じとりとした湿度と汗で頬に絡みつく髪を掻きあげると手の平にはひんやりとした温度が走った。
あの奇抜な背中は見失ってしまったけれど、ここで見失うということは大方、草むらを抜けて湖のほとりに飛び込んでいったんだろう。
そう目星をつけてごつごつとした岩の角を曲がった時だった。
「っ?!」
走っていた自分の勢いは完全にかき消され、腕に巻き付いた大きな手に引かれるまま体は後ろにバランスを崩す。
抵抗することもできないまま自分の腕を掴んで引っ張ったのであろう人物の胸元に思いきり飛び込んでしまった。
何が起こったのかわからないまま目を白黒させていると頭上から聞きなれた声が。
「やはり君か」
ふいと視線を持ち上げると、顰められた凛々しい眉が見える。
「……あらら、ハンサムさん。ご機嫌麗しゅう」
走ったから流れたのか彼に捕まってしまったから流れたのかわからない熱いとも冷えているとも言えない汗が頬を伝った。
自分より頭数個分高い位置にある彼の顔を見上げると、深く溜息を零すハンサムと目が合う。
「また危ないことに首を突っ込んでいたな? あれほど言ったのに。私は決して意地悪で言っているんじゃないんだぞ」
「それはわかってます……でも、」
「……全く。君には言っても分からないみたいだな」
飛び出していってしまうことを危惧してか、肩に添えられたハンサムの両手はがっちりと綺羅の体を押さえつけていた。
自分の今までの突飛な行動を考えると無理もないけれど、随分と信用されていない。
しかしこのままではギンガ団を取り逃がしてしまうし、どうしたもんかと考えこんでいると、再び溜息を零した彼の両手は思ったよりも簡単に肩から滑り落ちていった。
代わりに右手首に傷だらけの手の平が巻き付く。
「仕方がないので私も同行しよう」
「え?……ちょ、あの」
「子供のやんちゃには大人が同行するのが一番いいだろう?」
あ、出た、いつもの癖。
下手くそなウインク。
でも今はなぜだかそれが心強い。
「それに、恥ずかしい限りだが私はポケモンバトルはできない。意外にも奴らはポケモンの力に大分頼っている節があるからな。スモモにも勝ったその実力、特等席で存分に堪能させてもらうとしよう」
そういい、頬を掻く彼に連れられ、綺羅は再び走り出すのだった。