翌朝、熱が引いた綺羅は、ラッキーやジョーイに礼を言い、ポケモンセンターを後にしようとしていた。
「ロコン、行っちまったのかなあ」
『ベッドもぬけの殻だったもんなー』
残念そうに言う二人の前を歩いていた蓋が、喉の奥でくつくつと笑う。
「…いや、あいつも案外物好きかもしれないぜ」
彼が指したその先。
自動ドアの向こう、大きな尾を揺らして、そこに座る影がある。
日を浴びて、湿った地面の上で、雨上がりの空の下で。
『貴方に言われたくはありませんよ』
どこかすっきりしたような顔をして。
どこか楽しそうな顔をして。
『…貴方は確か、僕らの言葉がわかるんでしたね』
「ロコン…?戻って来たのか?」
そっと近づいてきたロコンに応える様に綺羅はその場に膝を着く。
『僕も、物好きみたいです。貴方を信じてみたいと思ってしまった』
「えっと…?」
『どうせ僕には行き場もない。外で生きていく知識もない…一晩、外で一人で夜を明かしてみてわかったんです。だから、貴方に着いていきます。いえ…連れて行ってください』
ロコンはぺこ、と頭を下げた。
下がった頭に反比例して尻尾がぴょこんと上がる。
「…よし、わかった。お前の名前は、炎(ほむら)だ!」
『へ…?』
「昨日からずっと考えてたんだ。…お前から頼まれなくても、こっちから誘うつもりだった。だから、聞く必要なんてないぜ。一緒に行こう、炎」
ロコンは広げられた綺羅の腕に飛び込み、鼻先を擦りつける。
ブリーダーに良くこうして褒められていたことを思い出した。
『……はい…!』