尸魂界篇
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美桜は夜一を見送った後、目を閉じ感知に集中した。旅禍と思われる大きい霊圧が十一番隊の三席とぶつかっている。この分だとどちらが負けるか予想できた。間もなく誕生するであろう敗者の救護に誰か派遣しなければ、と隊舎に戻る。
「雫いるー?」
「おかえりなさいませ、隊長! 副隊長なら招集があり一番隊隊舎へ向かわれました!」
「ありがとう。西五十五区で十一番隊三席が旅禍と戦っているの。もう少しで決着がつきそうだから、誰かその救護に向かってくれないかしら。」
「かしこまりました!」
そう言って三席は隊員数人を西五十五区へと向かわせた。
「……終わったね」
美桜はぶつかり合っていた巨大な霊圧が消えたことを感知して窓の外を見た。西陽が空を真っ赤に染め上げている。いつもならば感嘆のため息を吐くところだが、今日はその赤さに不吉なものを感じてしまうのは何故だろうか。
先程十一番隊三席を破った旅禍が今度は六番隊副隊長の阿散井恋次を破ったらしい。喜助から聞いていた通りなかなか骨のある男だ。六番隊隊長の朽木白哉は副隊長である阿散井にしっかりとした治療をさせようとか、そういうことはしないだろう。むしろ敗北したのだからそこに捨ておけとか言いそうだ。
白哉の鬼道の師である美桜には彼の行動が手に取るようにわかった。ありえそうな、むしろ絶対そうなる未来に苦笑いしながら隊首室を出る。
どこかの隊舎内の人目につかない場所で担架に乗せられた阿散井を囲む影があった。三番隊副隊長の吉良イズルと五番隊副隊長の雛森桃である。
後悔を滲ませた吉良が申し訳なさそうに雛森に言う。
「僕が見つけたときは既にこの状態だったんだ。もう少し早く見つけて加勢していれば…」
「そんな! 吉良君のせいじゃないよ!」
「とりあえず、四番隊に連絡するよ。上級救護班を出してもらおう。」
「……その必要はない。」
吉良と雛森の後ろに立っていた白哉は大怪我を負って荒い呼吸を繰り返す自身の副官を冷たい目で見下ろした。
「「朽木隊長!」」
「牢に入れておけ。」
白哉の口からまさかそんな言葉が出ると思わなかったのだろう。ましてや阿散井は白哉の副官だ。雛森が戸惑いながら口を開いた。
「で、でも阿散井君は一人で旅禍と戦ったんです!」
「言い訳は聞かぬ。一人で旅禍に挑むということは、決して敗北は許されぬということだ。」
そう言うと白哉は背を向けて歩き出した。納得出来なかった雛森が立ち去る白哉の背に異議を唱える。
「ちょっと待ってください! そんな言い方「よせ!」」
吉良が雛森を止めた。白哉は感情を抑えて物事を冷静に判断する一方で、雛森は感情に引っ張られることが多い。他隊の隊長、しかも気難しい白哉には逆らわない方が身のためだ。吉良はそう判断した。
「申し訳、ございませんでした。」
吉良が白哉に向かって深く頭を下げる。吉良がなぜ頭を下げているのかわかった雛森も同様に頭を下げた。
白哉はその様子を横目で見た後、再び背を向けて歩き出した。
「雛森くん、指示に従おう。阿散井君を牢へ。」
吉良と雛森が渋々指示に従おうとしていたとき、すぐ側から女性の声が聞こえた。
「全く白哉君ったら。いつからあんな風になったのかしら。」
「「!?」」
白い隊長羽織を纏い、白哉が去っていった方を呆れたように見る美桜の姿があった。
「涼森隊長!!」
「お疲れさま。白哉君にいじめられてない? 大丈夫?」
「私たちは大丈夫ですが、阿散井君が…、」
雛森は担架に乗せられた阿散井を見た。応急処置として巻いた包帯に血が滲んできてしまっている。呼吸も荒いままで脂汗も滲んでいる。先程よりも悪化しているのが見てとれた。
美桜は「うわぁ痛そう」と言いながら阿散井の隣にしゃがみ込んだ。そして傷に右手を翳し、そこから薄い緑色の霊力を出した。回道だ。
( す、すごい速さで傷が治っていく… )
( 細かい霊力操作。さすが涼森隊長… )
一分もなかっただろう。美桜は止血と大きな傷の治療だけすると立ち上がった。
「あんまりやると怒られちゃいそうだから、とりあえず止血と痛み止めだけね。大きな傷はほとんど治したから、見た目ほど酷くないわ。」
そう言って片目を閉じた美桜に二人は頭を下げる。
「「ありがとうございます!!」」
「いいのよ。じゃあ私はもう行くね。」
そう言って瞬歩で消えていった美桜に二人はもう一度頭を下げた。
阿散井は回道をかけてもらったおかげか、呼吸は落ち着いており顔色も穏やかだ。さすが七番隊隊長である。
第二の四番隊として、前線にいる負傷者を応急処置しながら四番隊に運ぶ。そんな役割を持つ七番隊は他の隊よりも構成人数が少ない。
七番隊に属する者は皆回道を会得しており、なおかつ瞬歩が得意な者が多い。またそれなりに戦闘能力もあるため、遠征の際は七番隊隊士が必ず数人派遣される。それだけで生存率が跳ね上がるためだ。そんな隊を九十年前に創り上げた美桜は、四番隊隊長である卯ノ花に劣らぬ回道の腕を持つという。その噂は本当だったのだと、吉良と雛森は目の前で証明された。
気を取り直した吉良と雛森は阿散井を牢に入れるために動き出した。
その夜の隊首会で、隊長格を含む廷内での斬魄刀常時携帯および戦時全面解放が許可された。戦時特例である。
* * *
隊首会にて戦時特例が発令された翌日のことだった。朝から随分と殺気立った霊圧がいくつかぶつかり合っており、「元気だねぇ」なんて思いながら湯呑みを手に取った。
「大変です隊長…!! 藍染隊長が、何者かに殺害されたそうです!」
美桜はその言葉を聞いて口に含んでいた茶を吹き出さなかった自分を褒め称えた。「そんなわけないじゃない」と笑い飛ばしたくなるのを必死に堪える。あんな殺しても死ななそうな奴が死ぬわけがない。そんな簡単に死んでいるならとうの昔に美桜が殺している。
「遺体はどこに?」
「四番隊だと思われます。」
「藍染隊長のご遺体を確認しに行きますか」という雫の質問に、美桜は二択で答えることができなかった。なぜなら藍染の遺体など存在しないのだから。
( 藍染の "偽物" の遺体を確認しに、ね。 )
そう、美桜は藍染の始解を今まで一度も見てこなかった。真子や喜助から鏡花水月の解放を見てはいけないと散々言われていたのだ。その恐ろしい能力を耳にタコが出来るほど聞かされてきた。それを知っていながら始解を見る者などいない。
おそらく、藍染はそのことに気付いていないだろう。なぜなら藍染が始解を皆に見せているとき、美桜もその場にいた。しかし離れていたのだ。
美桜は自分を中心として五歩程しか見えていない。それより離れた場所は霊圧感知で位置や状況を把握している。つまり、周りから見れば解放を目撃しているが、美桜自身には見えていないのだ。
「遺体を確認しに行こうか。」
美桜はあえて「誰の」とは言わずに雫と共に四番隊へ向かった。
四番隊隊舎内付近にいた隊士に卯ノ花の元へ案内してもらう。美桜がここに来た理由がわかったのだろう。卯ノ花はすぐにどこかへ歩き出した。雫と黙ってその背に着いていく。
やがて一つの部屋の前で止まった卯ノ花に目線で入室を促される。軽く会釈をしてから扉を開けると、ベッドが一つ。見つかった遺体だろう。短い黙祷を捧げてから、顔に乗せられた白い布をそっと取り払う。そこには藍染ではない、スキンヘッドの知らない隊士がいた。
これで確定した。藍染は自分を死んだように見せかけることで、今後の計画をより円滑に進めようとしているのだ。
美桜が雫と卯ノ花をチラリと横目で見ると二人とも悲痛な顔をしていた。やはり二人の目には藍染に見えているようだ。
確認を終えた美桜は卯ノ花に挨拶をすると雫と部屋を出た。そのまま七番隊隊舎に戻ろうとするが、確認しておきたいことを思い出して足を止めた。
「ねぇ雫。」
「はい。」
「ちょっと寄り道していかない?」
護廷十三隊の隊長ですら立ち入ることを禁止されている区域。そこに中央四十六室の議事堂や住居がある。
世間的には死んだとされる藍染が身を潜めやすいのはどこか。姿を見られず、かつ情報が集まり戦局を常に把握できる場所。そんなものここしかない。
しかも中央四十六室は既に藍染の手に取って全滅している。ここにいれば煩わしいことなど何もないのだ。
四番隊で藍染の霊圧を感知しようとしたが、本人も霊圧を抑えているのだろう。離れすぎていることもあり感知出来なかった。しかし近くまで来れば感知出来る。
( やはり、ここにいるわね )
基本はここから動かないだろう。しかしそれを決めつけると視野が狭くなるため注意が必要だ。
向こうは美桜も鏡花水月にかかっていると思っている。そのため、もしかしたら隊員になりすまして出歩くかもしれない。その時に顔色を変えてしまえば今までのことが水の泡だ。
美桜は禁止区域の壁を睨んだ後、踵を返して七番隊隊舎へ戻った。
そんな美桜の様子を見る影が二つ。
「ギン、少し頼まれてくれるかい。」
「なんやろか。」
「……涼森 美桜のことだ。」
市丸はその狐のような目を弧にした。
「どうやら彼女、相当鋭いみたいだ。このタイミングでここに来るということは、何かこちらのことを知っているのだろう。」
「そないな人には見えへんけどなぁ。」
市丸は藍染の頼まれごとをするために大霊書回廊へ向かった。パネルで資料の場所を検索し、出てきた棚へ向かう。
「こら驚いた。あの人の奥さんやったんか。」
市丸はそこに書いてあったことに、細い目から水色の瞳を覗かせた。
それは一枚の婚姻届の写しだった。
夫の欄には百余年前に虚化実験の犠牲になった懐かしい名前。自身が三席であった頃に見ていた、見かけに寄らず綺麗な字。隣の妻の欄には涼森 美桜、と女性らしいしなやかな字で書かれていた。証人は京楽春水と浮竹十四郎。随分と豪華な証人だ。
市丸はその写しを持ってすぐに藍染の元へ戻った。
「藍染隊長。彼女、平子隊長の奥さんやわ。」
市丸はそう言って先程見つけた婚姻届の写しを藍染に渡した。
「ほぅ、これは驚いた。ではこちらのことを知っていると考えてよさそうだね。」
「どないします?」
「殺します?」と言外に聞く市丸に、藍染は笑みを深めた。
「いや、いいよ。彼女一人いたところで、我々は止められない。」
その言葉を聞いた市丸も藍染と同様笑みを深めた。
決戦の時は近い。
朽木ルキアの処刑の日に藍染は反旗を翻すだろう。
朽木ルキアの処刑を阻止しようとする旅禍。それを隠れ蓑にして確実に進む藍染の計画。
それぞれの想いが交錯するなか、その時は確実に迫っていた。
