コウメイさんの奥さまは、
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正確な体内時計に従って目を覚ました美桜は隣で寝息を立てる高明を見つめた。あまり見すぎると視線で起きてしまうため、控えめに数秒見つめては視線を外し、また数秒見つめる。その繰り返しである。
( 好きだなぁ…… )
ふとした瞬間にそう思ってしまうのは流石に惚れすぎだろうか。だって好きなんだから仕方ないじゃん、と誰にでもなく開き直り、美桜はゆっくりと起き上がった。高明を起こさないよう細心の注意を払って寝室を出る。
顔を洗い髪を結んでからエプロンを身につけ、冷蔵庫から肉と野菜を取り出した。
メインは昨晩から漬けておいた豚の塩麹漬け。一晩漬けることで味が中まで染みて、しかも塩麹の力で肉が柔らかくなるので美桜は気に入っている。もちろん美味しい。
野菜はにんじん、里芋、レンコン、ゴボウ、サヤエンドウなどだ。煮物を作るために乱切りにして鍋に放り込む。椎茸とさつま揚げも忘れない。
炊飯器が稼働する音を聞きながら豚肉を焼くとキッチンに食欲をそそる香りが広がった。煮物に味を染み込ませるために一度火を消して放置。
しばらくして米が炊き上がった頃に高明が起きてくる。
「おはようございます」
「おはよ。」
短い朝の挨拶をしてからまたそれぞれ動き始める。美桜は朝食の準備、高明は身支度に忙しい。まともに会話するのは朝食の時だ。
「今日は早く帰れそうです。まぁ、事件が起きなければ、の話ですが。」
「うん、わかったー。何か食べたいものある?」
「そうですね………チキン南蛮がいいです」
「ん、わかった。」
何でもいいと言われる方が困ったりする。高明はそれをよくわかっていて、しかも冷蔵庫の中もある程度把握した上でリクエストしてくる。作る美桜としては大助かりだ。そもそも「何がいい?」と聞く時点でメニューが決まっていないため、決めてくれた方が楽なのだ。
───"続いてのニュースです。東都米花町で40代の男性が殺害された事件で、被害者の元妻である30代の女が逮捕されました"───
「また米花町だって。すごいね、あそこ」
「あの都市は日本の犯罪都市と言ってもいいですからね。行くことはないと思いますが気をつけるように。」
「はぁい。……でも高明さんあそこ所属じゃなくてよかった。」
「…? なぜ?」
「だってこんな事件ばっかり起きてたら帰って来れなくなっちゃうじゃない。」
そしたら寂しいもん。付け加えられた言葉に高明はどうしようもなく美桜を抱き締めたくなった。しかし食事中に席を立つのは行儀が悪いためグッと堪えて、後で抱き締めようと心に誓う。
ニュースが終わったタイミングで同時に席を立ち上がった。美桜は弁当箱に具材を詰め、高明は歯磨きをしながら身支度をする。
米はシンプルな白米。真ん中に梅干しを入れるのも忘れない。混ぜご飯にするときもあるが、ご飯が進むおかずを入れることが多いため基本的には白米だ。
食べやすく切った豚肉と煮物を詰め、空いたスペースにミニトマトを入れる。このミニトマトを入れるか入れないかで彩が変わるのだ。
「…よし」
呟くと待ってましたとばかりに背後から腕が回ってきた。美桜の頭に頬をグリグリと押し付けてくるのが長野県警の切れ者刑事だと一体誰が信じるだろうか。お前は犬か。
弁当を布巾で包んでカバンの中に入れる。その間も背中には大きな犬がくっついて離れない。だが刻一刻と家を出る時間が迫っている。二人ともそれがわかっているからこそスキンシップを辞めない。もしかしたら今日で最後かもしれないのだ。
中学生の時に両親を交通事故で失った美桜は、当たり前の日常は決して当たり前ではないことをよく知っている。だからこそ感謝を忘れないし、物事を後回しにしない。
一般人ですらいつ事件事故に巻き込まれるかわからない世の中で、刑事の高明は自ら事件に関わっていく立場にいる。当然普通に暮らしている人々よりリスクが高いため美桜は気が気ではないが、仕事なのだから仕方ない。
だからこそ美桜は愛情も感謝も素直に口にするようにしている。
そうしている間にも時間が来てしまった。
美桜は高明の腕をぽんぽんと軽く叩くと、緩んだ腕の中で身体を反転させた。一見細身ながらも筋肉質な身体に抱きついて一日のエネルギーを充電する。
美桜はその状態で背伸びして唇にキスをしようとしたが、身長差があるため顎の辺りまでしか届かない。「フッ」と笑った高明が頭を傾けることでようやくキスができる。チュッチュッとリップ音を廊下に響かせていると、機械的に時間を知らせる音が鳴った。アラームを設定しないとキリがないのだ。
「……行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「えぇ、行ってきます。」
愛情のこもった弁当を持ち、キスの名残りで唇を濡らした高明は刑事らしくキリッとした顔で家を出た。その足音が遠ざかるまで美桜はその場から見送る。
「っは〜〜〜、……好き。」
足音が完全に聞こえなくなってから美桜は廊下に崩れ落ちた。旦那が好きすぎて辛い。
旦那を愛している。
