蓋がそう言って、病室のドアを親指で指す。
途端。
「うわああああん! 綺羅ーーーー!!!」
「綺羅さん……ッ! なんでもっと早く相談してくれなかったんですか?!」
『マスターの馬鹿ぁっ! そんなんマスター一人で抱え込める問題じゃないじゃんっ!!』
『よ、よくわかんねえけど……!! 綺羅が泣いてるのいやだぞ!』
『あらら。泣き虫が伝染しちゃったみたいだね』
ドアが勢いよく開いて、雪崩込むようにして仲間たちが病室に飛び込んできた。
えぐえぐとしゃくり上げる陽葉に、泣きそうになりながら怒っている炎、干からびてしまうんじゃないかと思うほどの涙を流している麗水、しきりに元気出せよと言いながら綺羅に頬を押し付ける魅雷。
その後ろから、困ったように笑いながら鈴が病室に入ってきた。
「お、お前ら……聞いてたのかよ」
ベッドの上で揉みくちゃにされながら、綺羅は思わず頬を赤らめる。
今まで必死に隠してきた自分の弱い部分。
蓋と二人だと思ったから、全部話せたのに。
それにあんなにぼろぼろ泣いてるところまで見られたとなると、主人の面目丸つぶれだ。
「綺羅……っ、俺たち、そんなに頼りないか?」
陽葉のその言葉に、蓋以外の仲間たちはじいと綺羅の顔を見る。
「え、そ、そんなこと……」
「それなら何で、僕たちにずっと隠してたんですか……? いつもいつも、大丈夫だって言うばかりで。僕、ずっと寂しかったんですよ。信頼されていないのかなと」
炎がそういうと、他の仲間達もうんうんと首を縦に振った。
「そういうわけじゃないんだ。ただ……」
言い淀む綺羅に視線が集まる。
まさかそんな不安にさせていたなんて思っても見なかった。
「俺はお前たちのトレーナーで……主人なわけで。主人が頼りないとお前達も不安になるだろ? だから、その……っ、わ、わかるだろ」
集中する視線に耐えられず、綺羅は掛ふとんを頭から被る。
鈴がくすくすと笑っているのが聞こえた。
「お前たちの前では、格好良い主人でいたかったんだよ……っ」
ああもう、恥ずかしい。
アカギに遭遇するし怪我まで負うし、こんな恥ずかしいカミングアウトまでする羽目になるし。
今日は厄日か。
「……?」
暫く布団にうずくまっていたのだけど、恥ずかしいカミングアウトを最後にパートナーたちは何も声を出すことなくしんと静まり返っている。
恐る恐る布団から顔の上半分だけを出してみた。
すると。
「っな、」
全員、嬉しそうに、にまにまと笑みを浮かべていた。
蓋までまるで小さい子供でも見ているような笑みを浮かべている。
「なに笑ってんだお前らー!」
恥ずかしさがメーターを振り切って、思わず被っていた布団を誰に向けるでもなく思いっきりぶん投げた。
流石というか仲間たちはひょいとそれを避ける。
「はは、ごめんごめん。綺羅が可愛くてついな」
「綺羅さんも年相応の少女なんですね」
いつになく子供扱いをされていることに気がついた綺羅は枕に顔を埋めて、ぷいとそっぽを向いた。
『お、なんだ、かくれんぼか?! 負けないぞ!』
『魅雷、枕無理やり取ろうとするのやめたげて』
『あれ、マスター笑ってる?』
「わ、笑ってない! 俺いま怒ってるんだからな!」
思わず持ち上がった口角を無理やり下げる。
いつもなら素直にお礼を言えていただろうけれど……なんだか気恥ずかしくて、子供扱いされた仕返しに、綺羅はまた、ぷいとそっぽを向くのだった。