コウメイさんの奥さまは、
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万年新婚夫婦の高明と美桜はどのように恋に落ちたのか。これは二人の馴れ初めの話である。
「高明さん、私…、貴方のことが好きです。」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しく思います。」
告白の返事とは思えないほど淡々と返したのは最近刑事課に配属された諸伏高明である。東都大学法学部を首席で卒業しておきながらキャリア試験を受けない変わり者だ。
そんな高明は交番勤務時代に発生した事件の被害者である涼森 美桜に好まれていた。この告白ももう数十回目である。
初めて告白された時、高明もそれはそれは丁寧に返した。高明は鈍い男ではないので美桜からの好意にはとうの昔に気付いていた。だがそれを言葉に出して伝えてくれるのはやはり嬉しいもので、胸にしまい込んでいる初恋の甘酸っぱさを思い出したものだった。
結果的にはお断りしたのだが、それでも嬉しいものは嬉しいし、警察官になってから関わった最初の事件の被害者となれば特別に思ってしまうのも仕方がない。
だが、美桜は諦めなかった。
「高明さんの正義感に溢れたまっすぐなところとか、会話に故事成語混ぜてくるユーモアなところとか、でも推理に夢中になると周りが見えなくなっちゃう子どもっぽいところとか、本当に大好きです!」
「……ありがとうございます」
会うたびに大好きと言ってくるのだ。
以前、高明は聞いたのだ。告白をして断られれば、その後気まずくなってしまうのではないか、と。普通に考えたらそうだろう。だが美桜は違った。
「私が高明さんを好きってことを、他でもない高明さんが知ってくれたってことですよね? そんな有利なことありますか? ……だっていやでも意識するじゃないですか、私のこと。」
この返事を聞いた時から、既に高明の負けは決まっていたのかもしれない。
そして会うたびに告白されて断るのが恒例の流れになっていった。そもそも2人だけで会う時点で高明も美桜のことを好ましく思っている証拠だ。それがわかっているからこそ美桜も告白をやめない。
「わー! 今日スーツじゃないですか〜♡ この姿で職質とかするんですか?」
「職質はあまりしませんね。聞き込みならしますが。」
「えぇ〜♡ こんな高明さんに質問されたら全部喋っちゃいそう!! "昨日の夜8時から9時頃、どこで何をしていましたか?" って聞くんですよね!?」
声色を変えて芝居がかったセリフを吐いた美桜は期待に満ちた目で高明を見た。「言って言って!」と顔に書いてある。
「では美桜さん。貴女は昨夜8時から9時頃、どこで何をしていましたか?」
「きゃーー!! かっこいいーー!! ………昨日の8時から9時はー、バイトしてました! でも途中で食材が足りなくなって一人で買い出しに行ったので…」
「なるほど。スーパーの防犯カメラに貴女の姿が映っており、なおかつ行った時間と戻った時間の整合性が取れればアリバイはありますね。」
「じゃあ次私の番ですね! ……諸伏さん、貴方は昨日の夜8時から9時頃何をしていましたか?」
「その時間は仕事を終えて帰路に着いていた頃ですね。当然一人ですのでアリバイを証明する人はいませんが、途中ガソリンスタンドに寄ったのでそのレシートならあります。」
「ふむ。それでは事件現場はガソリンスタンドの隣なので、貴方には犯行が可能だったということですね!?」
急に事件現場がガソリンスタンドの隣の設定になったようだ。
「ですが自宅近くのコンビニに立ち寄ったので、その防犯カメラを確認していただければわかるかと。」
「ぐぬぬ…」
そんな簡単に容疑者が絞り込めれば刑事たちはもっと楽だろう。
翌日が非番の夜に食事をしたり、休日に昼間からカフェに行ったりしていると瞬く間に季節が流れた。そして二人が出逢って半年が経ったある冬の日、美桜からの連絡が急に途絶えたのだ。
「……おかしいですね」
いつもなら毎日何かしらメッセージが送られてくるのだが、一昨日から何も送られてこないのだ。
そして高明は自分が美桜からのメッセージを嬉しく感じ、癒されていたことに気付いた。もう数えきれないほどされた告白だって、最近は気を引き締めないと同じ言葉が出てしまいそうだった。
これはしてやられた。
高明は片手で笑いそうになる顔を覆い隠した。自分の恋心を自覚すると急に世界が変わった気がする。早く彼女に会いたいし、早く抱き締めて一生懸命に愛を紡ぐ唇を己ので塞いでしまいたい。
居ても立っても居られなくなった高明は以前教えられた住所を訪ねた。小綺麗なマンションのインターフォンを鳴らすと随分と時間を空けて返事があった。
「……はぃ、」
「諸伏です。連絡が取れないので来てしまいました。大丈夫ですか?」
「あっ、高明さん……ちょっと今は立て込んでて…、」
「ほう。困ったことが起きているならお手伝いしますが。」
「ぃえ、そういうのでは、ないです…」
いつもの覇気がない。美桜は高明に会うと、ブンブンと左右に振られる犬の尻尾が見えそうなほど嬉しそうなのだ。そして高明は以前美桜の口からぽろっとこぼれ落ちた言葉から、ある仮説を立てた。
美桜は時折、襲われる夢を見るのだという。記憶とも言っていい。襲われた瞬間を何度も繰り返したり、犯人がその顔に歪んだ笑みを浮かべながら追いかけてくる夢を。天涯孤独で一人暮らしする女性にとっては非常に辛い夢だ。
「美桜さん、開けてください。」
「え、いや、」
「嫌ではありません。開けてください。」
強い口調で言われた美桜は言われるがままロックを解除した。すぐに部屋の前まで来た高明が再びインターフォンを鳴らし、仕方なく美桜が鍵を開けるとすぐにドアが開かれた。
美桜の顔を見た高明は己の仮説が正しかったことを知った。
「……はぁ。全く貴女は。……こんな時は頼ってください。」
目の下には真っ黒な隈。ふっくらとしていた頬は痩け、今にも倒れそうなほど青白い顔。美桜は夢を見た日からトラウマが邪魔をして食事が喉を通らず、目を瞑っても犯人の姿が脳裏に浮かんで眠ることが出来ていなかったのだ。
「いえ、それは私が悪いですね。貴方の好意にずっと甘えて、自分の言葉で伝えていませんでした。」
ずっと断っていたから美桜は本当に辛い時に頼ることが出来なかったのだ。美桜とて好きな人の前では可愛く思われたいし、キラキラしている自分だけを知っていて欲しいと思うのだ。
「……とりあえず、入れていただいても?」
「あ、はぃ」
初めて室内に入った高明は自然と中を見渡した。白とベージュを基調としてまとめられた部屋は実に女の子らしい部屋だった。テーブルの上には病院に行って処方してもらったのだろう、薬局の袋とミネラルウォーターが置かれていた。しかし中の薬は一錠も飲まれていなかった。
「……そ、それ食後に飲むやつだから、」
処方日は今から4日前の日付。つまり4日間何も食べていないわけである。高明はため息をグッと飲み込んで美桜に向き直った。空腹感を聞けば全くないという。ではとりあえず寝かせよう。そしてその間におかゆを作ろう。
脳内で算段をつけた高明は美桜の手を引いてベッドに入った。シングルのため2人で入れば狭いが、その分くっつけばいい。
シャンプーの香りがする美桜の頭を撫でて寝かしつける。大きな身体に包まれて安心したのか、美桜の瞼はどんどん重たくなっていった。孤独を耐えていた時とは違う、心地の良い眠りの世界に旅立つ前に言っておきたいことがあった。
「高明さん…、」
「なんでしょう?」
「ありがと…ござい、ます……だいすき…」
最後に何十回も言われた言葉を言ってから美桜は眠りの世界に旅立った。その穏やかな寝息とあどけない寝顔に安心する。
「……私もですよ」
現実と夢の狭間でその言葉を聞いた美桜が、起きた後に高明に確認して嬉し涙を流すのはまた別の話だ。
こうして旦那を落とした。
