自分たちが今どこにいるかもわからず、綺羅は思わず小さく舌を鳴らした。
彼女を乗せている鈴の飛び方も随分と不安そうで、定期的に止まっては周囲を探るように鼻を鳴らす。
『綺羅ちゃん、これ以上はちょっと難しいんじゃないかな……』
「そう、だな。鈴、無理させてごめん」
『ううん。大丈夫だよ』
ハンサムからエイチ湖の調査を依頼されてから休むことなく目的地へと向かっていた綺羅たちを待ち受けていたのは、前も後ろも左も右も何もかもわからなくなってしまうほどの濃霧だった。
濃霧の中にはじっとりと水分がひしめき合っていて、そこにいるだけで小さな水滴が服や髪に沁み込んでいく。
最北端であるが故の気温の低さも相まって指先は冷え切っていた。
どちらにせよ寒さに弱い鈴にとっても限界だっただろう。
途中で見つけた小さな村に降り立つ頃にはすっかり日は沈んでいて、とっくに感覚のなくなった指先を握り締め、逸る気持ちを押さえながらチェックインを済ませた。
と同時にずっと動きっぱなしだった仲間たちをジョーイさんに預けた綺羅は先行してくれるラッキーに続いて少し広めの部屋へと足を踏み入れる。
『あなたのお部屋はここよ。もう暗くなってきたし、ゆっくり休んでね』
「……ん。ありがと、ラッキー」
にこり、と花の咲くような笑みを浮かべたラッキーは軽く部屋の備品などの説明をして部屋を出ていった。
ドアが閉まる音、ラッキーの足音が遠ざかっていくのを確認した綺羅からは笑みが消える。
「っくそ、早く行きたいのに」
そうして苛立ちを隠せないままベッドに飛び込んだ。
急がば回れ、とはよく言ったものだけれど焦らずにはいられない。
もしあの爆弾が湖で使われてしまったのなら……湖や湖周辺には野生のポケモンが多数生息している。
被害は計り知れない。
おそらくノモセであった爆発は陽動あるいは動作の試験が目的だ。そうでもなければあんな末端の団員一人に現場を任せたりはしないはずだし。
しかし、彼らのゴールが湖であの爆弾を使うことだとして一体どんな目的のために?
「……ダメだ。頭痛くなってきた」
纏まらない考えに押されるようにして、綺羅は部屋を飛び出した。