コウメイさんの奥さまは、
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
いくら高明が優秀だとしても、人間であることは変わりない。
皮膚を裂けば赤い血が流れるし、強い衝撃が加われば骨が折れる。頭と胴体が離れれば死ぬし、酸素や血が足りなくなっても死ぬし、心臓が動かなくなれば死ぬ。人間は生きているだけで奇跡の存在なのだ。
なにが言いたいのかというと。
「困りましたね……」
高明は眉尻を下げて窓の外を見た。
空は高明の心とは違って憎たらしいほどに青く澄み渡っている。時折吹き込んでくる心地の良い風がカーテンを揺らすのと同時に、高明の心を覆う雲を吹き飛ばしてくれればいいのだが、そう上手くはいかない。
高明の心を曇らせているのは他でもない、今の自分の状況だ。
今日も事件の捜査にあたっていた高明は、被疑者を追っている最中に銃弾を腕に受けてしまったのだ。幸いにも掠っただけで済んだが、何針か縫われてしまった。利き腕なこともあり、しばらく不自由な生活を強いられるだろう。何より、美桜に心配をかけてしまう。圧倒的に後者の理由が高明の心に暗い影を落としていた。
噂をすれば、病院にも関わらずドタバタと騒がしい足音が高明のいる病室に近付いてきている。数拍後にはノックもなくドアが開けられた。
「高明さん!!!」
息を切らしながらよろよろと歩み寄ってきた美桜は、腕に包帯こそ巻いているがそれ以外問題なさそうな高明を見て心底安心したようだった。テーブルに持ってきた高明の入院セットを置いて自分も椅子に座る。
「心配かけましたね。この通り腕以外は全く問題ありません」
「……よかった、よかったよっ…!」
銃で撃たれたと聞けば、いくら本人の口から問題ないと聞いても自分の目で見るまで信じられないだろう。高明は心配されていることに嬉しさと申し訳なさを感じながら、美桜の身体を抱き締めて宥めた。
しばらくして落ち着いたのか、美桜はいつも通りの調子を取り戻した。
「利き手だから大変だね。でも安心してね。私がご飯食べさせてあげるし、髪も洗ってあげるから♡」
「……よろしく頼みます」
高明は利き腕の怪我以外にも爆風に飛ばされて頭を打ったりしていたため、一日だけ検査入院を言い渡されていた。
退院後もしばらく包帯は取れない。動かすと傷が開いてしまうため出来るだけ安静にした方がいいが、少なくとも食事くらい自分でとれる。が、高明は美桜のやりたいようにさせていた。動かすと痛いのは事実だし、何より楽しそうにスプーンを己の口元に運ぶ美桜に「自分でやります」とは言えなかった。そんなこと言ったら最後、捨てられた子犬のような目で見上げてくるのだ。
「ブー! クックックッ!!」
「……」
「ほら、高明さん口開けて?」
「……はい、」
流石に人がいる時はやめて欲しかったが。
同じく検査入院する大和に、高明は咀嚼しながらジト目を送った。「お前も同じ目にあってしまえ」という怨念がこもった目だ。そしてそれは現実となる。
「由衣ちゃんもやってあげてよ。大和さん食べにくそうだし。」
「えぇぇぇ!?!?」
「それにさっきから高明さんのことチラチラ見てるのよ。多分由衣ちゃんにあーんしてもらいたいんじゃないかな」
「違う違う!!! 断じて違う!!」
「ほら!! 否定の仕方が怪しい!!」
「ちょ、マジで違うから!!」
大和が否定すればするほど怪しさが増していく。
美桜は上原に「ほら、早く」と目で指示した。その勢いに押された上原は大和のトレーにあったスプーンとスープの器を手に取ると、口元にスプーンを持って行った。
「…あ、あーん」
「……、」
唖然としてスプーンと上原の顔を交互に見る大和と、顔を真っ赤にして俯く上原。そしてそれをにこやかに見守る美桜と、溜飲が下がって口角が上がるのを抑えられない高明。病室とは思えないほどカオスだ。
家に帰ってきてからも美桜は何かと高明のためにやりたがった。当然入浴もだ。
「痒いところないですか〜?」
「……大丈夫です」
人の頭を洗ってもらうのは心地が良いため好きだが、この状況は色々不味い。入浴なのだから当然全裸の高明と、同じく全裸の美桜。高明は腰に、美桜は身体にタオルを巻いているが、美桜の付くべきところに肉が付いた魅惑的なボディラインは全く隠せていないし、何度も見て触って知っているそれらを思い出してしまい、気が気ではない。この薄っぺらいタオル一枚では何も隠せやしない。色々と。
気持ち良いがどこか苦行だった入浴を終えた高明を待っていたのは、想像していなかったものだった。
「高明さんは動いちゃダメだからね?」
そう言ってベッドに押し倒されたのだ。高明も男だ。その可能性を一ミリも考えなかったかと問われれば否定出来ない。
だが美桜に限ってそんなことはないだろうとも思っていたのだ。良い意味で予想を裏切られた。
「……美桜、さすがにこれは、」
「高明さんは怪我してるんだから動いちゃダァメ。私が動くの。……一緒にお風呂入ったらなんか、ムラムラしちゃった」
高明は怪我していない方の手で自分を顔を覆った。
何故怪我をした。怪我さえしていなければムラムラした美桜を存分に味わえたというのに。だが怪我をしなければ頭や身体を洗ってくれることも、こうして押し倒してくれることもなかっただろう。
ナイス怪我をした自分。ドンマイ怪我をした自分。矛盾した想いが高明の頭を忙しなく行き交う。
その後高明は無事美桜に食べられた。が、もちろん後で食べ尽くした。そして翌朝「怪我してるのに動いちゃダメでしょ!?」と下着姿の美桜にベッドで怒られることとなる。
怒られている高明は終始楽しそうに笑っていた。
たまには怪我するのも良いかもしれない。そう思ってしまうのは惚気だろうか。
旦那を看病する。
9/9ページ
