二人だけの秘密
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ひと仕事終えたラウラは休憩するために仕事部屋から出た。すぐにバディが寄ってきてショートパンツから伸びた脚にまとわりつく。まるで「お疲れさま」と主人を労わっているようで、ラウラはその背中をポンポンと撫でた。
秀一は昼食を食べ終えてからずっとイヤホンをつけて何かを聴いている。ラウラが邪魔しないように細心の注意を払ってカフェオレを入れていると、イヤホンを外した秀一がやってきた。
「コーヒー淹れる?」
「いや、いい。少し買い物に行ってくる。」
「わかったー。晩ごはんの買い出し? 何にするの?」
「カレーだ。」
「やったね」
嫌いな人はまずいないであろう、代表的な料理。例に漏れずラウラも好きで、時折猛烈に食べたくなるのだ。
夕食がカレーと知らされたら、もうその日の夕食はカレーで固定になる。何がなんでもカレー。他のメニューなど許さん。身体がカレーを求めるのだ。
( やっぱり自信を持って作れるのは煮込み料理なんだね )
ラウラは内心微笑ましく思いながら、降ってきた唇を受け止めた。
いくら自分とはいえ、秀一は沖矢とラウラがキスするのを嫌がる。彼女の目に沖矢の顔が映るのが許せないのだ。彼女にキスをする特権が与えられているのは
だから秀一は、沖矢になる前に必ずキスをする。ラウラはそんなところに愛おしくてたまらなかった。
ネットに真っ黒な髪を全部入れ、上から目と鼻、口の部分に穴のあいたマスクをかぶる。位置を調整し、マスクと肌の境界がわからないようにいくつかのコンシーラーを使ってぼかす。ウィッグを被って固定し、目を細めてメガネをかければ沖矢昴の完成である。
「いってらっしゃーい」
「ああ、行ってくる」
沖矢の顔、秀一の声と口調で出ていった後ろ姿を見送った。
「……ん、」
昴を見送ってからソファで寝てしまったラウラは、トン、トン…ト、トンという若干リズムの悪い音で起きた。音の正体がすぐにわかってしまっただけに、思わず笑ってしまう。
しばらくボーッと天井を見上げ、隣で寝てたバディにおはようの挨拶をして立ち上がった。そしてキッチンの作業台を見て目が点になった。
「どんだけ作るの!?」
作業台にあったのは、まな板を半分以上埋める大量のじゃがいも。これから切るのか大きな玉ねぎ2個とにんじん3本。そして大量の肉のパック。
いくら煮込み料理は分量の調整が難しいとはいえ、これはどう考えても多い。
「阿笠さんにお裾分けしようと思ってな。……というのはただの口実だが。」
「また哀ちゃんにちょっかいかけに行くの? 小学一年生を追いかけてる恋人とか私いやだよ?」
ラウラが冗談半分、本気半分で笑いながら言うと、秀一は昴の目を開けてラウラを見た。その狩人のような鋭い眼に萎縮するどころか、胸を高鳴らせて恋をするラウラに秀一は一生勝てそうにない。
だがはたから見れば小学生女児の同行を監視する変態に見えるのもまた事実。秀一は阿笠邸の生活音をBGMにしながら仕事をしていることもある。たまに酒の肴にしている。
「心外だな。俺は彼女を守ろうとしているだけだ。……それに今回は本当に何かがあったようなんでな。」
「あら、そうなの?」
「どうやら阿笠さんが家にいないらしい。あの少女が帰ってきた形跡もない。」
「うーん……」
ラウラはリビングの窓に寄って外を見た。陽はだいぶ傾いており、小学一年生なら家に着いていてもおかしくない時間である。
「ちょっと
「あぁ、頼んでもいいか? 絶対に中には入るな。インターフォンを押して様子を伺うだけでいい。」
「ん。わかった。」
ラウラは相変わらず微妙なリズムの包丁の音を聞きながら、サンダルを引っ掛けて家を出た。すぐ隣の阿笠邸のインターフォンを押して、そのまま門の記憶を視る。
「宅配便でーす」
ベージュのツナギを着た二人組の男。キャップを深くかぶって顔を見えないようにしており、宅配便にしては怪しい。
阿笠がドアを開けた瞬間、スタンガンを押し当てて気絶させた。二人で抱えてトラックの荷台に押し込み、ガムテープで縛る。
「しっかしマジでデケェ家だな。たんまり持ってそうだな」
「だろぉ? 前から狙いつけてたんだぜ! 近所にも発明品を配ったりしているらしい」
「期待大だな」
( うん、誘拐だね。身代金目的っぽいから、とりあえず命の心配はなさそう )
隣人が誘拐されたにも関わらず、意外と冷静な自分にラウラも驚いた。犯罪都市米花町に馴染んできたことに嬉しいような嬉しくないような、微妙な感情だ。
「誘拐されたみたい。身代金目的っぽいよ」
「なるほど。稼いでいると思われているのか……あの少女は?」
「哀ちゃんは学校に行ってから一度も帰って来てないからわかんない。少年探偵団のみんなで遊んでるならいいんだけど…」
コナンも灰原も元は17歳と18歳である。年相応に頼りになるため、生粋の小学一年生三人組を連れ回してこんな時間まで遊ばないだろう。
昴は炒め始めた鍋をかき回しながら言った。
「これを軽く煮詰めたら探しに行く。」
「探しに行くって、あてでもあるの?」
「あのボウヤが持っているメガネの予備があったはずだ。あれは少年探偵団のバッジについた発信器の電波を受信して、位置がわかるようになっている。それを拝借していくさ。……一緒に来るか?」
思わぬお誘いを受けてラウラは顎に手を当てて迷った。
護身術も何もやっていないラウラが行っても足手纏いにしかならない。だが昴が彼女を誘うということは、組織は関係ない所詮素人の犯行。秀一の敵ではない。
「行く! でもバディも連れて行く。警察犬代わりに」
「じゃあ準備してこい。」
ラウラは急いで2階に上がって準備した。動きやすいようにジーパンにTシャツ、パーカーを羽織り、子どもたちが怪我をしていた時用に簡単な救急セットも準備する。
他にも水や菓子を入れて重たくなったショルダーバッグを持って1階に降りた。
「いけるか?」
「うん! 平気!」
流れるようにバッグを取られてそのまま持ってくれるところに、ラウラはまだ見ぬ秀一の母の教育を感じた。
バディも連れて阿笠邸に向かう。もう一度インターフォンを鳴らそうとしたラウラに対して、昴はズカズカと門を開けて入っていく。躊躇いなくドアノブを引けば、何の障害もなく開く扉。当然、中には誰もいない。
「しばらく帰って来ていないようですね…」
「やっぱり哀ちゃんも帰って来てないみたいだね」
引き出しを開けて予備の追跡メガネを探す昴を横目に室内を見渡していると、固定電話が不在着信を知らせるために光っていることに気付いた。履歴を見れば一定時間おきに何度も同じ番号からかかってきていた。
「昴、これ…、」
「ん? ……やはり身代金目的のようですね。これだけかけてきているなら、そのうちかかってきますよ」
と言った途端に同じ番号からかかってきた。
「はい、もしもし」
間髪入れずに受話器を取った昴の度胸に驚きつつ、ラウラも内容が気になり受話器に顔を近づけた。
「…切られました。」
「無言だったね。びっくりしたんじゃない? ……あ、またかかってきた」
再び昴が出るとまた無言ですぐに切れた。やはりこの家にどんな人間が住んでいるかリサーチ済みなのだろう。そのため若い男性の声で出ると、相手は警戒して何も言わないのだ。
「急ぎましょうか。」
「メガネあった?」
「えぇ。」
昴がメガネのフレームを押すと、電波受信用なのかアンテナのようなものが飛び出し、レンズに地図のようなものが映し出された。地図といっても、一定間隔で引かれた線に発信器と思われる赤い点があるだけ。道も目印となる建物もない。
それを見て迷いなく歩き出す彼は、一体そのレンズから何を読み取っているのだろうか。ラウラにはその方向になんとなく向かうことはできても、絶対いつか行き止まりになる。
「ここですね」
歩き始めて15分程。
幹線道路沿いの古いビルの前に着いた。どうやらここに全員分の発信器反応があるらしい。バディも頻りに匂いを嗅いではラウラを見上げている。
シャッターが閉まって電気はついておらず、不気味な雰囲気が漂っている。見るからに怪しい、犯罪の温床になりそうな場所だ。
「行きましょうか」
「あ、うん!」
シャッターを開けて入っていく昴に置いていかれないように、ラウラとバディもビルに突入した。
ラウラが大きな声で「 F B I !」と叫びたくなったのは内緒である。
