ホテルグランドレイクにて一夜を明かした後、ノモセシティに足を踏み入れた瞬間のことだった。
びりびりと地面が揺れたと思ったら轟音が鼓膜を突き上げる。今まで生きていた中で最大級にけたたましい危険信号が脳裏で響き、思わず身体が固まった。
轟音と地響きは比較的直ぐに収まったけれど、視界の端では黒煙がもくもくと青い空に侵食している。
「い、一体なにが……ッ?!」
状況を理解することも出来ないまま黒煙を見上げていると、綺羅の身体は衝撃によってよろめいた。
恐らく自分にぶつかってきたのであろう相手はまるで被害者のような顔をしてこちらを見ている。
「お前邪魔なんだよ! ぼーっと突っ立ってるんじゃねえよ!」
自分から突っ込んできておいて散々な言い様だ。
だが、それに咄嗟に反論出来ず綺羅はその相手を睨みつける。
「…ギンガ団……!! 今のはテメェがやったのか?!」
「ああ? なんだよ、俺は届いた荷物についてたボタンを押しただけだぜ! そんなことよりお前、前に会ったこと……あ……」
にたりと弧を描く口元が徐々に歪んでいくその様子に首を傾げた。
「お、おおおおお前! まままままさか!」
「…? な、なんだよ」
「ぜっ絶対来るなよ! 絶対追いかけてくるんじゃねえぞ!!」
「はあ? あっ待てコラ!!」
追いかけてくるなと言われて本当に追いかけない人間がいるだろうか。
なんとか倶楽部でも押さないと怒られるわけだし。やー。
『あっ思い出した! あの人、発電所の前でマスターに蹴られた人だよ! 生きてたんだね!』
かたかたと麗水のボールが揺れる。
……よく覚えてるなあ。
自分はと言うとそう言われたところで、そんな奴もいたなあ、程度にしか思い出せないというのに。
とりあえず追いかけるかとノモセシティの入口へと歩みを進めようとした瞬間、背後からこれまた地面が揺れてしまうほどの大声が聞こえた。
「何があった?! ……おや、きみは」
あまりの音量に驚いてしまい、固まる。
ゆっくりと振り向くと半裸の男性がすぐ後ろに立っていた。
「トバリで出会ったトレーナーか。こんなにすぐ再会できるとは思っていなかったよ。ところできみ、今何が起こったかわかるか?」
えっと、確か、ノモセシティのジムリーダー……マキシさん、だったと思う。
そう言っていた。
ギンガ団に絡まれていたところを助けてくれた男性だ。
「いえ、詳しくは。ただ、この周辺に居たギンガ団の男が"ボタンを押しただけ"と言っていました。恐らく、爆弾かと」
「なに?! 大切な大湿原を…!! そいつはどっちに行った?!」
彼の言葉に男が走っていった方を指しつつ、今にも走り出してしまいそうな彼を止めた。
「アイツは俺が追います。あなたは……えっと、マキシさんは湿原の中に居た人やポケモンの救助に当たってください」
「?! だめだ、危険だ!!」
身を乗り出した彼の目の前に、昨日貰ったばかりのコボルバッジをずいと見せつけるように出す。
「こんな風には使いたくないですが……少なくとも、彼女には勝ちました。あなたに勝てるかどうかはわからないですけれど、あんな雑魚に負けるほど弱くはないつもりです」
彼は、むぐ、と口を噤み、少し考えたのち観念したように口を開いた。
「……わかった。君のような若者の力を借りるなど大人としては失格だが……そうも言っていられない。頼んだ。だが、無茶はするなよ」
「はい!」