ゲートを抜けると、視界内にはごつごつとした灰色の景色が広がった。
岩に囲まれた武骨なその景色は逞しく、綺羅は思わず周囲を見渡す。
成程確かに、武闘派ジムリーダーがいるというのも頷けた。
ただ、目の前にある倉庫の周辺にもはや見慣れてしまった奇抜な恰好の彼らがいることと、その奥の高台の上に趣味の悪い巨大な建物が聳え立っていることを除けば、総じて住みやすそうな町だ。
なぜ彼らは番犬の首輪の如く建物に棘を生やしたがるのだろう。
「おいガキ!! 何見てんだ?!」
じろじろ見てしまっていたのか、奇抜な恰好の彼らことギンガ団が大股で距離を詰めてきた。
上から見下すようにじろりと睨まれる。
しかし子供相手にこの高圧的な態度、いい年をした大人がみっともないと思うが彼らはそんなこと気にしないらしい。
ポケットに手を突っ込み、ガニ股で彼らは綺羅の周りをうろちょろと動き回る。いつの時代のヤンキーだお前ら。
「俺達はガキの相手してる暇はねえんだよ! さっさと消えな!」
そちらから絡んできておいて随分な言いがかりだと思ったが相手にするのも面倒くさい。
何も言わず立ち去ろうとした、その時。
もう一人のギンガ団が目の前に立ちはだかった。じろじろと顔を覗き込んでくる。
「ガキ相手に随分な意地悪するんだな」
「お前、もしかしてマーズ様とジュピター様の報告にあったトレーナーか?」
一人がそう言うともう一人も正面に回ってきて、顔を覗き込まれた。デリカシーとかないのかこいつ等。
思わず一歩後ずさったその時、伸びてきた手のひらに手首を掴まれ距離を詰められる。
「なっ……に、」
突然のことに抵抗が遅れた。
「本当か? それが本当だとすれば、ここでこいつをやっちまえば手柄を上げられるんじゃねぇか?」
「お前いいこと考えるじゃねえか。やっちまおうぜ」
そっとボールに手を伸ばしたその時、手首に巻き付いていた乱暴な指は外れて身体がよろめく。
綺羅とギンガ団たちの間に割り込むように入ってきたのは逞しい上半身を惜しげもなく晒し、マスクのようなものを被った男性だった。
彼は綺羅を守るように背後に連れてくると、ぎろりとギンガ団二人を睨みつける。
「子供相手にいい年した大人が何やってんだァ?」
鍛え上げられた腕には血管が浮き上がっていて並の人間の体力では彼には勝てないだろうということが明白だった。
彼を見たギンガ団二人の顔がさあっと青ざめていく。
「ま、マキシ?! なんでお前がここに……!!」
「俺がどこに居ようと貴様らには関係ないだろう。それより、俺の問いに答えてもらおうか。子供相手に大人二人がかりで何をやってんだ?」
凄む男性に、ギンガ団二人はすごすごと離れ、逃げていった。
その背を見ながら彼は深く溜息を零して振り返る。マスクの向こうにある真っ黒い瞳と目が合った。
「大丈夫かい?」
こくりと頷くと彼はにい、と口角を上げる。
「全く、あいつらと来たら。まあ無事でよかった。……君はトレーナーか?」
「あ、えっと、そう……です……」
「そうか。俺はノモセシティジム、ジムリーダーのマキシマム仮面。君とはまたいつか出会える気がする。じゃあ、またな」
彼はそう言い残すと、ひらひらと手を振りながら去っていった。
綺羅はぽかんとしたままその背を見送る。
「……捕まらないんだ、あれ」
『失礼なことを言うんじゃない』