彼女の秘密
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「答え合わせを、してもいいか」
ソファで雑誌を捲っていたラウラは、反対側のソファに座る赤井の言葉に手を止めた。
思い当たることなど、たった一つしかない。
「わかったんですか?」
「あぁ。……君の秘密について。」
赤井の真っ直ぐなグリーンアイを受けたラウラは雑誌を閉じて姿勢を正した。
ついにきたのだ、この時が。
誰にも言えない現状から抜け出すために待ち望み、知った後の赤井の反応を恐れてこなけばいいと願った。そんな矛盾した願いを胸に過ごしてきた。
赤井は膝の上に肘をのせ、そこで両手を組むと一度目を閉じてから話し始めた。
「単刀直入に言おう。………君は、物の記憶を視ることができるな?」
疑問形ではあったが、ほぼ断定する赤井の言葉。自分で考えてその結論に辿り着いたこと、そして現実的ではないその結論を信じていることに、ラウラの胸はどうしようもなく熱くなった。
ただ、まだ肯定も否定もしない。
「………なぜ、そう思ったんですか?」
「決定的だったのは、昨日の轢き逃げだ。あの時ここを出てからあの場面に遭遇するまで、俺たちはずっと一緒にいた。にも関わらず君は轢いた車の車種だけでなく、ナンバーも知っていた。……その直前、わざわざアスファルトに触れたのが気になってな。」
昨日よりもっと前、その可能性が頭を過ったとき、赤井は我ながらなんて馬鹿げた思考なんだ、そんな非科学的なことがあるわけない、と自分を叱責した。
可能性を真っ向から否定しても、頭の片隅にはずっとその考えがこびりついていた。そして今までのことを思い出せば思い出すほど、その結論を後押しする材料にしかならなかった。己で否定したものを他でもない己が認めるしかなかった。
「7年前の銃乱射事件。逮捕された犯人たちは、計画を立てたのは借りているアパートの一室で、そこ以外では計画のことを口にしていないと言っていた。最初は未来予知でも出来るのかとも思ったが、それでは沖矢昴の正体を見破ったことへの説明がつかない。」
「……」
ラウラは赤井の推理を静かに聞いている。目の前の彼によって最大の秘密を暴かれているにもかかわらず、ラウラの心は信じられないほど凪いでいた。
それはきっと、ラウラがこの状況を望んでいたからに他ならない。
そして赤井の反応を見る限り、彼はこの秘密に対して嫌悪感を持っていないことを確信していた。普通なら自分の秘密を暴かれることに嫌悪感を示し、ラウラに対して軽蔑の眼差しを向けるだろう。
だが赤井の目は真実に気付いたことへの喜びと、ラウラへの愛おしさだけを滲ませていた。
「あの迷子の時もそうだ。君が子どもの服に触れてからすぐ、決定的なホテルの位置を割り出した。ホテルの写真を見せた時、まるで自分が知っているかのような反応を見せた。あの近辺は初めて来たと言っていたのにも関わらず、だ。……それはきっと、彼の服の記憶を視たから。」
「物の記憶だと思ったのはどうして? もしかしたら、心の中を読んでいたかもでしょ?」
「……自分では気付いていないと思うが、君は外で何かに触れる時、ほんの一瞬だが躊躇っている。」
「……!!」
赤井の言う通り全く気付いていなかったのか、ラウラは目を丸くした。
確かに制御ができていない時は触れた物の記憶が全て頭の中に入り込んできて、それはもう大変だった。しかしあくまでも子どもだった頃の話で、今は強烈な記憶でない限り勝手に入り込んでくることはない。
それでも、無意識のうちに身体があの恐怖を覚えていたのだろう。知りたくもないことで頭の中を掻き回されるあの恐怖を。
「人に対しては躊躇わない。だから人には効力がないと判断した。違うか?」
「……」
完敗だった。
ラウラが与えたヒントを正しく繋ぎ合わせ、それによって導き出された突拍子ない結論を信じてくれた。
「以前、君は超能力者と言っていたな。あの時は頭ごなしに否定してしまって、すまなかった。」
「……いいんです、もう。信じてくれたから。」
瞬きをしたラウラの目から涙がこぼれ落ちた。
知られてしまった。
しかし、彼は自分で秘密を暴き、さらには信じてくれた。
それだけでもう、十分すぎた。
赤井は立ち上がるとラウラの座るソファにやって来て、彼女の前で片膝をついた。そして姫に忠誠を誓う騎士のようにラウラの左手を取る。
「ラウラの秘密を知ったうえでもう一度言おう。」
伏せられた瞼が上がり、吸い込まれそうなグリーンと目が合う。
「俺は、ラウラを愛おしく思っている。この先一生、俺の隣で過ごしてくれないか。」
ずっと不安だった。
秘密を知った彼がどんな反応をするのか。軽蔑して二度と会ってくれないかもしれない。そんなことを何度も考えては一人で勝手に落ち込んだ。未来に恐怖した。
ずっと言いたかった。
受け入れてくれる未来があるのなら、どんなに僅かな可能性でも縋っていたかった。気を抜けば口から返事が勝手に出てしまいそうになるのを何度も飲み込んだ。
返事なんて、ずっと前から決まっていた。
「私もっ、秀一さんのことが、……好きですっ!!」
「……っあぁ、その言葉が聞きたかった」
秀一はたまらずラウラを胸に抱き込んだ。
大きな秘密を抱え、誰にも言えず、誰にも頼れず、一人で必死に歩く彼女を好きになっていた。自分が隣に立って支えてやりたいと、そう思ってしまった。一度気付けば後は堕ちていくだけ。
「………グズッ」
「フッ、落ち着いたか?」
「うぅぅ、恥ずかしぃ……年甲斐もなくこんな、」
「別に構わない。これからはその涙を拭う役をやらせてもらおうか。」
秀一が赤くなった目元にキスを落とせば、ラウラは顔を覆って恥ずかしがった。しばらく恋人のいない彼女にとって、このキザな恋人の行動は心臓に悪かった。
二人並んでソファに座る。秀一はラウラを肩を抱き寄せると話を続きを促した。先程までの空気とは違い、ラウラが安心しきっているのがわかる。
「手で触れた人工物の記憶を視ることが出来るの…」
「人工物?」
「うん、自然のものは視れないの。あと人間もダメ。人の手の加わった無機物だけ。」
"だけ" というが、それがどれだけすごいことか彼女は理解していない。この発展した現代社会において、人の手の加わっていないものなど、ほんの僅かしかない。
「あと、スマホに触れても中身のデータはわからないの。あくまでも周りのことだけ。スマホの持ち主とか。そのスマホを持っている時に起こった出来事とか。」
「……なるほど。7年前は何に触れたんだ?」
「すれ違った人が財布を落としたの。それを拾ったら記憶が視えちゃって。何でも視えるのは疲れるから、視たいと思わない限り視ないようにしてるんだけど、強い記憶とか重大な記憶は勝手に視えちゃうことが多くて……」
「沖矢昴のときは工藤家の記憶でも視たのか?」
ラウラはあの時の衝撃を思い出したのか、起き上がって秀一に訴えた。
「そう! あの時にはもう昴さんのこと気になってて、好きになってから嫌なところを知るより、今知った方が傷が浅いかなって思ってリビングの記憶視たらびっくり! ……秀一さんが晩酌してるんだもん!!」
「ハッハッハ!! それで優作さんに連絡したのか」
「優作さん知ってるのかなって。もし知らないで家貸してたらどうしようと思って!」
「優作さんは
「……ううん、知らないよ。何かあるって勘付いてはいるみたいだけど、それだけ。……全部知ってるのは、この世で、秀一さんだけ。」
その言葉に秀一の独占欲が満たされる。己だけが知る、彼女の秘密。秘密を共有する者の結束は強く堅い。
「ありがとう。信じてくれて。」
嬉しそうにはにかんだラウラの唇を奪った秀一は悪くない。秀一はキョトンとするラウラに笑った後、再びそれを重ね合わせた。
二人の影は、いつまでもひとつになったままだった。
彼女の秘密【完】
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