吾輩とサトル
※2026年七夕小話
吾輩のもふもふ毛の天敵である季節が終わった。毎日雨でジメジメでぺしゃ毛で本当に苦痛だった。サトルも吾輩のぺしゃ毛を見て笑いながら黒い板を吾輩に向けていた。
それが涼しい室内で日向ぼっこするのにちょうど良い季節になった。外は暑すぎるから苦手だが、サトルにくっついて無下限とやらに入れば大丈夫だ。
「七夕かー」
「にゃー?」
なんだそれ。
吾輩の疑問を正確に読み取ったのだろう。サトルは吾輩に向かってタナバタが何かを教えてくれた。
「興味ないけど、離れ離れになった織姫と彦星ってのが一年に一回だけ会える日なんだってさ。なんでか知らないけど、笹の葉に願い事を飾ると願いが叶うって言われてんの。」
にゃーん、願い事か。
吾輩の願い事はいつまでもサトルと一緒にいることだ。毎日が楽しくて仕方がない。サトルと一緒に入れれば何もいらない───わけではないが、何よりもまずサトルと一緒にいたい。
サトルは何を願うのだろうか。吾輩は隣に座るサトルを見上げた。
「もし願いが叶うなら、シュガーと話してみたいよねー。そしたらシュガーが何考えてるかもわかるし。」
そう言ってサトルの大きな手が吾輩の頭をポンと優しく撫でた。
吾輩はサトルを見上げて、吾輩とよく似た目を見て思った。───サトル、だいすき。
「ほんっっとにシュガーと喋ってみたい。何考えてるんだろ。ごはんほしいとか?」
───サトル、だいすきだよ。
「眠いとか、日向ぼっこ気持ちいいとか考えてるのかなー」
それも思うけど、今はサトルだいすきってことしか思ってないよ。
サトルの手が前足の下に入って、吾輩を持ち上げた。サトルが吾輩の顔と自分の顔を近付ける。目と目を合わせてから、サトルがゆっくりと瞬きをした。猫にとってゆっくりと瞬きすることは、大好きという意思表明である。
「だいすきだよ、シュガー。……伝わってる? この愛。」
───伝わってるよ。
「ほんと、だいすき。意味わかんないくらいすき。かわいい。すき。」
───サトル、だいすき。
吾輩もゆっくりと瞬きをした。吾輩のこの気持ちがサトルにも伝わればいいのに。
そう思ってから気付いた。だからサトルは吾輩が何を考えてるのかを知りたいのだ、と。
吾輩は確かにごはんのこととか眠いなーとか、あったかくて気持ちいなーとか思ってる。でも一番はサトルのことだ。
お留守番のときはサトルまだかなーって思うし、一緒にいるときはサトルすきって思う。服の中にいる吾輩を覗き込むサトルもすきだし、目が合うとふわっと笑うサトルがもっとすきだ。
でも吾輩にはこの気持ちを伝える手段がない。サトルにスリスリするかゆっくり瞬きをするくらいしかない。それがこんなにも歯がゆいなんて。
吾輩はサトルすきすきすきー!! と心で叫びながらサトルの顔をペロペロした。
「あっはは、どうしたのシュガー、くすぐったいって!」
吾輩も喋れるようになりたい。サトルにだいすきって伝えたい。サトルと一緒にいることは当たり前すぎるから今は置いておく。
吾輩もサトルにだいすきって伝えたいな…
「僕も書けって渡されたから、これに書いとくか。」
サトルは取り出した紙に何かを書いた後、吾輩の肉球に水をつけて上に押し付けた。吾輩には読むことができないけど、きっと吾輩と喋りたいと書いてあるのだろう。そこに吾輩の肉球スタンプもあるからとてもいい感じだ。
「んみゃー」
吾輩は満足げに頷くとサトルの服の中に潜り込んだ。サトルの匂いを存分に吸い込んで目を閉じる。───願い事、叶うといいな。
(ペットと喋りたいという永遠の願い)
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