真っ白い部屋。
いつも通されている客間とは別の急病人用の部屋はどこかひんやりとしていて、綺羅は両腕を擦った。
透明な窓を滑り落ちていく水滴をかれこれもう数時間は見つめている。
サファリゾーンが爆発した翌日、寝たきりになっていたハンサムが目を覚ましたのは夕方頃だった。
「ハンサムさん! 良かった、起きてくれて…!」
ぐしゃぐしゃに揺れたまん丸い瞳が安心したように細められる。
その様子を見て、ぱちくりと何度か瞬きをした彼は状況を理解したのか苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「綺羅くん、私はどのくらい寝ていた?」
「えっと、丸一日ぐらい……かな」
綺羅の言葉にハンサムは深く項垂れる。
「だ、大丈夫かよ? どこか痛むのかっ?」
「いや、まだ少し痺れがあるが大丈夫だ」
ゆるゆると首を振ったハンサムはベッド脇に置かれているカレンダーに視線を移した。
「……すまない……その様子からすると、ギンガ団を逃したんだろう? 私の看病に追われて」
「そんな言い方……! ハンサムさんのせいじゃない!」
「いや、警戒を怠った私のせいだ。私がこうならなければギンガ団の尻尾くらいは掴めたかもしれないのに……」
ぱらぱらと、いつの間にか強くなっている雨脚が部屋の窓を叩く。
少し遠くでゴロゴロと暑い雲が唸る音がした。
「綺羅くん、頼みがある」
きつく握り締められた拳を解いたハンサムの顔は吹っ切れたようなものになっていて、綺羅は驚きで固まる。
彼から頼みなんて、初めてだ。
「こちら側の調べで分かっていることがある。奴らはシンオウ地方にある各地の湖で何かをしようとしている、らしい」
時折漏れる呻き声が痛々しい。
"このためにいる"なんて大口を叩いておいて守れなかった不甲斐ない自分を責めた。
「……そんな顔をしないでおくれよ」
初めて聞く優しい声色に驚いて顔を持ち上げると、困ったように微笑んでいる彼と目が合う。
幾度と危険な場所に飛び込んでいく自分を何度も引き留めてくれたごつごつとした手の平が頭に乗り、短い髪をくしゃくしゃに乱した。
「シンオウ地方最北端、エイチ湖。次の奴らの目的はそこだろうという情報が有力でな。……行ってくれるか、綺羅くん」