二人だけの秘密
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カランカラン
ポアロのドアベルが来客を知らせた。食器を拭いていた安室はすぐにその手を止め、出迎えるためにカウンターを出た。
「いらっしゃいませ。……おや、ラウラさん」
安室のよりも色素が薄いアッシュブロンドの髪に、サングラスから覗く南国の海のように透き通った瞳。シンメトリーで美しく整った顔はホリが深く、一目で日本人ではないことがわかる。
「こんにちは安室さん。コナンくんの誘拐事件以来ですね。車直りましたか?」
「えぇ、今はもうピカピカですよ。」
「あの車は珍しいのでかなりかかったと思うのですが…、」
「それなりにかかりましたが、もう売っていないのでね。買い替えるわけにはいかないんです。」
ラウラは「そんな貴重な車を堂々と当てにいくな」という言葉を必死に飲み込んで愛想笑いを浮かべた。
一見和やかに会話する二人だが、本人たちの心の内はそうではなかった。
安室は、あの時沖矢昴が何をしようとしていたか察している。一般人が持ち得ないはずの拳銃をなぜ所持しているのか。只者ではないことは確かである。
その沖矢昴と熱いキスをしていたラウラ。二人が恋仲であることは容易に想像できる。そのためラウラも安室にとっては警戒すべき相手だった。
一方ラウラは、安室透が組織の人間であることを知っている。
だが秀一いわく彼は組織に潜入する正義の人間であること、しかしながら彼がある出来事がきっかけで秀一を殺したいほど憎んでいることも聞いていた。組織の壊滅を目指す者でありながら、秀一の身を組織に突き出してさらに中枢に入り込もうと思っていたことも。
故にラウラにとって安室透は「組織の敵であるが、自分たちの味方ではない」という認識である。
出来ることならもう会いたくなかったが、女子高生3人がどうしてもポアロがいいと聞かなかったのだ。あの若さゆえの勢いを止めることは出来なかった。
「お一人ですか?」
「いえ、蘭ちゃんと園子ちゃんに呼ばれまして。」
「ではテーブル席にどうぞ。」
案内されたラウラはメニューを眺めて彼女たちの到着を待った。
「あ、ラウラさんもう来てる!」
「お姉さま遅くなってごめんなさぁい!!」
「蘭ちゃん、園子ちゃん、真純ちゃんも。学校お疲れさま。」
「今日も美人だなぁ!」
「やだもう、真純ちゃんったら。」
先日の説教がきっかけで世良はラウラに懐いたのか、連絡先を交換して毎日のようにメッセージのやりとりをしていた。おかげで軽口を叩き合う仲である。
皆のドリンクが揃ったところで、園子が待ちきれないとばかりに身を乗り出した。
「そ れ で ? ? 蘭から聞いたよお姉さま!! 昴さんとぶっっちゅーーーって熱いキスをしてたって!!」
「僕も見たよ、そのキス!! なかなか熱かったよね!」
「あぁ、僕も見ましたよ。」
ラウラたち以外に客がいないからか、安室も堂々と会話に参加してきた。
「で、やっぱり昴さんと!?」
皆が見守る中、ラウラは幸せそうに笑った。
「うん。お付き合いしてるよ。」
「「きゃーーーーー!!!」」
「やっぱりきっかけはあの強盗事件か?」
「強盗?」
例の強盗事件を知らない安室に、蘭と園子が事情を説明する。
「ちょっと前にラウラさんの家に強盗が入って、その強盗は捕まったんですけど、闇サイトにラウラさんの家のことが書いてあったんです。」
「偶然クラスメイトがそのサイトを見つけて、世良さんが警察に通報して封鎖してもらったんだけど、一度出回った情報は消せないからねー。しばらくラウラさんを守るために昴さんが住んでたのよ。」
「……なるほど、それで付き合い始めたと。」
そうやって言われると、まるで吊り橋効果で付き合い始めたかのように聞こえる。ラウラはそんな一時的な感情ではないのだと否定した。
「んー、それより前からずっと気になっててね。私、昴が工藤家に住み始めてからずっと料理教えてたの。」
「つまり昴さんは胃袋を掴まれたってことね!? アタシも京極さんの胃袋掴めるように料理練習しようかしら!!!」
「その点、蘭君は問題ないな! 毎日料理してるだろう?」
「そうね、蘭なら新一くんの胃袋掴めるわ!! アタシが保証する!!」
なぜか自分の胸を叩いて自信満々の園子の言う通り、新一はもう随分前から蘭に胃袋を掴まれている。
「具体的にはどんなところが好きなんだい?」
「なぁに、世良さん。意外とグイグイいくわねぇ。そんなに気になるの?」
「まぁな。ラウラさんは美人で可愛いし、身体つきもエロいから変な男に引っかからないか心配なんだ。」
「身体つきがエロいって……もう。そんなこと言う真純ちゃんにはお胸で窒息の刑に処すわよ?」
「良いのかい?!」
「そこ、喜ばないの。」
身を乗り出してきた世良の頭を園子がペシッと叩いた。ラウラはクスクスと笑うと、頬を緩めながら上を見た。彼女の視界には昴の姿が見えていることだろう。
「好きなところかー。……私の全てを丸ごと愛してくれるところかなー。私のこと信じてくれて、弱音吐いても受け止めて包み込んでくれるところ。」
憧れのあの人と目があってドキドキしたり、話すことができてキャーキャーしたり。手を繋ぎたくても勇気がないとか、初めてキスをしたとか、そんな若い恋ではなく、もっと先の話。
壮大な愛を感じて、女子高生3人の顔が赤くなった。自分たちの恋がひどく幼いもののように思えた。
「昴さんってそんな感じなんですね……ちょっと意外。」
「そうかぁ? あのタイプは結構独占欲強そうだけどなぁ」
実の妹にそう評価される秀一にラウラは笑いを堪えるのに必死だった。
「安室さんは好きな人いないんですかー?」
「え、僕かい?」
急に矛先を向けられた安室も女子高生の勢いに押され気味だ。
「んー、今は誰かと付き合うとかは考えられないかな。」
「えぇーー!? そんなイケメンなのに!? もったいない!!」
「僕は探偵だし、推理している方が楽しくてね。それに、プライベートでも女性に振り回されるのは勘弁かな。」
安室の脳裏には、己を便利な運転手とみなして散々コキ使ってくる金髪の女の顔が浮かんだ。
昨日もバーからホテルまで送れと夜中の三時に呼び出されたのだ。おかげで安室のただでさえ少ない睡眠時間はさらに減り、重たい身体に鞭を打ってポアロに出勤している。
「そういう蘭ちゃんはどうなの?」
「え、私ですか!?」
「うん。新一くんとは最近会えてる?」
「いえ、会えてはいなくて…。でも電話とかメッセージのやりとりは結構多いですよ」
「……そっか。早く帰ってくるといいね。」
「はい!」
会いたくて寂しいときもある。ただ、会えない時間が愛しさを積もらせるのもまた事実。会えない時間があるからこそ、会えた時の喜びがより一層深まるのだ。
ラウラは女子高生3人の恋の話に耳を傾けながらカフェオレを飲み込んだ。
