千年血戦篇
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霊王宮から一護が降りてきてすぐ、真子と美桜が闘っていたバンビーズは一護の元へ急襲した。
「あ、こら、どこ行くんや!!」
「真子、」
追いかけようとした真子だったが、美桜から呼び止められて足を止めた。
美桜は既に斬魄刀をおさめ、バンビーズには目もくれない。
「更木隊長の治療に行きたいの。治療に専念するために周りを見張ってて欲しい。」
「そんなに悪いんか、あの隊長さんは。」
「あの人って自分の身体どうでもいいって思ってる節があるから、いつもボロボロなの。流石に周りに気を配りながら治療するのは少し大変で……」
剣八は自他共に認める戦闘狂。強い相手と闘い、傷つけ傷つくことを快感としている。そこに自らの身体への労りなんて文字はない。
「それに、まだまだこれからだと思うの。」
「…せやなぁ。周りの滅却師倒すんも一苦労や。親玉に辿り着くんに、あとどれくらいかかるやろか。」
真子の言葉に美桜も空を見上げた。肉眼で捉えられない遥か上に存在する霊王宮では、零番隊が久々の来客を今か今かと待ち焦がれていることだろう。
とはいえ、最悪の事態も考えておいた方がいい。もし動ける人間で霊王宮に乗り込むことになった時、回復役は欠かせない。美桜一人いれば即死でない限り死なない。そのアドバンテージは非常に大きい。
故に、今ここで美桜を疲労させるべきではないのだ。
「ならさっさと行くで。おんぶしたろか?」
「うん」
「せやな、おんぶなんてされとぉないよな……ってするんかい!!!」
真子は想像していた答えと真逆のものが返ってきて、思わずツッコんでしまった。
美桜はクスッと笑ってから両手を軽く広げる。完全におんぶ待ちである。
「ほんまかいな……抱っこにするか?」
「ううん。おんぶの気分。」
「さ、さよか」
真子はいそいそと美桜に背を向けて膝を曲げた。背中に乗ってきた彼女の脚を腕で挟んで固定する。
ぎゅっと首に回った腕と肩を滑り落ちるウェーブのかかった髪を視界の端に入れながら歩き出した。
「疲れたか?」
「うん…」
「休んどき。これからもっと力使うことになるで。」
「ん。」
真子の言葉に甘えて美桜は目を閉じた。時折頬に当たる真子の髪がくすぐったい。
「着いたで。」
「……ん、」
短いながらも深い眠りについていた美桜は欠伸をしながら真子の背から降りた。スッキリとした目覚めだ。
大の字に倒れ込んで動けなくなっている更木を見た真子は思わず声をあげた。
「こりゃあ酷いなぁ」
「でしょう? 毎回こんななのよ。治療する身にもなってよね〜」
全身焼け爛れた皮膚。あらぬ方向に曲がった手足。骨や筋肉を断ち切っている切り傷は止血すらされた形跡がない。垂れ流しである。それでも斬魄刀だけは絶対に手放さないところを見るに、彼は真の戦闘狂だ。
「ごめん、時間かけていい?」
「ええよ。ゆっくり自分のペースで治し。」
「ありがと。」
美桜はまだ出血している肩の傷に手を翳すと静かに時間回帰を始めた。
傷が傷なだけに時間をかけて治療した美桜は更木を異空間に入れると、再び真子に向けて両手を広げた。
「……おんぶか?」
「ん。お願いします。」
おんぶが気に入ったようである。真子の背中に乗った美桜は「はふ、」と息を吐いてからまた目を閉じた。
目指すは隊長格の集まる技術開発局。
霊王が一護の手で殺され、尸魂界、現世、虚園で震度4程度の揺れが断続的に続いていた。霊王が死ぬなど長い尸魂界の歴史の中でも初めてのことで、誰も対処法なんて知らない。───ただ一人を除いて。
「俺が、霊王の代わりになろう。」
浮竹は覚悟を決めた顔で言った。
「───ッ!!」
恐れていたことが現実になってしまった。美桜は反射的にそう思った。
美桜は知っていた。
浮竹の肺に異形の何かが喰らい付いており、それが彼の命を繋いでいることを。
その正体が霊王の右腕で、万が一霊王に何かあった場合、浮竹が身代わりになろうとしていることも。
藍染との最終決戦前に、浮竹が神掛けをしていたことも。
そして先程まで、ずっと神掛けをして全身の臓腑を捧げる準備をしていたことも。全て。
もちろん、全てを知りながら指を咥えて見ている美桜ではない。いくつか策はあるが、現時点で成功する確率は限りなくゼロに近い。だがそれは、あくまでも現時点の話だ。
「ミミハギ様、ミミハギ様。御眼の力を開き給え。我が腑に埋めし御眼の力を、我が腑を見放し開き給え。」
浮竹が詠唱をすると、彼の背中から黒い影のようなものが出てきた。巨大な右手の形をしたそれが甲にある単眼を開いたとき、今まで感じたことのない霊圧が一帯に満ちた。
「なんだ、これは……!!」
「ミミハギ様、というのを聞いたことがあるか?」
「……名前だけなら。東流魂街に伝わる土着神スね。」
「俺の父母は信仰深い人でな。三歳で肺病を患い、死の淵にいた俺をミミハギ様の元に連れて行った。その結果俺の肺にはミミハギ様が宿り、病を食い止めていた。」
黒い影は浮竹の上半身に絡みつき、臓腑を食い尽くそうと蠢く。吐血した浮竹をルキアが支えようとするが、浮竹は大きな声でそれを制した。
「いいか朽木、闘いには二種類ある。命を守るための闘いと、誇りを守るための闘いだ。わかるな?」
「……!!」
幼子に言い聞かせるように諭す。ルキアは唇を噛み締めながらその場に留まった。
「美桜、」
「……大丈夫。行ってくるね。」
美桜は真子の背中から降りると髪を靡かせながら浮竹に向かって真っ直ぐ歩いて行く。周りの目が彼女に集まろうがその歩みは止まらない。
やがて浮竹の目の前にきた美桜は静かに抜刀した。抜いたのは芙蓉。その刀身はガラスのように景色を透過させる。美桜がこの斬魄刀を抜いたのは百年ぶりである。
「ちょ、涼森サン?!」
「何をする気だ!!!」
「涼森隊長!!」
「なんだあの斬魄刀……刀身が、」
「安心せぇ。まぁ見とき。」
訳を知る真子と浮竹だけが静かに美桜を見据える。
「ごめんなさい、四郎兄。私は四郎兄に死んで欲しくない。でも四郎兄の誇りも守りたいから、こうするしかないの。」
「わかっていたさ。俺たちも弟子離れ出来てないが、美桜も師匠離れ出来てないもんな。」
浮竹と美桜は目を合わせて困ったように眉を下げた。何年経っても師は師であり、弟子は弟子なのだ。二人の間に穏やかな空気が流れた時、それを断ち切るように浮竹が吐血した。
「ゴフッッ」
大量の血とともに霊王の右腕を吐き出した浮竹は天に向かって吠えた。ズルズルと右腕が這い出て天高く登っていく。霊王の右腕が全て出て浮竹の身体を解放した瞬間、美桜は浮竹に斬魄刀を突き刺した。
「卍解 爾今酔芙蓉」
甘い花の香り。濃い霧の中、一本の芙蓉の木があった。痩せ細った幹と枝、枯れた花たち。だがその中に一輪だけ美しく咲く芙蓉があった。美桜はそれを手折ると気を失ったままの浮竹の口に突っ込んだ。
これでも喰らえと言うように花を口に詰め込み、吐き出さないように両手で押さえて飲み込ませる。
ごくんと喉が動いて嚥下したことを確認した美桜は卍解を解いた。
技術開発局内の照明が眩しいくらいに二人を照らす。
「お疲れさん。どうやった?」
「あとは浦原さんと春兄の協力があれば大丈夫そう。」
「涼森サン、今のは……」
「私の卍解です。詳しくは言えないですけど、浦原さんと春兄に協力いただければ四郎兄は大丈夫です。隊長職に復帰するのは難しいと思いますが、命に別状はありません。」
「……!!」
「本当ですか、涼森隊長!!」
ルキアは涙を流しながら美桜に詰め寄った。彼女も護廷十三隊に配属されてから数十年間、ずっと浮竹の元にいた。海燕の件も然り、自身が処刑されそうになった件も然り、その背中を見続けてきたのだ。
「大体ね、四郎兄がいなくなったら、一体誰が総隊長になった春兄の相談に乗ってあげるのよ。」
そう言って頬を膨らませた美桜に浦原も力が抜けた。彼女は時折、驚くような理由で大きなことをやってのけるのだ。
「ってことで浦原さん、この闘いが終わったら手を貸してくださいね」
「もちろんッス。」
そのためにはこの闘いを終わらせなければならない。浦原は顔を引き締めると、霊王宮へ繋がる門の作成に取り掛かった。
