彼女の秘密
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いくら空手の名人と截拳道の遣い手がいるとはいえ、蘭も世良も女子高生だ。万が一何かあると大変なことになるため、ラウラは沖矢に連絡した。二つ返事で了承した沖矢はラウラたちがポアロから家に向かっている間に異常がないか外から確認していた。
「ラウラさん」
「昴さん! すいません、お付き合いいただいて……」
「いえ、構いませんよ。外から見ましたが特に異変はありませんでした」
「よかった……ありがとうございます」
ラウラは心底安心したというように大きく息を吐いた。蘭たちと話しながらも、彼女の意識はバディに向いていたのだろう。
「……ボクたちだけでも大丈夫って言ってるのに。」
世良が手を頭の後ろで組みながら呟いた。ご丁寧に頬を膨らませているのを見る限り、彼女はまだ幼さが抜けきっていないように思える。
ラウラはそんな世良に笑いながら、成人男性がいることの重要性を説いた。
「女4人、しかも3人は未成年の女子高生。それよりも成人男性、しかも見るからに背が高くてガタイの良い昴さんがいると、犯人も怯むと思うの。」
「まぁ、確かにそうだけどさ」
理解はできるが納得はできない。そんな雰囲気の世良に苦笑いしていると、園子から思わぬ言葉が飛び出した。
「本当にそれだけなんですか〜?」
「ん? どういうこと?」
「だってラウラさんと昴さん、この前デートしてたじゃない!!」
「あ、あれは、ウイスキー祭りに行っただけで、なにも…」
慌てて否定する方が余計に怪しいと気付いても後の祭り。園子をはじめとした女子高生3人の顔がどんどん明るいものに変わっていく。
「ほら見た蘭!! 慌てて否定しているわ!! 絶対怪しい!!」
「見たよ園子! でもラウラさんと昴さんなら絶対お似合いです!!!」
「だからそんなんじゃ、」
「本当ですか? ありがとうございます。頑張りますね」
「「きゃーー!!!」」
沖矢は満更でもないようで、火に油を注ぐ発言をする。ラウラは大きなため息を吐きつつ、どこかくすぐったい気持ちを隠して笑った。
異常なしと聞いていても不安になりながらドアを開けたラウラの目に映ったのは、いつも通りおすわりをして彼女の帰りを待っていたバディだった。
「バディ!!!」
バディをぎゅっと抱き締めた後、両手で顔を包んでバディに異常がないことを確かめる。つぶらな瞳、少し濡れた鼻、ふさふさな毛、人よりも温かい体温。それら全てがラウラの記憶のそれと一致して、ラウラはようやく呼吸が出来た気がした。
「ごめんね、怖くなっちゃって……。みんな上がってくれる?」
「あ、じゃあ少しだけ。お邪魔しまーす」
四人を立たせたままだったことに気付き、急いでもてなしをする。スリッパを出して中に案内すれば、初めて入る世良は感心したように声をあげた。
「ひっろいな〜〜!! ここに一人で暮らしているのかい?」
「両親が事故で亡くなってから、だけど。一人じゃ広すぎて、正直持て余してるの。」
「だろうな!!」
初めての世良に警戒してずっと匂いを嗅いでいるバディを嗜めつつ、冷たい茶を人数分出してから自分の席に着いた。話す内容はもちろん、例の強盗のことだ。
「とりあえずサイトは警察に言って封鎖してもらうとして……問題はもう既に家を特定されていることだよな。」
「2丁目の白い家って言ったら結構あるけど、外国人が住んでるってなるとラウラさんしかいないですし……」
「警備雇えば?」
「……園子、」
簡単に言い放つ園子に、蘭が手で頭を押さえた。
きっと園子の生活には警備という存在は非常に身近で、居て当たり前なのかもしれない。
警備は言い換えれば自分の家に24時間赤の他人がいるということだ。慣れていない者にはそちらの方がストレスになるだろう。
「もし警備会社にこのサイトを見た人がいれば、警備と称して24時間監視出来ることになる。それってすごい危険じゃないか?」
「私も知らない人が敷地内にいるのはちょっと……。顔見知りなら大丈夫だけど。」
「じゃあどうするのよー!!!」
園子はなりふり構わず髪を掻きむしった。日本で上から数えた方が早いほどお嬢様な園子だが、全く飾らないところが彼女の良いところだ。
うーんと皆で頭を悩ませるがこれといった解決策は出なかった。しばらく窓のシャッターを降ろして生活するか。そんな策がラウラの頭をよぎった時、天の声が聞こえた。
「私がしばらくここに住みましょうか?」
「「「え?!」」」
「昴さんが!?」
「きゃーーー!! 聞いた蘭?! "ラウラさんが困っているなら、彼女を守るナイトとして私がここに住みましょう…" ってやつよ!!!」
「でもそれが一番安心できるかも。」
なぜなら沖矢は現役のFBI捜査官である。一緒に暮らすなら、こんなに頼れる存在はいないだろう。警備会社顔負けな警備をしてくれそうだ。
「えぇ!? 付き合ってるのか!?」
「いいえ、付き合ってないけど…」
「既成事実よ、既成事実!! 作っちゃいなさい!!」
キャッキャッする園子に笑いながらラウラは口を開いた。
「この前強盗に入られた時、一人でいるの怖かったから何日間か工藤家に泊まってたの。だから昴さんがいてくれるなら心強いなって。」
「決まりですね。荷物とってきます。」
「ちょ、ちょ、ちょっと!!! それでいいのかいラウラさん!!!」
「世良さん、ちょっと顔貸して。」
園子は世良の肩に手を回すと、ラウラに背中を向けて話し込んでいる。大方、「あの二人は良い感じだからこのまま進めるのよ!!」とでも言っているのだろう。
互いに互いのことを好ましく、というと語弊があるかもしれないが、良い人だとは思っている。
ラウラは沖矢、いや赤井といると気が楽なのだ。やはり女の一人暮らしは何かと注意すべきことが多く、常に気を張っている状態だ。誰かと一緒に暮らすことがこんなにも楽なのだと、ラウラに教えてくれたのは赤井だった。
と、いうことで。
「よろしくお願いしますね、秀一さん」
「あぁ、よろしく頼む。」
皆が帰った後、何やら機械を持って盗聴機と隠しカメラの確認をした沖矢は、ベリベリッとそのマスクを取った。
着替えとともに変装道具一式を持って来ているため、いつでも沖矢に変装できる。風呂にも入る必要があるため毎晩素顔になっているし、何より一日中マスクというわけにもいかないから当然だ。
赤井の素顔を見たラウラは一応全ての窓のシャッターを下ろした。万が一にも赤井の姿を見られるわけにはいかないし、シャッターがあれば強盗もそう簡単には侵入出来まい。仮に侵入されたところで現役FBI捜査官をどうこう出来ると思わないが。
バディの散歩から戻ってきたラウラは赤井とともにキッチンに並んだ。今日のメニューはハンバーグである。
ラウラは無言で挽肉を捏ねる赤井を見て顔を緩めた。大の男が一生懸命挽肉と格闘しているのは中々可愛い。
そんな赤井を横目に、レンジで柔らかくしたかぼちゃをミキサーで粉砕する。細かくなったところに牛乳を入れて滑らかにする。そしてハンバーグの付け合わせとしていくつか野菜を切ったところで手を止めた。
「あ、それくらいで大丈夫ですよ。そしたら、楕円になるように成型してもらって…」
赤井は挽肉の半分を手で掬ってぺちぺちと成型していく。
「…大きいですね」
「火が通りにくいか?」
「分厚くなければ大丈夫ですよ」
赤井がいるから、といつもの倍以上の挽肉を使ったのもあるだろう。とんでもなく大きなハンバーグが出来てしまった。
ラウラは「こんなに食べられないから」と片方から肉を取ってもう片方に付け足した。
フライパンに二つ並んだ大小のハンバーグは赤井とラウラのもの。なぜか夫婦茶碗などの夫婦で使う一組の何かに見えてしまったラウラは顔を熱くしながらスープを火にかけた。
「今日は飲まないんですか?」
「一応強盗が来る可能性があるからな。念のためだ。」
赤井なら泥酔しない限りそこら辺の強盗にやられることはないが、流石に警戒しているようだった。あんな犯行予告のような投稿を見てしまえば当然といえば当然である。一番警戒すべきラウラは赤井がいることで完全に安心しきっている。
「オムライスの時も思ったが、玉ねぎの微塵切りというのは中々厄介だな……。目を細めて、口呼吸しても少し沁みる」
赤井はハンバーグを半分程食べてから少しだけ眉を寄せてそう言った。きっと彼の中ではあの耐え難い感覚が反芻されていることだろう。鼻の奥に消毒液をかけられたようなツンとする痺れ、その後に襲ってくる目を開けていられないほどの痛み。涙を流すか水で洗い流さない限り、その痛みは続く。
「わかりますよ。私は普通に切る分には沁みないですが、微塵切りだけはちょっとキます……あとはハンドチョッパーを使う、とかですかね」
「……なんだ、それは。」
「軽く切った野菜を入れて蓋をして、取手を引くと微塵切りにしてくれるグッズです。手動のフードプロフェッサーみたいなイメージですね。あそこまで細かくはなりませんけど。」
赤井は箸を置くとスマホでハンドチョッパーを調べ始めた。すぐに「なるほど、これはいいな」という声が聞こえてきてラウラは笑う。そのうち買ってきそうだ。
