出逢いの息吹
Me
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…私がここに来たのは14の時だった。
私は7つの時に両親を無差別殺人で亡くした。
そこからは母方の祖母に姉と共に引き取られ、育ててもらった。
初めこそ受けられなかった両親の死も、姉のお陰で乗り越えられた。
引き取ってくれた祖母もとても私達を可愛がり沢山のことを教えてくれて、私はそんな二人が大好きで。この二人となら新たな人生を前向きに歩んでいけるとそう思っていて疑わなかった。
14の時に放火魔による火事で姉と祖母を失う____その日まで。
両親のみならず、祖母を…そして、偉大で、大切で仕方なかった姉を亡くした私は憔悴しきった。もう生きる希望などないと、本気で命を絶つことも考えた。けれど、それを救ってくれたのはいつでも姉の面影だった。
姉の残してくれた言葉、表情、愛情…それらを脳内に思い出すたび、こんな状況だから生きるべきだと、生きないといけないのだと、命を落とした家族みんなの分まで___そう自分を奮い立たせてくれる。
「どん底こそチャンスなんだよ。もう這い上がるしかないんだから。そうやって、辛くて、悲しくて、もうどうしようもないどん底から這い上がった景色は、最高に綺麗なの。人生、捨てたもんじゃないなって思わせてくれるんだから。
だから、愛華。覚えておいて。悲しかったら泣いていい、辛かったら逃げてもいい、けど、人生を自分から終わらせることだけはしないで。生きてさえいればきっと、神様は見ててくれて、幸せになる道を用意してくれてるから」
いつかの大きな公園の芝生で心地よい風を受けながらそう言った姉の表情は、初めて見るものだった。だからなのか、言ってくれた言葉もよく覚えている。頷いた私を見届けた姉は少し安堵したように息を吐いて、屈託ない笑顔を見せてくれた。
____どん底の今がチャンス。私も偉大な姉のように色んなことを乗り越えれば、きっと幸せな道を手に入れられる。関わったもの全てを大切に愛すことができる慈悲深さや、誰にも弱さを見せない頼りがいのある強さをもった姉のようになれば……
そう胸に強く決意を抱き立ち上がった私は、かくして今の施設に入ることとなった。
新たなスタートを切るために____…
「花宮 愛華です。中学2年生です。今日からお世話になります」
ドキドキと緊張で高鳴る鼓動を抑えながら、私はできるだけ好印象を持ってもらうべく明るい声と笑顔を目の前の人達へと向ける。
目の前にいる子達はみな、何らかの形で両親や引き取ってくれる家族がいない。私と同じ境遇なのだから、きっと分かり合えるだろう。…私はそう高をくくっていたのかもしれない。
初めは好調なスタートだった。最初こそ、お互い手探り状態でよそよそしい関わりからだったが、段々と打ち解けてくるとみんな可愛らしい笑顔を見せて懐いてくれた。きっと、施設の中でも私は最年長だったからか、姉のように思う人たちもいたのかもしれない。
私もそんなみんなのことをすぐ好きになって、もっとこの子たちのために色んなことをしてあげたい、仲良くなりたい…なんて思うようになり、自分なりに精一杯頑張ってきたつもりだった。
ここにいる子達は偶然にも両親の顔を知らない、虐待や育児放棄を受けてきたなどで、親からの温かな無償の愛というものを知らない子ばかりだった。
…だからこそ、愛情を知らない子達に私が受けた愛情を分けてあげたかった。
けど、私のそれは傲慢な独りよがりの想いでしかなかったのかもしれない。
「いい加減にその偽善者まがいの行動…やめてくれない。心底ムカつくんだけど」
ぱきん…、と少しずつ築いてきたはずの関係に亀裂が走る音がしたのは、とある土砂降りの雨の日だった。雨が降っているために外にも出れず、部屋で一人みんなに手作りのおそろいのストラップでも作ろうと、裁縫に没頭している所に秋奈ちゃんがノックもなしに入ってきた。突然のことに戸惑いを隠せない私に、暫く俯き黙り込んでいた彼女はゆっくりと口を開きそんな言葉を言い放つ。
「…秋奈、アンタのことなんか大っ嫌い…!アンタなんか不幸になっちゃえばいいんだ、みんなだってそう思ってるから!」
「な…、どうして…」
「絶対、不幸にしてやるんだ…秋奈が」
苦しそうな、悶えるような、そんな表情で言った秋奈ちゃんの瞳は深く濁っていて、何を考えているのかさっぱり分からない。
けれど、一つだけ分かったのは…私が今までやってきたことが間違っていた、ただそれだけだった。
彼女が立ち去った扉を呆然と見つめながら、私は暫くその場から動けなかった。