彼の秘密
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ロサンゼルスで執筆作業をしていた優作は、珍しい人物からのメッセージに手を止めた。
篠宮 ラウラとは、彼女がまだ母親のお腹の中にいる時からの付き合いだ。歳の離れた妹くらいに思っているし、優作自身、ラウラが自分のことを頼りにしていることをわかっている。
だからこそ、「今電話してもいいですか」なんてメッセージが送られてくれば、只事ではないと思うわけで。
了承の意を返せば、すぐに電話がかかって来た。
『優作さん、急にごめんなさい。』
「いや、構わないよ。そっちはこんばんはかな?」
『えぇ、今八時すぎ。お昼時にごめんなさい、どうしても確認したいことがあって……』
「? どうしたんだい? 言ってごらん?」
優作は努めて優しい声でラウラを促した。
受話器越しに彼女が言葉にすることを迷っているのがわかった。何度か呼吸をして、「あー」とか「うぅー」とか唸っている。そして決定的な言葉を口にした。
『昴さんって、誰?』
( ……なるほど、そうきたか )
優作は驚いた。
死んだはずの赤井秀一が沖矢昴として生きていることを知るのは、わずか五人。
家主であり、沖矢昴の人物像を考えた優作。
沖矢昴に成りきるための変装技術を教えた有希子。
組織とFBIを欺くための巧妙なトリックを考えた新一。
チョーカー型変声機を発明した阿笠。
そして、指先のコーティングに気付かれてしまったことで、教えざるを得なくなった赤井の上司であるジェイムズ。
たった五人しか知り得ない事実。
それに彼女は気付いたというのか。
「誰、というと、何かあったのかね」
まだラウラが、赤井秀一と沖矢昴が同一人物であることに気付いたわけではないかもしれない。そう思ってはぐらかした優作だったが、次の言葉に白旗を挙げることとなった。
『Shuichi。確かそう呼ばれていたはず。彼、FBIですよね。なんで昴さんのフリなんて……。というか、実在するんですか? 沖矢昴という人物は。』
「……そこまで気付いてしまったか。」
『じゃあやっぱり、優作さんは知っていたんですね?』
「あぁ、知っているよ。もちろん有希子もね。」
『そっか、ならよかった……』
ラウラは優作たちが知らない間に別の人間が住み着いているのではないかと不安だったのだ。ひとまずそれが解決して、ラウラはほっと息を吐いた。
「彼にも事情があってね。彼が生きていると知られたら、殺されてしまう人がいる。黙っていてくれるかい?」
『それはもちろんです。』
「ありがとう」
『………あの、中の人は信用出来ますか?』
優作は一瞬何を言われたかわからなかった。
信用できるかと聞いてくるということは、ラウラが彼を信じようとしているのだろう。そこにどんな感情が芽生えつつあるかわからない優作ではない。
「あぁ、彼は信頼出来るよ。私と有希子が責任を持とう。……だから、君が隠していることも、彼になら告げていいと思う。」
『───ッッ!!!』
ラウラは息を呑んだ。まさか優作が自分の最大の秘密に勘付いているとは思わなかったのだ。
しかし、優作は新一をも上回る頭脳の持ち主。皆が見逃す些細なことにも気付き、そこから驚異的な推理力で辿り着いてしまうかもしれない。
ラウラの思考を読んだように優作は笑いながら言った。
「流石に君が何を隠しているのかまでは知らないよ。何か大きな秘密を抱えていることだけね。……秘密を抱え込むのは疲れる。だから誰か一人でいいから、君が心から信じて頼れる相手が見つかることを祈っているよ。」
『……ッ、はい』
聞こえてきた涙声の返事に、優作は少し安心した。
彼女の両親が突然の事故でこの世を去ってから、早六年。
兄妹も、頼れる親戚もいない彼女がこの世にただ一人遺されてしまった。消沈した顔で喪主を努める彼女に、一緒に暮らそうと誘ったのは同情からではない。結局断られてしまったが。
いつだって優作と有希子は、彼女の幸せを心から願っている。
「とりあえず、彼のことは信頼していい。FBIだし、何か困ったことがあればすぐに頼りなさい。」
『はい。……優作さん、ありがとうございます』
「私は話を聞いただけだよ。ラウラ君がスッキリしたならよかった。……じゃあもう今日は寝なさい。おやすみ。」
『おやすみなさい。』
優作は通話終了の文字を見つめると、すぐに電話をかけた。相手は話題に上がっていた彼。
ラウラが彼の正体に気付いたということは、何かしらのきっかけがあったのだろう。FBIきっての切れ者である彼がそんなヘマをするとは思えないが、可愛い妹のためにも聞いておきたかった。
『はい、沖矢です』
「あぁ、沖矢君。今平気かい?」
言外に周りに人がいないことと、盗聴されていないかを確認する。それが暗黙の了解になっていた。
『えぇ、大丈夫です。』
やがて聞こえてきた彼本来の声に、優作は本題に入った。
「今しがた、ラウラ君から電話があってね。君のことに気付いたらしい。」
『………ホォーー、それはなかなかですね。』
数拍後、心底感心したような、そんな返事が帰ってきた。秀一からすれば、本当に不思議なのだ。
彼女とは7年前と赤井秀一が死ぬ直前に一度会っただけ。ジョディやキャメルのように秀一と長い付き合いがあるというわけでもないし、優作や新一のように頭が良いわけでもない。
一体どこから沖矢昴と赤井秀一を結びつけたのか。それが本当に不思議で、知りたくてたまらない。
「というと、やはり何かしたわけではないようだね。君のことだし、そんなヘマはしないと思っていたが。」
『えぇ、もちろん。何らかの手段で知ったのでしょう。実に興味深い……』
「彼女とは知り合いかい? ラウラ君は君のファーストネームを知っていたようだが」
『昔、私がFBIの新人だった頃に一度会ったことがあるくらいです。私も彼女のことを探していたので、接近できてラッキーでした』
優作は、紳士的である秀一に限ってそんなことをしないと思いつつ、一応釘を刺すことにした。
「彼女は我々の妹も同然でね。彼女自身、何か秘密があるようだ。もし彼女が君にそれを打ち明けたなら、守ってあげてほしい。」
『えぇ、まぁ。それはもちろんです。……お恥ずかしい話、私自身彼女に惹かれるものがありましてね』
優作は顔を綻ばせた。
妹同然のラウラと、知り合ったばかりだが留守の家を任せるほど信頼している秀一。その二人が一緒になれば、こんなに嬉しいことはない。
「そうか…。君になら安心して任せられる。」
『そう言っていただけると光栄です。まぁ、肝心の彼女に気持ちがなければ意味ありませんがね。』
「フッフッフッ……そうだな」
「それは心配しなくてもいい」と言おうとした優作だったが、人の恋路に口を出すのはマナー違反。二人の今後に思いを馳せて、自分の胸の内に留めておくことに決めた。
有希子に言えば今から日本に文字通り飛んでいくなんて言いかねない。
その後、互いの近況やコナンの様子などを話してから通話を切った。
優作は背もたれに深く寄りかかると、天井を見上げた。
面白いことが起こりそうな予感がした。
彼の秘密【完】
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