二人だけの秘密
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樫塚圭という女性によってコナンが誘拐されたことを知った阿笠は、予備の追跡メガネを使ってコナンの行方を追おうとしていた。だが阿笠のビートルは修理に出しており、今は手元にない。
仕方なくタクシーに無理を言って追ってもらおうと思ったところに、盗聴機で全て内容を聞いていた沖矢がクリームシチューのお裾分けという口実でやってきた。
「それなら、私のスバルで追いましょうか。」
「車のキーだけ貸して。あとは私たちで追うわ。」
「私のスバルは少々クセがありまして、私でないと運転するのは難しいかと。……それに、君は留守番しててもいいんですよ。ここでコナン君の安否にやきもきしながら待つことに、君が耐えられるなら、ね。」
怯えたように阿笠の後ろにいる灰原は少し悩んでから、こう言った。
「ラウラさんも連れてきて。」
という情報を、急に「すぐに出るぞ」と言われて連れ出されたラウラに、「この記憶を視て状況を把握しろ」と言わんばかりに着けていた腕時計を渡した昴は、彼女の能力に適応しすぎている。確かに説明が面倒な時は非常に有効な手段ではある。
「もう、あんな風に煽るから怖がられるのよ、全く。」
何を言っても無駄だとわかっているが、あそこまで怖がる灰原を見ていると、いくら中身が味方だと知っていても可哀想になってくるのだ。
「すまんのぅ、昴君も。ラウラ君も。」
「ラウラさん、ありがとう、来てくれて。」
「いいよいいよ。哀ちゃんのご指名を受けたら来ないわけにはいかないもの。それに、コナンくんも心配だし…」
口ではそう言いながら、ラウラは静かに怒っていた。
( どうせコナンくん、いや新一くんは彼女が犯人だってわかって着いて行ったのよ。 )
自分は大丈夫と。数々の事件を解決してきた自分なら、今回も自分の力だけで事件を解決できる、と。
そんな彼の行動によって一体どれだけの人間が心配して動き出すか、全くわかっていない。
「次はどこに?」
ハンドルを握る昴は、後部座席にて追跡メガネでコナンの位置を読み取る灰原に声をかけた。
「そこの信号を左に曲がって。それから真っ直ぐ5km先ってところかしら。」
「それなら10分程で追いつきますね。」
「蘭ちゃんに電話したほうがいいかな」
「いや、辞めておいた方がいい。ボウヤが今どんな状況なのかわからないからな。最悪、ぬか喜びさせてしまう可能性もある。」
「そうさせないために貴方がいるんでしょ?」
「フッ、まぁな。」
昴の影から秀一が出てきている。ラウラは注意を込めて彼の脚をポンポンと軽く叩いた。
犯人の車が見えてもおかしくない。そんな場所まで来た時、ラウラは久しく聞いていなかった音を耳にした。
「!!! 今のは!!!!」
「銃声ですね。」
「コナンくんは大丈夫なの!?」
「あれよ!!! あの青い車に江戸川くんが乗っているわ!!!」
目の前を通り過ぎた車に向かって灰原が叫んだ。昴はすかさずハンドルをきって青い車のすぐ後ろにぴたりとくっつけた。
青い車を見失わないように後を追っているが、このままではいつまでも追いつくことができない。
( どうするんだろ……なにか策でもあるのかな )
なんて呑気に考えていたラウラの耳に、信じられない言葉が聞こえた。
「ラウラ、ハンドルを頼んでいいか。」
「……はい??」
「いい返事だ。」
今のは語尾が上がった「はい??」であって、了承の意味ではない。そう叫びたくとも昴は既にハンドルを離しており、ラウラは慌てて手を伸ばした。
昴は右手を巻き込むようにシートベルトをドアノブに巻きつけると、右半身を外に出して胸元に左手を入れた。
「嘘でしょ?!」
そこに拳銃があることくらい見なくてもわかる。発砲して無理矢理にでも止める気なのだろう。当然、秀一は車が真っ直ぐ走行するものだと仮定して狙いを定めるだろう。つまり、ラウラがハンドル操作を誤ったら終わりである。
「…!!」
その時、昴のすぐ隣を白いスポーツカーが追い越していった。運転席にいる者と一瞬だけ視線を交えた昴は胸元の手を引き抜くとそのまま扉を閉めた。もちろん手に拳銃はなく、何事もなかったかのように再びハンドルを握る。
「もう大丈夫だ。」
「何が大丈夫なのよ」
「……あとは彼に任せよう」
( 彼? )
一体誰のことだろうか。首を傾げながら前を向いたラウラの目に、コナンと犯人が乗る青い車の前に自分の車を入れてぶつけて止める猛者が映った。あんな高い車を遠慮なくぶつけにいく鋼のメンタルと財布の持ち主を見てみたい。と思ったらそれは知っている顔だった。
「安室さん!?」
いくら人命がかかっているとはいえ、あの高く希少な車を自分から大破させにいく勇気はラウラにはない。「修理代いくらだろう」と思ったラウラだったが、思考の海に沈むことを許さないとばかりに目まぐるしく状況が変わっていく。
今度はコナンを抱えて出てきた犯人の顔面を、バイクの前輪で殴って気絶させる別の猛者がいた。
「えぇぇぇ!?」
「……フッ、流石に派手だな。」
ヘルメットを取ってコナンに抱きついた顔はラウラもよく知っているものだった。
「真純ちゃんじゃない!!!」
世良は完全に伸びている犯人には見向きもせずコナンに頬擦りしている。呆気に取られたラウラだったが、数秒後車を飛び出した。
「真純ちゃん!!! ダメでしょ、バイクの前輪で人を殴っちゃ!!!!」
「ラウラさん!! 仕方なかったんだ、コナンくんの命がかかっていたからな」
「だとしても、過剰防衛だと思われてもおかしくないでしょう? しかも車の上に乗るだなんて……落っこちて怪我したらどうするの!」
「ごめんごめん」
ラウラは犯人の心配は全くしていない。彼女が心配しているのは世良の未来だけだ。過剰防衛で訴えられて世良の経歴に傷がつくこと、車の上に乗ったことで怪我をすること。それを心配している。
自分を助けようとしてくれた世良が怒られているのを見て庇おうとしたのか、コナンが控えめにラウラの名前を呼んだ。
「ラウラさん、世良の姉ちゃんはボクを助けようとして……」
「大体、コナンくんも後先考えなさすぎなのよ!! 蘭ちゃんや毛利さん、真純ちゃんだけじゃない。昴に哀ちゃん、阿笠さんだってすごい心配して追って来たんだから!! もちろん私も。 ……自分の行動がどれだけ周りの人に影響を与えるのか、よく考えなさい!!!」
「……、」
コナンはいつもそうだった。もちろん事件を解決することも多い。しかし事件に首を突っ込んだ結果、身体が縮んでしまうという取り返しのつかない事態になったのだ。にも関わらずコナンは事件が発生すれば自ら渦中に飛び込む。それによって周りの人間がどれだけ心配するか全く考えていないのだ。
「まぁまぁラウラ、そこまでに。目立っていますよ。」
息を荒げていたラウラは後ろから抱き締められたことにより、少しだけ我に返った。確かに周りから見れば「誘拐された小学一年生を全力で叱る大人」という大変よろしくない光景だ。本当は高校二年生だと弁明したいがそれも出来ない。
「っはーーー」
大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせようとしたラウラだったが、あることに気付いた。後ろにいる男も先程、ラウラにとんでもないことをさせようとしたのだ。
「大体昴も……っ!!」
ラウラは物理的に口封じされた。
コナンに蘭、世良が顔を赤らめつつ、しっかり見ているのが横目に見える。
ラウラがキスをしたまま目を開けて昴を睨みつければ、薄く開かれた瞼から見えたオリーブグリーンに心が凪いだ。
何度も角度を変えて口付けされ、しばらくしてから開放される。
「私への文句は帰ってから聞きます。」
「………とびっきり甘やかしてくれないと許さないから。」
「仰せのままに。」
ラウラは昴の肩に額をぐりぐりと押し当てて文句を言うと、数秒後には何事もなかったかのように顔を上げた。
「怒鳴っちゃってごめんね。でも、私もすごく心配したの。私以上に心配した人がいっぱいいるから、探偵ごっこもほどほどにね。」
「……うん。ごめんなさい、ラウラさん。」
「ううん、私には謝らなくていいよ。他の人に言っておいで。」
「うん」
素直に蘭と小五郎の方へ向かった小さな背中を見送る。
「真純ちゃんも怒鳴っちゃってごめんね。真純ちゃんもまだ若いんだから、自分のこと大事にしなきゃダメよ? 嫁入り前の身体に傷がついたら大変なんだから。」
「うん、ありがとう、ラウラさん。」
世良は照れたように鼻の下を指で擦った。
「いやぁ、こんな風に誰かに心配してもらったのなんて久しぶりで……」
「ご両親は?」
「父さんはいないし、母さんは心配してくれるけど、基本放任主義だからなー。ボクがある程度自衛出来るってこともわかっているから、特にね。」
「そっか……」
ラウラは耐えられず世良を抱き締めた。鍛えられているのがわかるが、それでも女の子らしい細い身体だ。この身体で犯人に立ち向かうのは相応の勇気が必要だっただろう。
「何かあったらすぐに連絡していいから。」
「……へへ、ありがとうラウラさん」
世良は久しぶりの温もりに心がほぐれていくのを感じながら、眉を下げて笑った。
