出逢いの息吹
Me
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どくん。心臓がひときわ大きな音で脈打つのを感じる。夏なのにも関わらず体温が一気に奪われたように冷え込み、背筋にはじんわりと冷や汗が浮き出るのが分かった。
一刻も早くこの場から立ち去りたくなるが、肝心の足が動かない。ただ固まって人形の如くその場に立ち尽くしている私に、その対象はゆっくりと視線を向けた。
「あ、いたんだあ。今日も存在感うっすいねー」
カラカラと笑いながらそう話す橙に薄い金を混ぜたような眩しい髪色を両サイドに束ねた少女は、_____木嶋秋奈。つりあがった大きな瞳に、丸い輪郭。若干のアヒル口が、これまた可愛らしい顔に拍車をかけているまだあどけさが残る中学3年生だ。
「あれ、なんか朝から顔色悪いんだけど。見ると気分下がるからやめてくれない?」
そう言って小さく息を吐くのは、_____羽瀬川冬音。神秘的な泉を予感させる水浅葱の長い髪色を持ち、やや面長の輪郭に長いまつ毛、薄い形の良い唇から紡がれる声は何とも透き通っていて、聞くもの全てを魅了するよう。とても高校1年生とは思えない____まさに絵に描いたような美女である。
そんな二人が私に向けるものは明確な敵意。それ以外の何者でもない。つきり、と胸に刺さるような言葉を耳の端で受け止めながら、私は出来る限りの笑みを浮かべて震える唇から言葉を紡いだ。
「え、へへ…ごめんね。私は全然元気なんだけど…あと、朝ごはんできてるから、よかったら食べて」
へらへらと貼り付けたような気持ち悪い笑顔に、自分でも背筋がゾッとする。けれど、いつの間にかこんな表情しかできなくなっているのにも気づいている。
二人はそんな私をしばらくの間黙って見つめていたが、沈黙に耐えられなくなった私はそそくさとその場を後にしようとした。…のだが。
それより先に秋奈が早足でキッチンへと向かい、私の作った朝食プレートを手に戻ってくる。
食べ始めるのかとも思ったが、そんな私の考えはあらぬ形で粉々にされることとなった。
「アンタの作ったもんなんか食べるわけないでしょ。_____いらない」
苦虫を噛み潰したような表情で私を睨みつけながらそう言い放ち、秋奈は卵サンドや付け合わせのサラダなどが乗った皿を傾けてゴミ箱に流し捨てた。べしゃり、と嫌な音を立てて底に叩きつけられる食べ物に、私は一瞬何が起きたか分からず体を固まらせることしかできない。
「悲しかったら自分ででも食べたら?捨て犬みたいにゴミ箱漁ってさ、アンタにはお似合いじゃない」
秋奈は呆然と立ち尽くす私を見下すようにそう言うと、「冬音、朝ごはんどっか食べに行こ」と隣の冬音の腕に甘えるように抱きつき、そのまま部屋を出ていった。
…何が、起こったのか。少し時間が経ったのに理解しきれない。ただ一つ分かるのは、やはり私に対して二人の想いや行動は何一つ変わってはいないこと。そんなこと分かり切っているはずなのに、改めて現実を突きつけられたようでそれが胸に深く突き刺さる。
気まずさに黙り込んでしまった残りの子たちは早くこの場から立ち去りたいのか、急いで朝食をかきこんでいる。
私はゆっくりと覚束ない足取りでゴミ箱を覗いた。
…ゴミ箱の底では、卵サンドがあらぬ姿で無惨に果てている。捨てられた悲しみもそうだが、何だかそれがひどく自分と同じに見えて、虚しさに心臓を強く掴まれたように痛くなった。
…私はもう、ずっと。ここで虐めを受けている。
新たな居場所になるはずだった人生は、いつまで経ってもモノクロのままだ。
なんでこんなことになったのか、自分でも分からない。答えが見つからない自分にも嫌気が差すが、本当にわからないものは分からないのだ。