彼女の秘密
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日曜日の昼下がり。
ショッピングに来ていた園子は、見知った顔を見つけて足を止めた。
「あれ? あれって昴さんじゃない?」
人を指で指しちゃいけません、と言いたくなるほど見事に指さされた方に蘭が目を向ければ、確かに沖矢がいた。一人壁に身体を預けて、誰かを待っているようである。
「ほんとだ。一人かな。珍しいね、こんなところで会うなんて。」
「いや、あれは女よ。」
訳知り顔で園子が断言した。もっとも、そのこころは恋に染まる女子高生特有の思考故なのだが。
「昴さんに?」
「だって彼、引き篭もってばかりじゃない。そんなインドアな男がこんな日中から外にいるのには、何か理由があるはずよ! 女とか、女とか女!!」
「それ女だけじゃない…。」
いつも通りの園子に呆れた蘭がそう言った時、もう一人見覚えのある人がやって来た。
「「え!!」」
日本では少々目立つ外国人顔。ジーンズを履いた脚は細く、長い。白いキャミソールは彼女の豊かな胸と細いウエストの対比を強調させ、上から羽織られたシースルーカーディガンが露出を調整している。ラフにかき上げられたアッシュブロンドが顔の周りで揺れた。
「うっそ、ラウラさんじゃん……え、なにあの二人!? もしかして付き合ってるの!?」
「確かに、家も近いよね…」
休日に、男女二人きりで出かける。
園子の恋愛センサーがビンビンと痛いくらい反応した。
「蘭!! 突撃よっ!!!」
「えぇ!?」
園子にガシッと腕を掴まれた蘭は、彼女に引きずられて沖矢とラウラの下に向かった。
「すっばるさーーん!!」
「…おや、園子さんに蘭さん。こんにちは」
「やっほー。二人とも元気?」
「昴さんとラウラさんって付き合ってるんですか?!」
挨拶もなくぶち込んだ質問に、沖矢もラウラも目をぱちりと瞬かせた。そして互いに目を合わせてから二人に向かって微笑む。
「ううん、そんなんじゃないよ」
「彼女にウイスキー祭りに誘われましてね……その帰りです。」
「ウ、ウイスキー祭り……」
「じゃあ飲んできたんですか?」
「そーだよー! 結構飲んだ! これお土産〜!」
そう言ってラウラが見せたのは沖矢の持つ袋。園子と蘭が覗き込めば、中にはウイスキーの瓶が何本も入っていた。試飲して気に入ったものをその場で購入したのだ。
「め、めちゃくちゃ買ってる……」
「これお二人で飲むんですか?」
「えぇ、まぁ。」
「そーだよー! 今度晩酌しようねって。ねー?」
「えぇ、お互い気になっていた映画を観ながら。」
そう言って笑い合う沖矢とラウラに、蘭と園子は顔を見合わせた。これは、完全に良い雰囲気である。付き合ってはいないものの、互いによく思っていることが見てとれた。
「そうなんですね!」
「じゃあ私たちはこれで! ごゆっくりぃ〜!!」
「あ、え、ちょ……」
女子高生の切り替えに早さについていけない沖矢とラウラは、二人の背中を見送ることしか出来なかった。
「ねぇ、絶対あの二人、両片想いだよ」
「それ私も思った! ラウラさんと昴さん、美男美女でお似合いだよね! もし付き合ったら新一にも教えなきゃ!」
「そういえば新一君はラウラさんのこと、実のお姉さんみたいに慕ってたもんねー。」
「うん。ラウラさん、新一のお父さんお母さんとも仲良いし。」
人の恋話ほど美味しいものはない女子高生は、はしゃぎながら帰っていった。
* * *
一晩経った月曜日、蘭と園子が冷めきらぬ興奮を分かち合っていると、最近転校して来た世良がクラスメイトの男子と何か盛り上がっていた。
スマホの画面を注意深く見る世良の目は探偵のそれで、何か良くないことが書かれているのか、眉を寄せていた。
「世良さん、そんな怖い顔してどうしたの?」
「ん? あぁ、いや、彼が怪しいサイトを見つけたから見て欲しいって依頼されたんだけど……」
そう言って世良が二人に見せたのは、濃い紫色に黒字という非常に見にくいサイト。書かれた文字を読むことすら疲れるサイトの、とあるスレッドに不穏なことが書いてあった。
" 米花町5丁目の茶色の家。成功。クソジジイ結構金持ってたからおすすめ "
" 杯戸町1丁目の赤い家は金持ちで有名だよ "
「え、なにこれ…」
「どうやら裏掲示板のようなものだね。見る限り強盗のターゲットを物色しているみたいだ。」
スワイプしてコメントを見ていた蘭は、見覚えのある住所を見つけて指が止まった。
" 米花町2丁目の白い家。 外国人の女が一人暮らし。めっちゃ美人でスタイル良いから絶対楽しめる "
" あ、そこ昨日強盗入って犯人逮捕されてたよ "
" うわ、まじか。でも二回目はないと思ってるから今がチャンスなんじゃない? "
" それありだわ "
「米花町2丁目の白い家って、ラウラさんの家じゃない?!」
「えぇ!? うっそ!!!」
「ほら、ここ!! 外国人女性が一人暮らしって書いてある! 絶対ラウラさんの家よ!」
「知り合いの家かい?」
「私も新一も園子も小さい頃からお世話になってるお姉さんなの。どうしよう、連絡したほうがいいよね」
「そうだな。コメントによれば既に一度強盗に入られているようだけど、そんな話は聞いているかい?」
「ううん。でも一応連絡してみる!!」
蘭はその場でラウラに電話をかけた。無事繋がったのか、安堵の表情で今日の放課後の予定を聞く蘭を横目に、世良は依頼してきたクラスメイトにサイトのURLを送ってもらうよう指示していた。
ドアに取り付けられたベルが軽快な音を鳴らした。外から蘭たちの姿を発見していたラウラは、顔馴染みの梓に軽く挨拶すると、一番奥のテーブルにやってきた。
「待たせちゃったみたいでごめんね」
「ラウラさん! たまたまホームルームが早く終わっただけなので」
「お姉様相変わらずお綺麗♡」
「ふふ、ありがと、園子ちゃん」
世良は突然現れた美女に釘付けで、我ここにあらずといった顔だ。きっと彼女の頭の中は「一体何を食べたらあんなに大きくなるのだろう」と、彼女と自分の胸の比較をしていることだろう。
「紹介しますね。こちらクラスメイトの世良さん。女探偵やっててすごい頭良いんです。」
「初めまして。僕は世良真純。よろしくな!」
「篠宮 ラウラよ。よろしくね。」
「ところでお姉さんびっくりするくらい日本語上手だな! ハーフか何かかい?」
「母がイタリアと日本のハーフなの。ちなみに父はドイツ人。二人とも日本が大好きで、家庭内では日本語だったのよ。だから私もこんな風になっちゃったの」
「へぇ〜!」
そんな当たり障りのない話をしてから、蘭が本題に入った。
「それで、見て欲しいのがこれなんですけど……」
例のサイトを見せれば、その内容を読んだラウラの顔がどんどん険しいものになっていく。
「……これ、本当?」
「私たち、昼間にこれ見つけて、気が気じゃなくって…」
「お姉様、一度強盗に入られたんですか?」
「そうなの。真昼間にね。思いっきり熱湯かけて昴さんに助けを求めたから、怪我もほとんどなかったんだけどね……」
「「ね、熱湯!?」」
「見かけによらずやるなぁ!!!」
強盗犯に熱湯をかけたくだりで女子高生が湧いた。世良もラウラの見た目と似ても似つかないエピソードに、手を叩いて笑っている。
「このサイトは所謂裏掲示板。そこに書いてあることが本当なら、警察に通報して至急サイトを封鎖してもらった方がいいよ。」
「じゃあやっぱり、これって本当だったの!?」
「あぁ。この米花町5丁目も二週間前に強盗に入られたみたいだよ。他の住所も同じようにな。」
「じゃあ二回目があるかもしれないってこと…?」
ラウラは不安そうに眉を寄せた。もうあんな思いは二度としたくない。
先日は偶然蕎麦を茹でるために湯を沸かしており、それを上手くかけて逃げることができたが、次も同じようにいくとは思えない。
就寝中に襲われるかもしれない。
散歩から帰ってきたら家にいるかもしれない。
こうして出掛けている間に侵入しているかもしれない。
考えれば考えるほど良くないことばかり思い浮かぶ。まずバディが無事であることを確認しようと、ラウラはスマホでペットカメラの映像を確かめた。
リビングのソファの上で、お気に入りのクッションに頭をのせて寝ているバディの様子が映し出されている。これといった異常は見当たらない。ラウラは大きく胸を撫で下ろした。
「よかった、今は何ともなさそう…」
「よかった……」
「でもお姉様、これからどうするの?」
「そうねぇ……阿笠さんのお家に居候しようかしら…」
「しばらく一人で家にいない方が良いと思う。」
「そうね、ちょっと考えてみるわ。……とりあえず今日はもう帰るね。折角お誘いいただいたのにごめんね、」
そう言って眉を下げるラウラ。彼女は一人で帰宅するつもりなのだ。今は異常ないが、今後どうなるかわからない家に。
「でももし本当に強盗がいたら危険ですよ!!」
「一緒に行くわ!! 私たちがいれば百人力よ!!!」
そう豪語する園子は何も出来ないのだが、確かに蘭がいるだけでも心強い。
「そうだよね! 世良さんもいるし!!」
「真純ちゃんも何かやってるの?」
「ああ、截拳道をな! そこら辺の男には負けないよ!」
「ふふ、みんな頼もしいね。お願いしてもいい? 大丈夫だったら家でお茶の続きしましょ。」
そう言って流れるようにテーブルの伝票を取っていった彼女は、出来る女である。
