二人だけの秘密
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
コナンは躊躇いなく7号車のB室の扉を開け放った。当然、頭から血を流した男性がいると思っていた。しかし目に映ったのはカップ片手にくつろぐ蘭と園子、そして世良。
「え?」
コナンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「あら、コナン君」
「レディの部屋に入る時はノックぐらいしなさいよ!!」
「あ、いや………ここって7号車だよね?」
「はぁ?? ここは8号車! 」
「たった今ボクが遊びに来たところさ!」
コナンたちは7号車から逃げた犯人を追いかける途中で6号車に移動した。見失ったためまた隣の車両、つまりは7号車に移動したはずなのに、なぜか8号車にいる。部屋を辞したコナンが顎に手を当てながら謎を考えて歩いているとすぐ近くの個室の扉が開いた。中から出て来たのは阿笠だ。
「おお! どうじゃった、推理クイズの方は!」
「え、博士!? そこって俺たちがさっきまでいた部屋か!?」
「そうじゃぞ! ……ほれ、君たちがさっき食べてたお菓子もそのままじゃ。」
部屋の中を見て確かにさっきまでいた部屋だと断定したのだろう。コナンはスッキリした顔で7号車のB室に向かった。
「ねぇねぇ、ここって本当の本当は7号車でしょ? 蘭姉ちゃんたちも僕たちがもらったみたいなカードをもらったんじゃない? そこに書いてあったんでしょ。7号車の人と入れ替わって、探偵役を騙して迷わせてくれってね!!」
「……すっごーーーい! コナンくん大正解だよ!!」
コナンの推理通り蘭たちも同じような手紙をもらい、被害者役の人と部屋を入れ替わったようだ。コナンに当てられて逆ギレしている園子に苦笑いしながら、ラウラは世良が持っているカードを見せてもらった。
視えたのは制服を着た男が手紙を置いていく姿。ラウラたちがもらった手紙も同じ人が置いていった。だが車掌の話が正しければ事件はあと1時間後に発生するはずだ。では一体誰が、何の目的で偽の事件を用意したのか。
手紙片手に難しい顔をしているラウラを世良が覗き込んだ。
「どうしたんだい? 釈然としない顔して。」
「んーん、なんでもない。気のせいだったみたい」
「そっかー、ならいいけど。……困ったことがあったらすぐに言ってくれよ? ラウラさんのことはボクが守るからさ。」
愛している人とよく似た目で、大好きな人とは違う笑顔で、秀一と同じことを言う世良にラウラは一瞬グラッときた。秀一の面影を感じる顔でそんなこと言われたら、流石に心臓が音を立てる。
「ありがと♡」
「……ッうわ!! それ反則だよラウラさん!!!」
10も年下の女の子にやられっぱなしは性に合わないと、ラウラは世良の耳元でリップ音を鳴らした。顔を真っ赤にして耳を押さえる世良ににんまりと笑う。
「じゃあ8号車に戻ろうぜ!」
「そうね! 今頃あのおじさんが一等車でくつろいでると思うとムカつくし!」
ぞろぞろと8号車に向かおうとしたとき、世良はラウラと手を繋ぐ灰原と目線を合わせるように膝を折った。
「君とは初めましてだよな?」
「え?」
「君だろ? 灰原って子。……君とは一度、お話ししてみたかったんだよね」
( あっはは、そっくり…… )
そう言いながら灰原に顔を近づける世良に、ラウラは秀一の面影を見た。距離の詰め方や恐怖心を煽るところまでそっくりである。
と思った瞬間、世良は顔を険しくして廊下を覗き込んだ。
「誰だ!!」
「え、なに?」
「……今、扉越しに誰かが覗いていた気がしたんだけど……気のせいだったみたいだな…」
視線に全く気付かなかったラウラは扉にそっと触れた。その一秒にも満たない時間で、確かに秀一の姿をしたベルモットが室内を窺っていたことを知る。
「……7から6にV。」
ラウラは襟元につけた盗聴機に向かって小声で言った。
ラウラがこの列車に乗り込む条件は、盗聴機と発信機をつけて状況を報告すること。灰原と行動をともにするラウラの状況を把握することは、灰原の行動を把握することとほぼ同意。
だが最大の理由は、万が一ラウラが巻き込まれた時に、すぐに状況を把握して助けられるようにするためだ。誰が言い出した条件なのか考えるまでもないだろう。
( はぁ〜、今日も大好き♡ )
ラウラは彼の愛を感じる襟元にそっと触れた。
それによって生じた酷いノイズ音に秀一が笑っていたことなんて知る由もなかった。
ということで、皆でぞろぞろと8号車のB室に戻ってきたのだが、問題が発生した。チャイムを鳴らしても出て来ず、仕方なくドアノブを回せば扉が開いた。チェーンがかけられているため完全には開かないが、それでも中の様子を把握するには充分だった。
「ちょっとおじさん!! いつまで寝てんのー?!」
「あの人寝てるのかい?」
「そうよ! まだ推理クイズの続きしてるのか、頭から血を流してね!!」
「「!!!」」
( え、それって……、 )
嫌な予感を感じたのはラウラだけではなかった。コナンと世良は園子を押し退けると室内を覗き込み、協力してチェーンを砕いて中に入った。室内に充満する硝煙の匂いと血臭に、コナンたちが目撃したのはフィクションでも何でもなかったことを知る。
首筋に触れて脈を確かめた世良が首を振った。
「え、じゃあさっきのが本当の…?」
「あぁ、そうだろうね。君たちは犯人を追いかけていたんだろう? 何か見ていないかい?」
「いやぁ、追いかけるのに夢中でしたから…」
「それに、本当の犯人だなんて思ってなかったもん!」
確かにやけにリアルな殺人現場だとは思った。だが現代の技術を駆使すれば、あれくらい再現出来るだろう。あらかじめ事件が起こると告知されている列車内で本当の殺人が起きるなんて、誰が思うか。それが犯人の狙いだったのかもしれない。
コナンと世良が着々と現場検証を進めていく中、ラウラはゆっくりと身体を壁に預けた。乗車前から今この瞬間も気を張り続けているため、精神的にも体力的にも消耗しているのだ。そこにきて遭遇してしまった殺人事件。ラウラは一気に身体が重くなるのを感じた。先程から頭も痛い。
「慣れてないの? こういうの。」
「哀ちゃんたちは…、慣れてそうだね」
理由を聞くまででもない。彼らは事件に遭遇しすぎているのだ。出掛ける先々で事件に遭遇していれば、それが日常の一部として組み込まれてしまうのだろう。慣れとは怖いものだ。
「えぇ、まぁ。どっかの誰かさんが事件吸引機だから、巻き込まれてるうちに慣れたわ。この子たちもそうよ。」
目線で少年探偵団を指す灰原に、ラウラは本物の小学一年生が事件に慣れてしまう米花町の治安が恐ろしくなった。
「サイレンサー付きの銃を頭から離して打つのは無理があると思うよ。それに自殺する人はサイレンサーなんて使わないし。」
「被害者に発射残渣をつけるために一発余計に打ってる。犯人の手や服にも発射残渣はついているだろうけど、手は洗えば落ちるし、個室の窓が開くから服は処分済みだろうね。」
真純とともに互いの見解を述べて盛り上がるコナンを横目に、ラウラはひどくなってきた頭痛に顔を顰めた。表面的に取り繕う余裕もない。
ギリギリと何かで頭を締め付けられているような、それでいて脳が腫れているような感覚がする。それこそ、膨張した脳みそが鼻の奥や耳から出てくるのではないかと思うほどだ。
十中八九、記憶の視すぎが原因だ。
思えば、一日でこんなに能力を使ったのは初めてかもしれない。使わない日の方が圧倒的に多く、使ったとしても片手で足りる程度。今日のように手当たり次第なんでも視るのは初めてだ。何らかの影響を予想していなかったわけではないが、ラウラもまさかここまでとは思わなかった。
( 泣きたいくらい頭痛い…… )
そんな状態で物事を深く考えられるわけもなく、成り行きをボーッと見守っているラウラの耳に、コナンの叫び声が聞こえた。
「オレが戻ってくるまで部屋に鍵かけて、誰か来ても絶対開けんじゃねぇーぞ!!!」
「なんかお前こえーぞ」
「と、とにかく、殺人犯が彷徨いてて危ないから……」
「……」
急に殺気立ったコナンを灰原が探るような目で見ている。あんな剣幕で怒鳴ったら皆理由が気になるだろうに。
「コナンくんの言う通り、危ないから部屋に戻ってよう? お菓子も食べかけだったでしょう?」
「「「はーーい」」」
ラウラは渋々といった風に返事をする子どもたちの背中を押しながら、真純とコナンに向かって眉を下げた。まだ17歳の二人に任せるのは心が痛むが、適材適所だ。仕方がない。
「ごめんね、私こういうの耐性なくて……さっきから気分も悪いから部屋で大人しくしてるね」
「気にしないでよ、ラウラさん。ボクたちに任せて! ちゃんと部屋で休んでいてよ。」
「うん、ありがとう」
だが、ラウラに休んでいる時間はない。
ラウラの手を自分から握ってきた灰原に、ラウラは灰原がこの事態に気付き始めていることを確信した。
部屋に戻る途中、向かい側から偽者の秀一が歩いてきた。ギュッと手を強く握る灰原に、ラウラは「絶対守るから」という意味を込めて握り返した。灰原にさりげなく窓側を歩かせ、ベルモットと呼ばれる変装の達人との間にラウラが入るようにする。
「……───ッ!!」
隠す素振りもなく灰原に殺気を向けた偽者に、所属する組織の方針関係なく、個人的に彼女に恨みがあるのだろうと思った。お前だけは絶対に許さない。そう聞こえてきそうなほど憎悪に満ちた目だった。
( 仮にも人の恋人の顔でそんな表情しないでよね )
秀一は憎悪に満ちた目はしない。好奇心や獲物を狙う肉食獣のような目はするが、秀一は憎悪に囚われることはなかった。
そして、事態は急速に動く。
16/16ページ
