虚化篇
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大鬼道長に休職届を提出した美桜はその翌日から引継ぎを行った。自分の執務の見直しから机の整理まで、執務時間中は慌ただしく過ごす。
そんな日々の間を縫い、なんとか真子と休日を合わせて十三番隊に来ていた。
一般的な就業時間が終わり、どこかゆったりとした空気の十三番隊を二人で歩く。話したいことがあると伝えてあるため、京楽と浮竹は既に十三番隊の隊首室である雨乾堂にいる。
「失礼します」
「お、よく来たな。待ってたぞ。」
「先に始めてるよ〜」
いつもの笑顔で温かい茶を出す浮竹と、湖をみながら既に酒を飲んでいる京楽。美桜には見慣れた光景だ。
「で、今日はどうしたんだい?」
二人で話し合って綿密な計画を立ててきた。
いきなり本題に入らずに、まずは他愛のない話から始める。今は真子が五番隊隊長に就任したばかりのため、気がかりなことや愚痴なんかを話していればあっという間に時間も過ぎ、場もほぐれるだろう。
そしたら真子が結婚したい旨を伝える。何度も話し合って頭の中で想像もしてきた。
だが、現実はそう上手くいかない。
「結婚します!!!」
「……は、」
「……へ、」
「ちょ、美桜! 段取りどうしたんや!!」
「あ!!!!」
美桜は慌てて口を押さえるが、一度出た言葉は二度と戻ってきてくれない。
京楽と浮竹は目を大きく見開いたまま微動だにしない。きっと呼吸も止まっているだろう。彼らの人生の中でこれほど隙だらけな瞬間は向こう百年はないだろう。
その沈黙を破ったのは、涙だった。
「……え、」
「いやぁ、歳とると涙脆くなって仕方ないねぇ」
「全くだな。」
京楽と浮竹は揃って目元を押さえて俯いた。二人にとって美桜とは、娘のような存在だった。師と弟子とはいえ、美桜の背が彼らの腰辺りの時から面倒を見ていたのだ。毎日のように会いに行き、修業を見てともに夕食を食べて帰る。血で繋がれた絆ではないが、そこには確かな繋がりがあった。
そんな小さな女の子だった美桜が、結婚。二人の涙腺をぶち壊すには充分だった。
「本当に、おめでとう」
「幸せになるんだぞ。」
「もう充分なのに、真子がもっと幸せにするって言うの」
「当たり前やろ。」
「平子君になら任せられるよ。僕らが大事に育ててきた美桜ちゃんのこと、頼んだよ。」
嬉しそうで、でもどこか寂しそうな目をする京楽に美桜は耐えられず飛びついた。
「春兄〜〜!!!」
「…おっと! 大きくなったねぇ、本当に。どうりでボクらが歳とるわけだよ」
「美桜、俺にはないのかい?」
「四郎兄〜〜!!!」
「っはっはっは! 本当に大きくなったなぁ。」
ひと通り騒ぎ立て、ようやく落ち着きを取り戻した三人は元の位置に座った。美桜は一枚の紙を取り出す。
「で、二人にはこれ買いて欲しいんや」
「ボクらでいいのかい?」
「もっちろん!!」
「喜んで書かせてもらうよ」
それは婚姻届。必要事項は既に埋まっており、残りは証人の欄だけだ。
婚姻届の証人になって欲しいという嬉しすぎる願いに、京楽と浮竹は破顔しながら筆をとった。
「私、休職することにしたの」
護廷十三隊の隊長二人が証人という豪華すぎる婚姻届を大切にしまった美桜は、唐突に切り出した。
「んー、まぁいいんじゃない?」
「二人で話し合って決めたことなら俺たちに文句はないさ。」
「うん、ありがと。」
「なんや、えらいあっさりしとるなぁ。」
反対意見どころか驚きもせずに背中を押すため、言葉の意味を理解しているのか不安になった。
「別に会えなくなるわけじゃないからな。むしろ多くなりそうだ。」
「そうだねぇ。元々美桜ちゃんが死神になりたかった理由って、友だち欲しいからだもんねぇ…」
「そういえばそうだったな」
美桜が死神を志した理由は大きく分けてふたつ。
美桜は友だちが欲しかった。京楽に出逢うまで、流魂街で一人寂しく過ごしていた彼女の話し相手は己の斬魄刀のみ。流魂街の住民は美桜の霊圧につられてやってくる虚に怯えて、住んでいる場所を捨てて離れて行った。そんな時に出逢った京楽と浮竹は、美桜にとって大きな衝撃をもたらした。
そしていつからか、二人のように互いの背中を預け合って闘える仲間が欲しいと望むようになった。たくさんの友人はいらない。どんなくだらない話でも聞いてくれて、些細なことで笑い合える、そんな仲間が数人欲しかったのだ。
もうひとつは増え続ける霊圧の制御のため。これは斬魄刀を得ることで多少余裕ができたが、それでもまだ足りなかった。真央霊術院で繰り返し鬼道を放ち、己の霊圧を知り尽くした今は充分すぎるくらいに制御出来ている。
とすれば、もう彼女の目的は達成されたも同然である。
「もう休職届は出したのかい?」
「うん、先週出しちゃった」
「良いんじゃないかい? 隊長になって平子君も帰り遅くなったでしょ」
「こればっかりは慣れだからなぁ…自分でなんとかしてもらうしかない。」
「わかっとる。」
酒呑んで女の尻を追いかけてばかりの京楽と体調を崩して寝込んでばかりの浮竹だが、こう見えて百年以上護廷十三隊の隊長をやっているのだ。二人には今の真子の状態が手に取るようにわかる。その上で言っているのだ。自分でなんとかしてもらうしかない、と。
「式はあげるのかい?」
「ううん、どっちも別にって感じだから、写真だけ撮ろうかなって!」
「お、良いんじゃないか?」
「ちなみに籍入れるんはもう少し後や。」
「付き合い始めた日に入れようと思って!!」
これから先、何百年も続く生の中で、絶対に忘れない日はいつだろうか考えた時、美桜の頭にはその日が浮かんだ。
互いの誕生日でも、いい夫婦の日でもない。二人だけが知る、二人だけの特別な日。既に特別なその日は、今年からもっと特別な日になって二人を出迎えるのだ。
「ふふっ」
幸せそうに笑う美桜に周りの顔も緩んだ。
明日からの毎日が楽しみで仕方がない。きっと明日はもっと幸せな気持ちになるだろう。
この後、リサと拳西も呼んで飲みに行った面々は二人の結婚を自分のことのように喜んだ。
そして漏れなく全員二日酔いで翌日筆をとることになる。
