のオムライスとも呼べるひし形から、ナイフで切ったら半熟の卵がとろりと溢れ出すものや、ドレスオムライスなど。
「ナイフで切ったら卵がとろーんっていうのが無理ですけど、それ以外はひと通り作れますよ。あれは火加減が難しくて、何回やっても卵が綺麗に流れないんですよね〜」
そんな風に口を動かしながら野菜を切っていく。玉ねぎを微塵切りにする時に同じタイミングで大きく息を吸うものだから、互いに目を合わせて笑った。
「あっははは! お互いビビりすぎですよね!」
「フッ、最初の時が本当に辛かったからな。もう二度とあんな経験は御免だ。」
あの時は沖矢だったが、実際赤井が玉ねぎを切ったせいで目を真っ赤にしていたと思うとさらに面白い。
ラウラが目を真っ赤にした赤井を想像してクスクス笑っていると、その気配を察知したのか赤井は少し口角を上げながら「何を笑っている」と注意した。
「なんでもないです〜」
ラウラは無理やり会話を終わらせると、野菜を切るために包丁を握り直した。
熱したフライパンでバターを溶かし、そこに肉と野菜を入れて炒める。火が通ってきたらご飯とケチャップを入れてコンソメの顆粒で味を整える。
そこまで終われば、出来たチキンライスはフライパンごと端に寄せて放置だ。
いよいよ、卵にうつる。
「じゃあまずは卵割って〜」
ラウラはいつも通り、流しのヘリに卵を2回あてて片手でパカッと割った。綺麗な卵がボウルに落ちる。それを赤井は信じられないものを見るような目で見た。
「……っなんだ、今の技は。」
「ぷっ!!! 技でもなんでもないですよ! ただ片手で卵割っただけですっ!!」
ただ片手で卵を割っただけだが、大袈裟に "技" という赤井。片手で卵を割れるようになれば、なんとなく料理上手になったような気がするではないか。
これは何としてでも会得したい。そう思った赤井は腕まくりをして気合いを入れた。
「まずは片手で卵を包むように持って……軽くですよ? 秀一さんなら握っただけで潰しちゃいそうなので。」
「流石にそんなことはしないさ。」
親指、人差し指、中指で卵を掴み、あとの二本は添えるように持つ。
赤井の手が大きすぎるからか、持ちにくそうだが仕方がない。
「次は平たい場所に2回ほど打ち付けます。程良い力加減で!」
「ラウラはここに打ち付けていたが?」
「私は慣れているので!!」
言外に「初心者マークの秀一さんは大人しく言うことを聞きなさい」と言えば、赤井は少し拗ねたようにムッとした。
赤井は一見近寄りがたく冷徹な人間に見えるが、意外とわかりやすい人間だ。
コンッ…
ラウラが程良くと言ったからか、赤井は卵が割れないようにほんの少しだけぶつけた。全くヒビが入っていなくて思わず吹き出す。
「ぷっ」
「……笑うな。」
「いや、ごめんなさい……フフッ、ちょっと無理です笑っちゃう!」
赤井も笑いながら、何度か卵を作業台にぶつけた。数回目で良い音がして殻にヒビが入っているのが見えた。
「そのまま卵を上下に開けるんです! あ、待ってそこで開けないで?! ここ! この上で!!」
赤井が下に受け皿も何もないところで割ろうとしたのを見て、ラウラは慌てて卵の下でボウルを持った。
カパッだかキャパッだか良い音をたててから中身がボウルに落ちた。赤井の手に残った殻は綺麗に半分に割れており、初めてとは思えないほど上手い。ラウラでさえ、会得するまでに卵を3個も犠牲にしたというのに。
「すごい!! 上手!!」
「なるほど、コツは掴んだ。」
「お、言いますねぇ。まだ1回しかやったことないのに!」
「フッ、まぁ見てろ。」
自信満々の笑みを彼女に向けた赤井は、次の卵を手に取って作業台に打ち付けた。
ガンッ
「……」
「………だいぶ良い音がしましたが大丈夫ですか?」
先程よりも大きく深く入ったヒビに、赤井は動きを止めた。卵をひっくり返し、ヒビを確認すると慌ててボウルに卵を割り入れた。先程とは違い、卵に小さな殻が入ってしまっている。
「……修行あるのみだな。」
「あっはははは!!」
ラウラは可笑しくて仕方がなかった。ただ卵を割るという行為でこんなに笑うことなどないだろう。
ラウラは目尻に浮かんだ涙を軽く拭うと、気を取り直して指示を出した。
「じゃあ卵をかき混ぜて……白身を切るように! 牛乳も入れてくださーい」
ラウラが冷蔵庫からバターを出したり、余った野菜を片付けたりしている間、赤井は卵をかき混ぜ続けていた。おかげでボウルには綺麗な卵汁が出来ていた。
さあ、ここからが勝負である。
フライパンを熱し、くっつき防止のため多めのバターを入れる。溶けたバターをフライパンに満遍なく広げ、いざ卵を投入。
「卵を広げたら混ぜないで待機。端の方が固まってきたら火を止めます。」
「……もういいか?」
「まだです」
「…………もういいか?」
まるでかくれんぼである。
だが赤井がフライパンを見つめる横顔は思いの外真剣だった。
「…よし! 止めてください!」
その瞬間に急いで火を止める赤井は、電気を一秒早く消せば地球温暖化が解決すると信じている小学生のようだった。
「じゃあ卵の真ん中に、細長くチキンライスをのせてくださーい。自分の食べれる量をどうぞ!!」
「破けないか?」
「大丈夫です。ほら、急いで! こうしている間にも余熱で固まっていきます!!」
素早く、それでいてかなりの量のチキンライスを容赦なくのせる赤井。破けないと言ったものの、流石に多すぎるチキンライスにラウラの顔が引き攣る。
「じゃああとは、フライ返しで端を持ち上げてチキンライスにかぶせてください! ちゃんとオムライスの形になるように。」
「…なるほど、こうか」
「そうです!」
大きな平皿をひっくり返してフライパンにかぶせ、皿を押さえながらフライパンをひっくり返せば完成である。
「あっはは!! 大きすぎ!!」
「……オムライスだ。」
完成形を見て、ようやく自分がオムライスを作ったことを自覚したのか、そう発した赤井はやはり幼く見えた。
「作れましたね、オムライス。難しくなかったでしょう?」
「あぁ、これなら俺一人でも出来そうだ。」
「じゃあ私の分もお願いしまーすっ」
「任せておけ」
そうして出来上がったオムライスと、付け合わせのグリーンサラダで夕食にした。
ラウラの分も、もちろん赤井の分も。デカデカとケチャップで描かれたハートが卵の黄色に眩しいほど映えている。
もちろん描いたのはラウラである。オムライスといえばケチャップで文字や絵を描くのが当然である。ラウラがハートを選んだのは、まぁそういうことだ。
「うまい」
「ふふっ、それはよかった」
「外側は固まっているが、内側は半熟でいいな。どちらの食感も楽しめる。半熟の卵がチキンライスに絡むとさらにうまい。」
「秀一さんもレパートリーだいぶ増えましたよね〜。覚えるのも早いし、私も一緒に料理してて楽しいです」
穏やかに笑ってからオムライスを口に入れたラウラは次は何を一緒に作ろうかと考えを巡らせた。
( 焼く系も結構出来るようになったからね〜……とすると、次は揚げ物? )
揚げ物は後処理がめんどくさいのだ。しかし煮る焼くときたら次は揚げるだろう。
( 様子見ながらだけど、今度唐揚げ作ろうかな )
揚げ物の定番、唐揚げ。嫌いな者はまずいないだろう。
ラウラは赤井と並んで揚げ物する日を想像しながら、最後のオムライスを口に入れた。
