「そんなことがあったのか……それにしても本当に君は、無鉄砲というか何というか」
ここまでの経緯を説明すると、ハンサムは苦い笑みを浮かべた。
確かに追いかけると提案したのは綺羅本人だったけれど、殆ど巻き込まれた形に近い現状に強く言えずにいるんだろう。
「奴らはこちら側に行ったんだったな。途中にあるホテルで目撃者がいないか聞いてみようか」
「いや、その必要はないです。あいつきっと、湖に行っているだろうから」
「? 入っていく様子を見たのかい?」
「途中で見失ってしまったんですが、あんなにだだっ広い通路で急に見失うとは考えられない。大方、草むらを抜けて湖に行ったんだろうな、と」
「ふむ。悪くない推理だ。ではまず湖に行ってみようか」
少し遠くで、木々が騒めく音が聞こえた。
* * *
ついこの間足を踏み入れたばかりの湖の入り口は相変わらずひんやりとしていて、木々と水の匂いが纏わりつく。
ハンサムの後に続いて木々の隙間を抜けると、湖のほとりに人影があった。
「っげ! お前、追ってきたのかよ! 追いかけてくんなって言っただろ!」
走り疲れて呼吸を整えていたらしいギンガ団はぎょっとしたように目を見開き、数歩後ずさる。
追いかけてくるなと言われて追いかけない人間が果たしているだろうか。
彼はあまりにも色々なことをし過ぎた。
それに何より、誰かを、何かを簡単に傷つけてしまえるだけのことをしておいて、あっけらかんとしているコイツの態度が許せない。
今にも殴り掛かってしまいそうな綺羅の前に一歩進み出たハンサムは胸元から手帳を取り出した。
それを相変わらず荒い呼吸を繰り返すギンガ団に見せつける。
「国際警察の者だ。君がしたことは重罪にあたる。一緒に来てもらおうか」
いつもより低い声。
彼もどうやら目の前にいる凶悪犯にいら立ちを隠せずにいるようだ。
一方の犯人は、目の前に出された警察手帳に怖気づいたのか顔がさあっと青ざめる。
「警察?! ガキめ、警察なんかと繋がってやがったのか……! だが、ここで捕まるわけにはいかねえ!」
男を取り押さえようとしたハンサムにそう吠えた男の手には、モンスターボール。
飛び出してきたグレッグルはこちらを睨みつけて低く唸った。
「ハンサムさん、下がっててください。そいつは毒を持ってる。危険です」
「……く、わかった。すまん」
「いえ。こういう時のために俺はここにいるので」
お返しとばかりに男を真っすぐ睨みつけると、ひい、と小さく悲鳴が上がる。
当たり前だろう。
思いきり蹴り飛ばされて気を失ったと思ったら何十人もいた仲間たちが全員子供ひとりにコテンパンにされて撤退したと聞かされ、そんな大の大人数十人をコテンパンにできる子供が目の前にいて、明らかに自分に敵意を向けているのだから。
「蓋、五分以内に終わらせるぞ」
『何を言う。五分も要らないさ』
こつ、と蓋のボールを人差し指で小突くと、ボールはひとりでに開き、彼の大きな体はずんと地を踏みつけた。
張り付く湿気を払うかのように体を震わせた彼は、姿勢を低く保つ。
「こんな場所じゃ親切にゴングなんか鳴らない。審判もいない。ぼさっとしてると、負けるぜ」
そう言った頃には、もう、グレッグルの小さな体は吹き飛んでいた。