尸魂界篇
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「朽木ルキアが霊力譲渡の重罪?」
美桜は副隊長の雫からの報告に自分の耳を疑った。滑らかに動いていた筆が急に止まったせいで紙に黒い墨が染み込んでいく。書き直し確定だ。
それに気付いた雫は軽く謝罪を口にすると、目線で促されたため続きを報告した。
「はい。朽木ルキアは現世への駐在任務中なのですが、その際に人間に対する霊力譲渡を行ったようです。」
「霊力を貰った側は?」
「……報告によると、死神化して虚を倒したそうです。」
俄には信じがたい。雫もなのだろう、随分と言い淀んでいた。
いくら死神から霊力を譲渡されたからといって、おいそれと死神化に成功しないのだ、普通は。異質な力を生身の人間に注ぐため拒絶反応も起こるだろう。それらを超越して死神化まで辿り着けるのはほんの一握り。むしろ長い尸魂界の歴史の中でも成功した例はほぼない。
つまりは成功しただけでも御の字なのにそのまま虚を倒すなど、一体どこのサクセスストーリーだ。
「確保は朽木隊長かなー」
「……何故そう思うのですか?」
「四大貴族だからね、あそこは。要は面子の問題よ」
「なるほど。」
例え心が張り裂けそうなほど痛んでも、白哉は自ら手を挙げるだろう。それが朽木家当主のなすべきことと判断すれば、心を押し潰す他ないのだ。
( あーやだやだ )
大切な義妹を守りたい白哉と朽木家当主の白哉の、相反する考えに板挟みになるのを想像するだけで吐き気がする。美桜は肩をすぼめて見せると立ち上がって窓の外を見た。
いつも通り穏やかな時間が流れている瀞霊廷。部下が演習場で鍛錬に励む声や廊下で立ち話をする声が聞こえる。
なぜか、再びこんな時間を過ごすことができる日がしばらく来ない。そんな予感がした。
その二日後、朽木ルキアが霊力譲渡の罪で極刑に処されることが通達された。
* * *
( そんなに
美桜は考え事をしながら帰宅した。暗い家に真子が帰ってきていないことを知る。
ふと玄関ポーチに並んだ真新しい大きな靴が目に入って笑みが溢れた。先日買ったばかりのそれは随分と先の尖った革靴で、一体その先端で何を刺す気なのだと言ったら拗ねてしまったのは記憶に新しい。真子は拗ねるとわかりやすく口が「へ」の字になるのだ。元隊長で今は実質仮面の軍勢のまとめ役にも関わらず、時折出る幼い表情が美桜は好きだった。
あれから何十年という時を経た今も美桜と真子は同じ家で暮らし、毎日同じベッドで寝ている。もちろんラブラブの熱々だ。百年以上一緒にいれば性格も似てくるのか、元々少なかった喧嘩はさらに少なくなった。といっても大きな喧嘩がないだけで、思い出せばくだらなすぎて穴に埋まりたくなるような小さい喧嘩というか、言い争いはする。
夕食の準備は早く帰ってきた方がやることになっている。美桜は部屋着に着替えてからエプロンを着けると脳内で考えた段取り通りに動き始めた。
里芋の皮を剥きながら思うのは今日の隊首会の内容だ。
「…人間への霊力譲渡は確かに禁忌だけど、双極を解放してまで処刑を行う必要があるの?」
「ないな。」
声と同時に美桜の腹に腕が回り、肩には顎が乗せられた。
美桜は振り返りながら同じ高さにある薄い唇にチュッと音を立ててキスをした。
「おかえり。」
「おん、ただいま。」
何十年、何百年経っても変わらないやり取り。そんなやり取りができるこの日常がずっと続きますように。そう願わずにはいられない。
「美桜チャン、今日の夕飯何やろかー?」
「今日は里芋と大根のそぼろあんかけとサラダ、お味噌汁でーす!」
真子の少しふざけた話し方に、美桜も同じように返す。真子は「お、美味そうやな」と言った後、着ている服の裾を何回か折り返した。
「俺もやるわ。」
「ありがとう。」
美桜は真子の申し出に微笑んだ。一般的な男性のように女に家事を任せることなく、自分から率先してやってくれる。前に家事が好きなのか聞いたことがある。返ってきた答えは「好きでも嫌いでもない」。じゃあなんでやってくれるの、と聞けば、やらなければ美桜がやることになるし、二人でやれば早く終わってその分一緒にいれるから。要約するとそんな理由だった。美桜が惚れ直したのは言うまででもない。
真子の言う通り、二人でやればあっという間に夕食が出来上がる。それをテーブルに並べて手を合わせる。まずは腹ごしらえだ。二人ともお腹が空いているため一言二言だけ交わしてあとは食べることに集中する。
半分程食べ進めた時、真子はジュースの入ったグラスを傾けながら美桜を見た。
「で、なんや。」
守秘義務を考えれば言わない方が良いのかもしれないが、そもそも美桜が隊長をやっているのは情報収集のためだ。故に些細なことでも共有するようにしていた。
何より、隊長職というものは想像以上にストレスが溜まる。主に部下のことで。個人の素質に合わせた指導や隊士同士の相性を考慮した班編成、時には揉め事の仲介など多岐にわたる。要は愚痴を言わないとやってられないのだ。
だから美桜は、守秘義務なんて知らないとばかりに全部真子に話す。
「現世に駐在任務中だった朽木ルキアが、人間に死神の力の譲渡をしたのは知ってるよね?」
「あー、この前の馬鹿デカい霊圧のやつか。あんなデカい霊圧揺らしよったら流石に尸魂界にバレるわ」
「多分その子。それに対する四十六室の決定が双極による処刑って、おかしくなーい?」
真子は味噌汁の入ったお椀を傾けながら美桜の意見に賛同した。
「おかしいな。やりすぎや。そいつ隊長格なんか?」
「ううん、ただの一般隊士。確かに養子とはいえ四大貴族だけど、そこまでやる必要あるのかな。」
「過去に双極使うて処刑したんは隊長格だけや。やけど今回はただの平隊士を双極で処刑。どう考えてもおかしいわ。」
過去の判例に則ることが大好きで仕方のない四十六室にしては違和感が残る決定だ。まるで四十六室が四十六室ではないような。そこまで考えた真子はある可能性に行き着いて思わず箸を止めた。
「なぁ美桜、………四十六室、生きとるか?」
「……ッ!? まさか!?」
「そのまさか、かもなぁ。」
美桜は真子の言葉を否定することができなかった。むしろ考えれば考えるほどその可能性が濃厚になる。
藍染の斬魄刀である鏡花水月の能力は完全催眠。一度でも始解を見た者は藍染の思うがままに五感を支配される。しかも本人はそれに気付くことが出来ないところが恐ろしい。
中央四十六室のある場所は第一級禁踏区域。護廷十三隊の隊長ですら許可なく立ち入ることを禁止されている。言い換えれば、中で何が起きても外から気付かれることがない。
もし、既に中央四十六室が殺害されていて議事堂全体に鏡花水月がかけられている場合、外から見ても異常がないため、中ではいつも通り審議が行われていると思うだろう。しかし実際は四十六人の遺体があるだけだ。審議などしていない。
それでも何か中央四十六室から告知があれば、それは藍染の都合の良い決定というわけだ。となれば尸魂界は既に、藍染の掌の上ということになる。
「…っ!」
その四十六室が「双極を解放して処刑」と判断したということは、朽木ルキアの中に何があるのかわかっているのだろう。ルキアの魂魄を破壊し、中にある崩玉を取り出すつもりだ。
美桜は気付きたくなかった恐ろしい可能性に手をギュッと握りしめた。その可能性を否定できる要素が一つもない。
真子は美桜の力が入って白くなった手に上から優しく触れた。すぐに力が抜けた手に自分のそれを絡める。不安そうに眉を下げた美桜の顔を見て、手に力を入れた。
「ええか、美桜。もう四十六室は藍染の手に堕ちた思っとった方がええ。しゃーけど命令に背いたらあかん。奴らに勘付かれんよういつも通り行動せぇ。約束やで。」
「…うん。」
「ええ子や。」
真子はこの話はもう終わりと言わんばかりに手を離して箸を持った。そしてサラダの胡瓜を口に運び、わざとらしくシャクシャクと良い音を立てて噛む。
( …こういうところが好きなんだよね )
不安を感じているときは隣にいて包み込んでくれて、話が終わればわざと間抜けな顔を見せて和ませてくれる。どこまでも相手のことを思い遣って行動する真子が美桜は好きで好きで仕方がなかった。
