コウメイさんの奥さまは、
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いつも通りの朝のこと。
昨晩設定したアラームで目を覚ました高明は天井を見上げながら何度かまばたきをした。しばらくそうしていると脳が覚醒してくる。
キッチンから聞こえてくるリズミカルな包丁の音、フライパンで何かを炒める音、そして胃をダイレクトに刺激する香り。それら全てに幸せを感じて、暫し余韻に浸る。
充分に余韻に浸ってから起き上がるのが高明の日課だった。
「おはよう」
「おはよ……ふふっ、かわいいね♡」
「……、」
いつも通り朝の挨拶をしたつもりが、かわいいと言われた。こう言われたときは大抵自分の身に何かが起きていることを高明は知っている。
案の定、洗面所に行けばふたつ結びにされた己の姿が目に入った。
「……」
一体どこがかわいいのだ。
鏡に映る自分にジト目を向けてから顔を洗う。普段ポロポロとこぼれてきては顔に張り付いて鬱陶しい髪が、結ばれているため全く落ちてこない。悔しいが少しだけ快適さを覚えつつタオルから顔を上げれば、またふたつ結びの自分と目が合った。
特徴的な上がり眉に、切れ長のつり目とちょこんと生えた口元の髭。
いや、だから一体どこがかわいいんだ。
かの天才軍師と名高い諸葛亮孔明にも解けない謎だろう。
高明はため息を吐きながら蛍光ピンク色の髪ゴムを取った。もしやこのためだけにこの髪ゴムを買ってきたのだろうか。一体どんな顔をして髪ゴムを手に取ったのだろうか。そう考えると自然と頬が緩んでしまう。いい歳した男のツインテールより余程かわいいではないか。
高明は髪ゴムを持って洗面所を出るとキッチンで朝食の準備をする美桜の髪に触れた。
「お返しします」
そう言って既に束ねられた美桜の髪を三つ編みして団子にした。美桜は「あー、やられたー」なんて言いながらケラケラと笑っている。そして高明に振り返ってまた笑った。
「もう一個残ってるよ、高明さん♡」
そう言って高明の後頭部にあった蛍光オレンジの髪ゴムを取った。
高明は後頭部を手で押さえたまま動かない。もし万が一このまま出勤していたらどうなっていたことか。ギリギリになったら流石に教えてくれるとは思うが、想像するだけで穴に入りたくなる。
( いい歳した男の幼児結びほど、辛いものはないですね… )
だがこうやってイタズラしてくる美桜も好きだと思ってしまうのだから、恋というのは困ったものだ。
* * *
「……!!!」
高明は弁当箱の蓋を開けて中身を確認した途端、そっと閉じた。自分の目が信じられないのか何度かまばたきをして、また中身を見ては蓋をするのを繰り返している。
何回確認しても変わらずそこにあるものたちを見て机に突っ伏した。冷静沈着な高明がこんなにも感情を露わにするのは珍しい。何か面白そうな気配を察した大和と上原がやってくる。
「よぉコウメイ。食べねぇのか?」
「そうですよ、諸伏警部! 折角の愛妻弁当なんですから!」
「……、」
高明だって食べたい。食べたいさ。
美桜の作る料理は美味しいし、何より自分の身体に気を遣って作られているのがわかる。今日の弁当だって、見た目はともかく味は美味しいのだ。……見た目は、ともかく。
「あー? ……なんだよ、もしかしてあれか? 愛情爆発弁当か!?」
「え!! 見たいです!! 美桜ちゃん特製愛情爆発弁当!!」
焦れた大和が高明が押さえる蓋を退かした。大した力が入っていなかったところを見るに、高明も満更ではないのだ。ただ少し、いや、だいぶ恥ずかしいだけで。
「え〜!! かわいい〜〜!!!」
開けた瞬間上原の黄色い歓声が捜査一課に響いた。フロアに残っていた刑事たちも何事かと高明たちの方を気にしている。
「ブッッ!! やっぱお前の奥さん最高だわ!」
大和は腹を抱えながら高明の頭を叩いた。それもそのはず。今日の弁当は美桜から高明への愛情が爆発した、ラブラブ弁当だからだ。
見渡す限りのハート。弁当箱は正方形だが、仕切りを使ってハートに成形し、その間に入っている玉子焼きもハート。メインの唐揚げもハート型、米の上にはピンク色の鮭フレークがハート型にのっている。よく見ればおかずカップもハートだ。ここまでくると感心する。
この弁当を、圧倒的に独身が多い職場で広げて食べるのだ。切れ者と名高い高明が。
「ブーッ、クックックッ!!」
「笑いすぎですよ、敢助君。」
一度見られてしまえばもう怖いものはない。高明は机に弁当を広げると、弓矢型の爪楊枝が刺さったハートのミニトマトを口に含んだ。
その日の高明はすごぶる機嫌が良かったらしい。
イタズラがお好き。
