虚化篇
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真子が五番隊隊長になってから、早いもので十数年の時が流れた。
隊長の補佐役である副隊長は、真子が隊長になってからずっと空席だった。
本来は繰り上がりになって副隊長になるはずの三席が辞退したのだ。他に相応しい人物もいなかったため長い間空席だった。死神は殉職が多いため役職の席が空くことも頻繁にある。悲しいことにそれに慣れてしまっているのだ。そのため副隊長の席が数年空いたところでどうということない。しかし十年を越せば流石に黙っているわけにもいかず、事あるごとに山本から急かされていた真子は、ようやく副隊長を決めた。
それが、藍染惣右介だった。
「副隊長決めたわ。」
「え、やっと? 長かったね! 良い人見つかった?」
パァーッと顔を明るくした美桜に対し、真子は口を引き結んだ。その雰囲気に何か含みを感じた美桜は眉を下げる。
「……何かあったの?」
「あったちゃーあった。なかったちゃーなかった。」
「…」
どっちやねん、と言いたくなった美桜はすんでのところで飲み込んだ。今は茶化して良い雰囲気ではない。うっかり発言をしがちな彼女だが、一応空気は読める。
「逆撫が反応するんや。似たような匂いでもすんのか知らんけど、カタカタ動きよる。」
「それってつまり、」
「せや。……あいつはなんかある。本性隠しとる。」
真子とて、別に全てを曝け出して生きていけ、なんて言わない。猫を被るな、とも言わない。ただ、あの藍染の底知れない不気味さが真子の心をざらりと撫でたのだ。
人当たりのいい笑顔の裏に隠れた真意。温厚な眼差しの奥に見え隠れする冷酷な光。
「あいつを野放しにしたらあかん。俺が責任持って監視する。しゃーから副隊長にしたんや。」
真子は最大限の警戒心を持って藍染に接した。どんな時も二歩以上間を空け、自ら壁を作り中には立ち入らせないように。
それすらも、藍染の罠だと気付かずに。
その後、美桜は真子にいくつか約束をさせられた。
「ほんまの緊急時以外、五番隊に来たらあかん。近付くのもなしや。茶髪で眼鏡ん奴に話しかけられても適当に切り上げて逃げろ。ええな?」
「……うん。そんなに危ない人なんだね。真子も気をつけてね?」
「わかっとる。」
この時の美桜は、藍染という人物がどれだけ危険なのかを全く理解出来ていなかった。会ったことない人物を危険だと言われても、自分の事として素直に飲み込めるわけないのだから、仕方のないことだった。
理解した時には、何もかもが遅すぎた。
* * *
「人語を解する虚?」
「せや。」
「それって、」
言いかけた美桜の言葉の続きがわかっている真子は頷いて返した。
「霊圧は? 消せるの?」
「発見したんが平隊士やったからそこまではわからんらしい。霊圧くらい常に感知しろ言うたわ。」
「でも人語を解すだけでも、真子が前に討伐した虚と同じだよね……」
尸魂界の長い歴史の中で人語を解する虚が報告されたのは、真子が討伐したあの蜘蛛のような虚が初めてだった。
尸魂界や現世に紛れ込んでくる虚よりも二回り小さいそれは、比べ物にならない程の能力を持っていた。人語を解し霊圧を消すということは知力があるということ。経験から学んで試行錯誤した結果、あのような進化を遂げたのだろう。
残念ながら虚は討伐すると塵となり消えていくため、あの虚の存在を証明するのは真子の証言と大量の遺体のみだ。虚に関する研究が思うように進んでいないのもそれが一因だった。
「最近尸魂界と虚圏が繋がることが多いんや。なんやバランスが崩れとるのか知らんけど、虚の討伐任務ばっかやで。……正直、あれが何体もおる思うとゾッとする。」
「……銀琉に頼んで虚圏の調査してきてもらおうか?」
思いもよらぬ提案に真子は目を見開いた。
銀琉とは美桜の斬魄刀である。空間を司る銀琉は尸魂界はおろか、現世と虚圏や断界も行き来できる。なお、斬魄刀が自分の意思で具現化し、主から離れることができるのは美桜の斬魄刀だけだ。
「美桜も行くんか?」
「ううん、流石に一人で虚圏は怖いよ……だって虚しかいないんでしょ?」
「そーゆー噂や。やけど虚圏から尸魂界に虚が紛れ込んでくるんと同じで、その逆もあるそうや…」
「私も聞いたことある……行方不明になってる死神の何割かはそうじゃないかって言われてるよね…想像するだけでゾッとする。」
美桜は恐怖心を落ち着けようと、鳥肌のたった腕を摩った。
尸魂界から虚圏に落ちてしまった死神や流魂街の民がどうなったかは想像に容易い。きっと狼の群れの中に放たれた羊のように、なす術もなく喰われたのだろう。
「やけど、見てきてくれる言うんならお願いしてもええか。」
「うん。流石に私も気になるし、虚圏で何が起きてるのかある程度把握しておかないと、とんでもないことになる気がするの…」
虚圏のことはほとんど解明されていない。わかっているのは虚の楽園であること、常に夜で砂漠が広がっているだけの寂しい場所だということくらいだ。
これまで何度も虚圏を暴こうと死神を派遣してきたが、誰一人帰ってきた者はいない。
そんな場所で何が起きているのか。知るのはたった一人だけ。
