千年血戦篇
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美桜は霊王の右腕が抜け切って力なく倒れ込む浮竹の身体を異空間に入れた。
彼には生きていてもらわなければならない。護廷十三隊の総隊長になって一週間も経っていないのに、既に心労を抱える京楽の精神安定剤になってもらわなければならないのだ。京楽に "千年近く共にいた親友の死" という絶望を与えてはならない。
何より、美桜も師である浮竹の死を受け入れることなどできない。これは美桜のエゴだった。
とはいえ、それらは全てユーハバッハを倒し、世界を護ることができて初めてできること。
まずはユーハバッハを倒すこと。それが第一優先だった。
浦原が霊王宮への門を作成するためにパネルを操作していると、突然全てのモニターが赤く染まって警告音を鳴らした。何が起きたのか把握するために感知能力を最大にして霊王宮を探ると、黒い霊力が迫ってくるのがわかった。
それは木や建物を呑み込み、黒く濁った津波のように瀞霊廷を破壊していく。
「なに、これ…!」
よく見れば大きな目玉がひとつとたくさんの牙が生えた口があるだけの化け物だった。それが逃げ遅れた死神の身体に喰らいつく。
「まずい!! 研究室を護れ!!」
始解をした斬魄刀で化け物を祓った誰かが叫んだ。
「結界を張ります!!」
美桜は一度手を合わせて術式を構築すると、それを地に叩きつけた。音もなく半透明な円型の結界が美桜を中心として張られる。
ただの結界ではない。結界を境に微妙に空間を歪ませているため、空間に干渉できるものでないと中に入ることができないのだ。当然化け物たちにそんな芸当ができるわけもなく、ただ結界にぶつかり弾け、黒い液体を撒き散らしながら消えていく。
「これなんだと思う?」
「知らんけどえらいきもいなぁ」
「一匹で既に気持ち悪いのに、なんでこんなにいるの?」
花火のように弾ける泥団子より汚いそれらを結界の内側から観察して顔を歪めた美桜は、隣にいる同じような顔をした真子とそんな会話をしている。
話しているそばから結界にぶつかっては弾け、黒い液体を撒き散らして死んでいく。この化け物は一体何のために産み出されたのだろうか。
その時だった。
「「「───ッッ!!!」」」
忘れもしない、あの霊圧。
肌をざらりと撫で上げ、心臓を氷水に浸したような感覚を齎す、圧倒的な霊圧。それは誰よりも強いが故の孤独を孕んでいた。
あの夜の出来事も、肝を嘗めさせられた百余年の月日も、その身に刃を入れたときの感覚も、何一つ忘れてはいない。奴の霊圧ひとつで心の奥に押しやっていたそれらが鮮明に思い出される。
「藍、染……!!」
誰かが息を呑んだ。まさか、なぜここに、無間にいるはずでは。
だが一同の目に映ったのは、無骨な鈍色の椅子に拘束された藍染惣右介その人だった。
「貴様は…!!」
「なぜお前がここにいる!! 藍染!!」
「……朽木ルキアか。副隊長昇格おめでとう。我々との闘いの功績が認められたようで何よりだ。」
この状況で祝いの言葉を言える者が一体どれだけいるだろうか。いつ見ても、己が封印され能力を大幅に制限されている状態でも、常に顔色を変えないその余裕ぶりがルキアの癪に障る。
「無間に囚われているはずの貴様が何故ここにいる……!!」
「戒めを解かれたのさ。」
「ばかな!! 一体誰に!!」
「ボクだよ。」
「……京楽総隊長」
非難の視線を一身に受けた京楽はそれでも堂々と藍染の横に立った。
「何故と聞くだろうから先に言うけど、彼の力が必要だと判断したからだ。」
「……なっ!!!」
「何言ってんすか京楽隊長!!」
「こんなやつの力を借りるなんて納得できねぇ…!」
「恥知らずめ!」
「………」
美桜は隣にいる真子の手をそっと握った。彼女なりに真子を安心させようとしたのだ。あいつは無間の
美桜の行動を正確に理解した真子はすぐに細い手を握り返した。大丈夫や、と。
他の隊長副隊長は直接被害に遭ったわけではない。京楽が藍染を無間から出したことに意を唱える資格を有するのは、本当の意味では真子たち元仮面の軍勢と浦原喜助ら三名だけなのだ。
「……京楽隊長らしいね。」
「せやなぁ。やっぱ爺さんの後釜はあの人しか出来ひんわ。」
二人は痛いほどわかっていた。真子は感情だけで物事を判断する人ではないし、物事の本質を見極めることが出来る人間だ。美桜も百年以上隊長をやっているし、上に立つものならではの苦悩をそれなりに経験してきている。
藍染が皆にしてきた到底許しがたい仕打ちと、護廷を天秤に載せる。当然瀞霊廷を護ることに軍配が上がるわけだが、隊士たちの心は踏み躙られることとなる。だが相手の戦力、残っている死神の数と能力、瀞霊廷の壊滅状況、そして尸魂界だけでなく現世と虚圏の存続がかかっていると考えれば、隊士たちの心を潰してまで藍染の力を借りなければならなかった。
「……君らがしてるのは面子の話かい? それじゃあ護廷の話をしようか。面子だけじゃ世界は護れない。……悪を倒すために悪を利用することを、ボクは悪だと思わない。」
元を辿れば、藍染の力を借りずともユーハバッハを倒すことが出来るならこんなことにはならないのだ。全ては我々死神がユーハバッハより弱いから。この一言に尽きる。
「「「………ッッ」」」
理解できるが納得はできない。皆そんな表情だったが、京楽とて好きで藍染を連れてきたわけではないのだ。
「後でいくらでも殴っていいさ。……世界を護れた後でね。」
護廷十三隊総隊長は嫌われ役も兼ねているのだろうか。京楽はぼんやりと思った。だとしたらこの椅子に千年以上座り続けた己の師は化け物に違いない。「やっぱり山爺は怖い人だったねぇ」と冗談めかして浮竹に言いたい。
京楽は研究所の中心部を残った左目で見た。浮竹の霊圧が色濃く残るものの、本人はそこにいない。彼の中に何がいたか知っている京楽は今の状況が容易に想像できた。
( お疲れさん、十四郎… )
世界を仲間と部下、そして親友に任せて散っていった。
京楽は目が熱くなるのを感じたが、気合いでそれを呑み込んだ。涙を流したところで何も変わらないのだ。千年前から続くこの闘いも、押し潰されそうになる総隊長としての重圧も、親友の死も、何ひとつ。
「……春兄。」
「なんだい、涼森隊長。護廷十三隊総隊長が春兄呼びされてるなんて、格好付かないじゃないか」
そんな風に戯けて言ってみせる京楽に美桜は顔を顰めると、京楽だけに聞こえる声で言った。
「大丈夫だよ。もう一緒に隊長は出来ないけど、飲み明かすことは出来るから。」
「……!!! ほんとかい、美桜ちゃん、」
「うん。」
護廷十三隊総隊長としてではなく、ただの京楽春水にとって何よりの吉報だった。
京楽は目元を大きな手で覆い、数秒してから前を向いた。
何か吹っ切ることが出来たのだろう。あとは世界を護るだけだと、前向きになれたのかもしれない。背中を押されたのかもしれない。
「みんな、力を貸して欲しい。」
京楽の顔にはもう迷いはなかった。憂いもなかった。皆で力を合わせればきっと出来る。そんな強い想いだけが感じられた。
