虚化篇
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先日揃いのピアスを作ってからというもの、美桜はものづくりにすっかり入れ込んでいた。
霊力を霊子に分解した後、再構築して凝縮する。これは霊力操作の修業にとても良いのだ。分解することもそうだが、霊子という細かい物質を意のままに操るにはかなりの練度と集中力が必要だ。
さらに言うと、近頃美桜はまた霊力が増えた。日常生活に問題はないが、ふとした時に自分の奥底に燻っている霊力を感じるのである。
修業がてら鬼道を打って放出させているが、霊力を放出するための修業に身が入るわけがなく、ただ霊力と時間を消費しているだけだった。
それが自分の想像通りの物が作れることを知り、好みの髪飾りからあると便利なキッチングッズまで好き勝手に作っていた。溢れそうな霊力を減らしつつ、求めているものが手に入るのだから一石二鳥である。
その日、美桜は日課となりつつある霊力操作の修業をしていた。
何十回何百回とやって慣れた霊力操作を片手で行う。より素早く正確に操作することに挑戦すると何度か失敗するものの、確実に出来るようになるものだから段々と面白くなってしまうのは仕方のないことだ。
「……これこのまま固めたらどうなるんだろ」
ふと、そんなことを思った。
右手に霊力を溜めて、それを圧縮させる。圧縮する過程で何度か爆発して怪我をしたが、すぐに治った。自分の身体への時間回帰は意識せずとも出来る。まるでそれが初めから人間に備わっている自己回復機能のようだった。
これ以上圧縮することができない。そう思った時、美桜の手のひらには小さな石が転がっていた。
親指と人差し指で簡単に摘めてしまう程の大きさのそれは、楕円に加工されたアメジストのようだった。しかし大きさに見合わない霊力を放ち、中心部には霊力が渦巻いているのが見えた。
美桜は霊力の凝固化に成功したのだ。
歴史的大発明は見慣れた異空間の修業場でなされた。観客がいないのが残念である。
「霊力で作った石。霊石って名付けようかな。」
何の捻りもなく命名されたその石は、多くの可能性を秘めていた。
霊石はただ霊力を圧縮しただけのもの。つまり霊力の塊だ。ある程度の霊力の塊というものはそれだけで一種の攻撃手段になる。
圧縮されたものが元の大きさに戻るときには膨大なエネルギーを生む。圧縮に失敗したときに爆発したのはこのせいである。そのエネルギーは決して見過ごせない量だった。
他にも、霊力が枯渇した時に飴玉を舐めるように少しずつ溶かして摂取すれば、霊力が回復する。美桜のように回復もやってのける死神であれば、霊力さえあれば怪我をしても回復し、再び戦うことができる。
「……ってことがあってね。これがその石なんだけど、」
「綺麗やなぁ。こーして見るとただの石やけど、込めとる霊力があかんわ。」
「……あはっ」
「あはっ、やないわ。どーせやっとるうちに楽しくなってもうたんやろ??」
「ソノトオリデス……」
軽く咎められた美桜は明後日の方角を見ながら片言で肯定した。反省したかと思った彼女だが、その顔が再び真子の方を向いた時には反省の "は" の字すらなかった。
「これは純粋な霊力だけど、回道の霊力でやったらどうなるかな!?」
「試すんはええけど、今日はもうやめとき。」
美桜が誰のために回道を霊石に込めようとしているのかわからないほど鈍くはない。真子は強く言うことが出来ず、頭を掻きながらとりあえず今日の修業を止めることしか出来なかった。
翌日。
終業後、食事を済ませてからいつもの修業場に移動した二人は向かい合わせになって座った。
「よし、やってみるね」
「おん。程々にな」
美桜は右手に回道を込めた霊力を出した。そもそも傷を治したいという気持ちから回道を使うことが多いため、まずこの時点で躓いた。頼れるのは己の想像力のみ。
それをそのまま圧縮するのも大変だった。ただ霊力を放出するのではなく、霊力に回復効果をのせたものを放出して、さらにそれを小さく圧縮させようとしているのだ。
例えるなら片手で綺麗な三角形のおにぎりを作るようなものだろうか。米を取り、具を入れる。まずこの時点で手が足りない。そこから三角に形づくる。何度捏ねても楕円になりそうだ。仕上げの海苔を巻くのも片手だけだ。
回道が消えてしまったり、回道を維持することに集中しすぎて圧縮出来なかったりと何度も失敗を繰り返しながら、ようやく石が出来た時には流石の美桜も集中力が切れたようだった。
「で、きた…」
もう無理、と言いながら岩に寄りかかる。その手には一番初めに作った霊石よりも小さな石。色は回道の色なのか、翡翠のような緑色だった。
真子はその石を手に取ると、陽の光に透かせるようにして観察した。
「確かに回道入っとるように見えるで」
「……えへ、よかった…」
これで真子が痛い思いをする時間が短くなる。彼女の頭に浮かんだのはそれだけだった。
真子と美桜は常に共にいられるわけではない。そもそも真子は五番隊で美桜は鬼道衆で職場が離れているし、互いにいつ遠征任務が入るかもわからない。
死神の基本である斬拳走鬼のうち、比較的鬼道が苦手な真子は回道を使うことが出来ない。もっとも、全死神の中で回道が使える者はそう多くはないため真子自身、回道を習得しようと思ったことはない。
しかし死神に怪我はつきもので、負傷すればそれだけで死亡率が上がる。つまり回道とはあることに越したことはないのだ。
「おおきにな。」
「ううん。本当は私が治してあげたいんだけどね、そうもいかない時が絶対あるから。」
自分の無事を祈ってくれる人がいるだけで「絶対に生きて帰ってやる」という気持ちが湧いてくる。だがこうして自分のことを想って何かをしてくれるというのも幸せなことなのだ。
「一応一週間様子見て問題なかったら渡すね。あとはちゃんと傷が治るか実験しなきゃ。」
「せやな。幸い明後日は修業の日やし、誰かしら怪我するやろ。」
「……これ使いたいがために怪我するのはやめてね?」
「アホ、誰がそないなことするかい。」
真子は美桜の頭を指で弾いた。そして立ち上がって死覇装の埃をはらうと、美桜に手を差し伸べた。
「今日は終いや。帰るで。」
「ん、ありがと。」
美桜はいつだって自分を引っ張ってくれる大きな手を取って家へと歩き出した。二人の指はしっかりと絡まっていた。
* * *
霊術院時代から恒例となっている毎週の修業。ようやく己の斬魄刀の名を呼ぶことが許されたリサと拳西は、対話して斬魄刀との協調性を高めるか、始解した状態でひたすら戦うかの二択だった。今日は後者である。
そんな二人を見物しながら回道のこもった霊石を作っていた美桜は荒い息を吐く二人に向かって声を上げた。
「そろそろ休憩にしよー!」
「……せやな。これ以上やっても身が入らんわ。」
「まぁ少しずつだが始解を保てるようになったしな。」
美桜はいつも通り時間回帰で治療せず、全身に細かい傷がついた二人に霊石を渡した。
「?? なんやこれ。」
「美桜が作ったんやと。回道がこもってるそうや。自分で傷治せるか?」
「すげぇな、回道入ってんのか、これ。」
「これがあれば四番隊がいなくてもある程度治療できるっちゅーこっちゃ。」
誰のためにこれを作り出したのかすぐにわかったリサは真子を見て口を開いた。
「愛されとるな、真子」
「せやろ??」
謎のドヤ顔で返してきた真子にイラッとしながら、リサは霊石を先程打ちつけた左腕に翳した。すると込められた霊力がぐるりと動き出し、淡い緑色の光を放ちながら傷を癒していった。通常の回道より幾分かペースは遅いものの、充分な出来だ。
霊石をどかせば先程までの青痣はどこかに消え、見慣れた肌色が見えた。
「治ってるね! よかったぁ…」
「これええな。アタシにも後で頂戴。」
「もちろん!」
だがこれはあくまでも応急処置。四番隊や回道が使える者がいない時のための保険にしかならないと美桜は言った。
医学を嗜んでいない者が自分の判断で「霊石を使って治したから大丈夫」と本職の者に診せずにいるのは危険だ。傷口から異物が混入していることに気付かないかもしれないし、毒にも対応できない。さらに言えば骨折は非常にデリケートなのだ。変な状態で骨が繋がってしまえば、その後の機能に支障が出る。
医学の心得などまるでない三人は美桜の言うことを胸に刻み込んだ。
一見順調かと思われていた回道の霊石だったが、問題が発生したのはその翌日のことだった。
「えっ!!!!」
霊石をしまっていた箱を開けるなり大きな声を出した美桜に、真子がやってきて手元を覗き込んだ。
箱の中には美桜が作った霊石が大量に入れられていた。はずだった。
「…回道の方、霊力抜けとるな。」
「普通の方は平気なのに……これもしかして三日しか保たないの?」
「かもなぁ。」
例え三日しか保たなかったとしても、現状からすれば画期的もいいとこなのだが、御守りとして真子に持たせたかった彼女はガクリと肩を落とした。
回道が抜けてただの透明な石になった霊石はかろうじて回道の名残りを感じ取れる程度。紙で指を切った程度の傷なら治せるかな、といった具合だ。つまりはあってもなくても問題ない。
「でも三日保ったんだし……、三日かぁ…」
悔しそうに苦い顔をしながらも美桜は今までに比べたら画期的なことだから、と己に言い聞かせる。
二人が三日以上会わないことなどほぼない。だが副隊長になった真子はこれから中長期任務に行くこともあるだろう。タイミングが合わなければ三日どころか一週間以上会えないことがあるかもしれない。その時はこの霊石は使い物にならない。どうしたものか。
そんな彼女の悩みを解決したのは、親友のリサだった。
「え、回道が抜けてないの?! なんで?!」
三日経ったら回道抜けてただの透明な石になってしまうことをリサに知らせに来たのだが、彼女に渡したそれは今も変わらずリサの傷を癒しているらしい。
「なんで?!」
信じられないのか、美桜は同じ言葉を繰り返す。
「こっちや。」
リサは美桜を自分の部屋にあげると、風呂場に向かった。
これから風呂に入ろうとしていたのか、湯がはられている湯船の中には渡した時と同じ輝きを放つ翡翠のような霊石が沈んでいた。
「なんでお湯の中??」
「……いちいち当てるの面倒やったんや。」
鍛錬で全身に傷が出来たリサは、手で持って霊石を当てるのが面倒で、湯の中に霊石を入れてそこに浸かることで傷を治していたのだ。実にリサらしい大胆な行動である。
様々な検証を行った結果、回道を込めた霊石は水に入れておけば半永久的に保つことがわかった。これで美桜の憂いも少しは減っただろう。
