過去篇
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【番外編】呼び方
机についた肘に顎をのせて、斬魄刀の手入れをする美桜を見つめる。愛しい恋人だけを視界に入れているというのに、目は半目で、口は見事な「へ」の字。
真子は不機嫌だった。
「ねぇ見て、真子くん!」
「これ美味しい!! 真子くんのもちょっとちょーだい?」
「好きだよ、真子くん」
美桜と出逢ってから一年と半年。
二人の関係が変わってから数ヶ月。
そして先日、ついに身体を重ねた。身も心も重ね合わせ、二人は毎日が楽しくて仕方がない。顔を見るだけで笑いが漏れ、辛く厳しいはずの修業もなぜか楽しくなる。二人で顔を突き合わせて互いの考察を言い合うのは、自分にない視点の発見があって非常に面白い。
デートだって何回もした。休日に茶屋に行くという定番のものから、ひたすら家でゴロゴロして戯れ合うもの、流魂街の崖の上で星を見上げるというロマンチックなものまで。
既にたくさんの時間を二人で過ごしてきたのだ。
つまり、何が言いたいのかというと。
「なぁ美桜。真子って言うてみ。」
そろそろ呼び捨てで呼んでほしいのだ。
何の脈略もなく言われた言葉に美桜は聞き返した。
「急にどうしたの?」
「ええから。」
美桜は真子の有無を言わさぬ声に首を傾げながら言った。
「真子くん。」
「あほ。真子や、し・ん・じ! くんなしやで!」
何が言いたかったのかようやく理解した美桜は気恥ずかしさから、真子の顔を見ることが出来ない。改めて名前を呼んでくれと言われると、頼まれた方もなんだか恥ずかしくなるのだ。
「……しんじ」
消え入りそうな声だったが、真子の気持ちを満たすのには充分だったらしい。彼は大きく頷くと「合格や」と言って美桜の頭をぐしゃっと撫でる。そのまま上機嫌に、最近よく聴いているジャズを口ずさみながら去っていく。
「……真子くんってば、一体なんだったの?」
美桜は釈然としない気持ちのまま、再び斬魄刀に向き合った。
それからというもの、真子は美桜が君付けで呼ぶと反応しなくなった。
一度身についてしまったものはすぐに変えられるものではない。それは呼び名であってもそうだった。美桜も真子が呼び捨てを希望してきたため、出来る限り努力はしている。だが咄嗟に出るのはやはり慣れた言葉だ。
「真子くん、これお願いしてもいい?」
「……」
返事がないことに気付き、また「くん」が付いていたと後悔しても後の祭り。だが、名前を呼んでも返事すらしてくれないのは寂しいものである。
「もーーー。真子くんって呼ばないようにするの難しいよ。」
「君付いとらんときあるで。」
「え?」
真子は美桜の耳元で小声で何かを言う。
それを聞いた美桜はボンッと音がしそうなほど一気に顔を赤くした。そして真子の背中を力一杯叩く。
「もう! 真子っ!!!」
美桜はこの日から真子を真子と呼べるようになったのだ。
えっちのときは呼べとるで。
ちゃうな、良すぎて全部呼べんのか。
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