吾輩とサトル
サトルは人間のオスである。
人間には一部分しか毛がないが、その毛が吾輩によく似た白を持つ人間のオスだ。人間は黒い毛が多い。一部白い毛もいるが、サトルのように輝いていないくすんだ色だ。あれは別物という認識である。
そして目の色も吾輩のそれとよく似ている。見つめ合っていると互いに吸い込まれそうになって、よく額同士をぶつける。吾輩は誤魔化すようにペロリと鼻を舐め、サトルは「ぶつかっちゃったね」と目尻を下げながらへらりと笑って見せる。
サトルは細い布を巻いて目を隠すが、吾輩はそれが気に入らない。吾輩と同じ色の美しいものを隠すサトルとバトルをして、負けたサトルは家では布を取って生活するようになった。吾輩の勝ちである。…ふふん。
外では勘弁してと懇願してくるので、仕方がないから許してやる。吾輩は心が広い猫なのだ。勝者の余裕ともいう。…ふふん。
サトルは人間のオスである。今まで見てきたどのオスよりも強い。
まず肉体が強い。
だらしない見た目の人間もいるなかで、サトルのそれは別次元だ。まるでササミのような筋が入った肉で全身を覆っている。美味しそうに見えて優しく噛んでみたことがあるが、吾輩の歯がまるで入らなかった。その弾力で歯が跳ね返されたのだ。あんなササミを身に纏う人間を、吾輩は他に知らない。
顔面も強い。
吾輩と同じ白を頭に乗せ、吾輩と同じ碧を目に持つ。大好きなサトルが吾輩と同じ色なのだ。嬉しくないわけがない。
吾輩には人間の造形というものがわからないが、サトルは今まで見てきたどの人間より美しい。吾輩と良い勝負だろう。
エネルギーも強い。
そのエネルギーを膜のように纏っている。吾輩は弾かれないが、吾輩がスッキリした後に砂をかけると、時々砂が空に浮いていることがある。吾輩が足で蹴った砂がサトルにとって危ないものと認識されたようだ。失礼な。確かに臭いかもしれないが、キュートな吾輩から出たものであるぞ。
にも関わらず、吾輩の爪は弾かれないのだ。爪は危険ではないというのか。どんな基準だ。
サトルは人間のオスである。とても強いオスだ。だが、たまに弱くなる。
サトルが何日か出掛けるとき、吾輩はショーコというメスに預けられることが多い。そんな日が何日か続き、吾輩もサトルが恋しくなってきたときに、サトルは帰ってくる。そして吾輩の腹に顔を埋めて動かなくなる。
そうなると吾輩はサトルのために大きくなり、サトルの身体を腹の上に乗せて、手と尻尾で抱き締めてやるのだ。そうするとサトルは嬉しそうに笑うし、幸せそうな顔をして寝るのである。吾輩もそれを見届けてから惰眠を貪るのだ。
少し前は特に酷かった。吾輩の腹に顔を埋めないと寝れないのか、毎日抱き締めてやった。サトルは人間の中でも大きいからか、何かに包まれる経験があまりないようだ。吾輩は大きさを変えられるから、包まれる心地良さも、包んでやる愛の深さも知っている猫である。そんな吾輩がサトルを包まず、一体誰が包むというのだ。この役目は誰にも譲らぬ。
サトルは吾輩が世界で一番大好きな人間のオスである。
