幕間
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ふと集中が切れた真子は筆を置いて大きく伸びをした。時計を見れば退勤する雛森を見送ってから三時間ほど経っていた。
今日は美桜が夜勤の日。真子は夜勤ではないが、家に帰っても美桜がいないなら仕事をする方がマシだと言わんばかりに、真面目に仕事を片付けていた。その代わり二人とも早く帰れる日に一緒に帰って過ごしたいのだ。
ボーッと天井の木目を眺めていると、近付いてくる霊圧を感知した。隊士のように廊下からではなく窓から近付いてくるのに合わせて、真子は背もたれに頭をのせて逆さまの世界を見た。
「……なにしとんや。」
「なんやリサ、どないしたん?」
「無視かいな、まぁええ。……真子、これやるわ。」
リサは真子に茶色の包装紙に包まれた何かを渡した。雑誌程の大きさのそれに真子は喜色を滲ませる。毎月購読しているジャズ雑誌の新刊がそろそろ発売なのだ。
「お!! 待っとったで! ありがとさん」
「いつものだけやないで。本命は別や。」
「本命は別…? どういうこっちゃ。」
百聞は一見にしかず。リサは目線で開けるように促した。
真子はいつもの如く包装紙をビリビリに破き、中を確認した。いつものジャズ雑誌の下に、同じ大きさの雑誌がもう一冊入っていた。その表紙を見た瞬間、動きを止めた。
「…なんや、これ……」
表紙を飾るのは己の妻。無邪気な笑顔でダブルピースを決めている。背後に「涼森隊長お誕生日おめでとう」と描いてある横断幕が飾られているのを見る限り、先日の誕生日パーティーの写真だろう。雫をはじめとする七番隊隊士の他にも、リサや乱菊、卯ノ花の姿もある。
蝋燭だらけのケーキを前にダブルピースする美桜は、それはそれはかわいい。笑って垂れた目尻と笑い皺。微笑むことは多くても歯を見せて笑うことは少ない美桜が、白い歯を見せて楽しそうに笑っている。何よりこのダブルピースが子どものようで、とてもではないが護廷十三隊の隊長に見えなかった。
端的に言うとめっっっちゃかわいい。
「かわっ、………は??」
かわいすぎてキレかける真子。
表紙を捲れば翁草の絵が描かれていた。さらに捲れば始解をした砕蜂が部下に稽古をつける姿。「フンッ、まだまだだな」と人を見下すような目で、伸びた部下を見ている。人によっては大いに性癖が刺激されることだろう。
真子はこの雑誌が何であるかを正確に理解すると、急いで菖蒲のページに進んだ。そして深く息を吸ってからページを捲り、無事息が止まった。
「───ッッハ〜!!」
マグカップを両手で包み込むように持って何かを飲む美桜。ホットミルクなどの温かい飲み物だろう。伏目がちな目に長い睫毛が影を落とし、ふーっと息を吹きかけるために少し窄められた唇から目が離せない。超可愛い。
次のページは書類と戦う美桜の姿が写っていた。どう処理しようか悩んでいるのだろう。筆の掛紐の方を額に当てて難しい顔をしている。眉間に寄った皺ですら愛おしいと思ってしまう真子は重症だ。むしろ筆になりたい。
そうして一枚一枚に様々な反応をしながら進んでいくと、最後のページにはとんでもないものが写っていた。
青い空と海に白い砂浜。夏の海と聞かれて皆が想像する景色を背景に美桜が写っていた。その格好と仕草に真子の心拍数と血圧が爆発的に上昇した。
美桜は先日、女性死神協会で海に行ったのだ。写真はその時に撮られたものだろう。
海に行ったのだから、身に纏っているのは当然水着だ。胸下でクロスするデザインのホワイトのビキニは非常にシンプルなものだった。ホルターネックでも極端に谷間を強調するものでもない。水着だからこんなものだろうという程度の露出具合だったため、行く前に水着を見せられた真子も「これなら、」と思った。真子はその判断が大きな間違いであったことを今知った。
ビキニに彩られた美桜の身体は、大ッ変艶めかしかったのだ。
普段は死覇装を着崩すことなくきっちりとしているせいで、気にしていなかった者も多いだろう。それをハンマーで盛大に打ち砕く胸のボリューム。一体どこに隠していたんだと問いただしたくなるほど膨らんでいる。くっきりと影が出来ている谷間に鼻の下を伸ばす者も多いだろう。もちろんここにもいる。
「……あかん」
腹は内臓が二、三個足りないのではないかと心配してしまうほど細く、縦長の臍には唆られるものがある。臍横に薄らと入った縦の線と、臍上の辺りにくっきりと浮かぶくびれ。手で何度も撫でてその凹凸を確認したくなる。
スラッと伸びる脚は細いが、こちらは心配になるほどではない。太ももには良い具合に肉がつき、触れれば肌の柔らかさを堪能することができるだろう。
ビキニという隠しようがない服によってスタイルの良さが前面に出てしまっているのだ。
「………あかんわ」
真子の語彙力が死んだ。
そんな真子にさらなる打撃を与えたのは、美桜の仕草だった。
髪留めを落としてしまったのだろう。膝を軽く曲げながら上体を傾け、重力に従って落ちてきた髪を耳にかける。もう片方の手で砂浜に落ちた髪留めを拾おうと下におろす。
伏せられた目、スッと通った鼻筋、ボリュームの増したように見える胸。───もう一度言おう、胸だ。
決して小さくない胸が下を向くことで強調されてしまっているのだ。
「……こりゃあかんわ、」
真子は上を向くと自分の目元を手で押さえた。かわいい、かわいすぎる。そしてなんてエロいんだ、俺の嫁は。そんないやらしいことを考えては余韻に浸る。
「さすが美桜やな。ええ身体しとる。」
「うぉっ!?」
冷静に褒めるリサの声で現実に戻された。そういえばここにはリサもいるんだった。
「それ、来月出版しよ思っとる。」
「ハァッッ?! 出版?!」
真子は取り繕う余裕もなく大きな声を出した。
出版ということは、これが世に出るわけである。この艶かしい自分の嫁が不特定多数の野朗共に晒されるということだ。女性だけならまだ良い。美桜ほど見事なものを兼ね備えていなくとも、多かれ少なかれ同じものを持っているのだから。だが男、お前らは絶対許さん。
「絶対許さんで。出版? 何考えとんのや?? ……こんなもん、美桜がエロい目で見られるやないかい!!!」
真子は霊圧で威圧しながら叫んだ。リサ相手には効かないとわかっているが、感情を抑えることができなかったのだ。
「嘘や。出版せぇへんよ」
「……は?」
「真子の許可出ない思ったからな。それは真子だけの特別版や。」
「……通常版は?」
「水着の写真抜いたやつやな。それくらい許してや」
「……」
真子は押し黙った。
本人的にはそれすら許さないと言いたいところだが、そうもいかない。
まずこれは護廷十三隊の隊長格のうち、女性だけが載った写真集だ。皆がそれなりの写真を載せているため、美桜だけ載せないというわけにもいかない。それでは不祥事を起こしたみたいになってしまう。
そして、許可を取りに来たという建前で真子に特別な写真集をくれたリサの顔も立たない。
( ここが落としどころやな…… )
真子は唇をギリッと噛むと、愉快そうに真子の反応を観察しているリサに言った。
「……水着だけは絶対許さんからな。」
思ったよりも低く、力のこもった声が出た。
リサはフッと笑ってから「決まりやな」とだけ言って瞬歩で消えていった。
まるで嵐のようだった。
とてもではないが仕事をする気になれない真子は机を片付けると、写真集を広げた。見るのは嫁のページのみ。それ以外は目に映らない。
「っはーーーーー、かんわえぇ」
五番隊隊首室にはしばらくそんな声が響いていた。
