S級系男子とVIP合コンしてきました⑦

  • 赤髪の美少年はなんと、カブリモノを脱いだサソリさんの本体だった。
    この姿をビンゴブックに載せてたら、ぜーったい最初から全員狙い目で行っちゃうよ。特に、美形好きのA美が黙ってないだろうな。

    もしかして、そういうのが煩わしくて態々コンパにカブリモノで来たんだろうか。

  • あぁ...それにしても美しい。

    背後の煌びやかな夜景とバーカウンターのお洒落な雰囲気とが絵になる。
    夜景を見るフリをしながら、窓に映る雅な横顔に見惚れて....

  • サソリ

    さっきから何をジロジロ見ていやがる

  • あ、バレた...

  • い、いやいや、外見てたんですよ...

  • サソリ

    フン、そんなにこのツラが気に入ったか

  • やっぱりこの人、自分の魅力を分かってて、態々カブリモノを着てきたんだな。
    この自信に満ち溢れた表情と醸し出す大人の余裕というものが物語ってる。

  • おかしいなぁ、見た目と声は少年ぽくて、わたしより年下に見えるのに。

  • 芸術的だなぁ、と思って

  • サソリ

    ほう...

    お前に俺の芸術性がわかるってのか

  • サソリ

    忍でもねぇ癖に

  • .....

  • 実は昔、忍だったんですよ

    やめちゃいましたけど

  • お代わり、とバーテンダーにグラスを差し出し、注がれた淡い色のカクテルをぐいと飲み干す。

    いつもよりペースが早いとは思うけど、酔っていないと雰囲気に飲まれて逃げちゃいそうなんだもん。

  • 忍を辞めた昔のトラウマのこと、胸の中に仕舞い込んで鍵を掛けて、家族にも友達にも話していない。

  • でも、この人になら聞いて貰えるかも。

    なんでだろう。一通り、悪いことしてきたんだろうなって思うと、引かれない気がしたんだ。

  • サソリ

    なぜ忍をやめた

  • ん...と

  • 中忍に成り立ての頃、先生のことを好きになって

  • でも...死んじゃったんですよ、わたしの代わりに任務に行って

  • その任務が蓋開けてみたら相当ヤバい任務だったみたいで、要は、わたしを庇って

  • サソリ

    ククッ...
    どこかで聞いたような話だ

  • サソリ

    そんなもん、忍をやってりゃ日常茶飯事だろ

  • そう...なんですけどね

  • 別に、好きな人が死んだから辞めようと思ったんじゃなくて

  • 鳩尾の辺りがズキズキ痛む。

    もう何年も前のことなのに。何を今更思い出して傷付いたフリしてるんだろう。
    ...ダサい。

  • 酔わないとやってられないから、もう一杯同じものを頼んで、また勢い良く飲み干してしまった。
    もう、後のことは知らない。

  • わたしは死んだって事実を知らなくて、ずっと待ってたんですよね...

  • 誰も教えてくれなかった、隠されてた

  • 教師と生徒がデキてて、庇って死んだなんて、里の忍の恥なんでしょ

  • そういうの、くだらないなと思って、辞めたんです

  • サソリ

    ....

  • サソリ

    くだらねぇな

  • サソリ

    そりゃ里抜けする理由にはなれど、
    忍を辞める理由にはならねぇな

  • サソリ

    逃げただけだろ

    もともと性根腐ってるお前が悪い

  • ウッ、、

  • ひどっ...

  • 図星。女子に面と向かってそこまで言う?
    顔はイケメンだけど、中身はやっぱり、超口の悪い毒舌野郎だ。

    だけど、正論だから何も言い返せないし、忍として、しかもS級犯罪者として生きてきたサソリさんには、もっと辛いことが山程あったんだろうな。
    サソリさんからすれば、そういういざこざが面倒になって、逃げ出したわたしはダメ人間ってことで間違い無いです。
    わかってます、はい。

  • じゃあ...

  • サソリさんは何で里抜けたんですか?

  • サソリ

    そんなの聞いてどうする

  • わたしは話したんだから、ちょっとぐらい教えてくれても...

  • なんとなく、気まずい間が開く。
    なんでサソリさんまで黙っちゃうのよ。
    コケにするなら、とことんコケにしてくれたらいいのに...

  • と思ったら、今度はグラスを傾けながら、肩を震わせてクツクツ笑っている。

    何が可笑しいのかはわからないけれど、
    酔いが回ってきたわたしは
    サソリさんの伏せた瞼、吊り上がった唇まで、形が整っていることに見惚れるばかり。

  • サソリ

    そうだな...

    お前と近からずも遠からず、と言ったところか

  • サソリ

    里が決めた掟なんざくだらねぇ、ってことだ

  • うんうん、
    そーだ、そーだ!

  • サソリ

    ...おい、

    随分適当な相槌だなてめぇ

  • えっ!ちゃんと同意したのに。
    絡まないでくださいよ!

  • でも...なんていうか

  • サソリさんに同意して貰えたことが嬉しい

  • サソリ

    誰が同意などした

  • ハァ?と小首を傾げるサソリさんのグラスに、自分のグラスを合わせて乾杯する。

    溢れたきめ細かな泡をおとと、と慌てて掬い、お互いに何杯目かのお代わりを空にした。

    サソリさんも相当飲んでいたみたい。

  • 白い肌に仄かに赤みが差して見えるのは、カウンターの間接照明のせいかな、それとも、わたしが酔ってるだけかな。

    酔いのお陰で緊張がほぐれたわたしは、
    窓越しでなく、まじまじとサソリさんの横顔に見惚れいると...

  • サソリ

    さっきからジロジロ見てんじゃねぇ

  • えっ...
    だって、芸術的なんだもん

  • サソリ

    ほぉ.,.

    お前に俺の芸術がわかるってのか

  • プッ...

  • サソリさん、実は結構酔ってるでしょ?

  • サソリ

    うるせぇ、殺すぞ小娘

  • この後、酔いがどんどん回って、残念ながら何を話したかの記憶がほとんどブッ飛んでしまった。

  • だけど、今まで生きてきた中で、一番楽しいお酒の時間だった気がするんだなぁ。

    結局潰れて、カウンターに突っ伏してたんだろうけど、夢の中まで、心も身体もスパに浸かってる間みたいに、心地よく揺れていたから。

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