「ところで、ここって何処?」
「ポケモンリーグだ」
「蓋…お前、空飛べたのか?!そうでもなきゃこんなところまで来れないもんな!」
「飛べるかアホ。ボケにボケを返すんじゃねえ」
ジョーイさんとラッキーに見送られ、ポケモンセンターを出た綺羅はるんるんと蓋の隣を歩く。
心なしか陽葉もスキップ気味だ。
「んで、ここ何処?」
「コトブキシティだ。旅に出る前地図で確認しただろ」
「ほー。で、どこ行く? どっか行きたいとことかあるか、陽葉」
『いや俺何があるかもあんまり知らないし……どこでもいいぜ』
「まあそりゃそうか。んじゃあ蓋、どっか行きたいとことか何か面白そうなとことかないか?」
そう言うと蓋はどこからか地図を取り出し、眺める。
「いや…ここで遊ぶよりも、まだ日も高いしジムがあるクロガネシティまで進んだ方が」
「おし、テレビコトブキな。おっけーおっけー、レッツゴー!」
「従う気ないなら初めから聞くなよ」
綺羅はスキップから駆け足に体勢を変えた。
脳裏で自分によーい、と声をかけ、どん、と走り出そうとしたその時、つい先日聞いたばかりの声が彼女の名を呼んだ。
「あ、綺羅さん!」
ふいと振り向くとそこにいたのは、つい先日会ったばかりの彼。
「コウキくん? 先日ぶり。お母さんから旅のお許しは出たんだね」
「はい。止められるかもとも思ったんですが、全くそんなことは無く」
どこか寂しそうに言う彼に、綺羅も乾いた笑いを零す。
その時、視界の端、電灯の柱の傍できょろきょろと辺りを見渡している、言うなればそう、不審者を見つけた。
茶色いコートと、お堅そうにセットされた黒髪、鋭い眼光は獲物を探す肉食獣のようで……。
「あの人……何してるのかな」
少し後ずさりながら言うコウキを背後に隠すように前に出る。
正直あまり話しかけたくないが、人目もあるし、逆にこの状況なら話しかけた方が防犯にもなるはず。
恐る恐る、挙動不審な男性に声をかけた。
「あ、あの……」
声を掛けられた男性は、オーバーな動きでこちらへ視線を移す。
どこか常人離れした挙動に思わず、出掛けた悲鳴を喉の奥に送り込む。
「なぬぅー!!」
「ひぃ?!」
折角抑えたのに出てしまった。
一方、大声を上げた男性は、わなわなと身体を震わせている。
「なぜ私が国際警察の人間だとわかってしまったのだ?!」
「……はい?」
「私を只者ではないと見抜いて話しかけたのだろう? その眼力恐るべし…君達、できるな!」
話しかけなければ良かったかもしれないという後悔が爪先から脳天めがけて一気に駆け上がった。
隣のコウキも同じことを考えているのか、苦い顔をしている。
「正体がバレたんだ。自己紹介をさせて頂こう。私は世界をまたにかける国際警察のメンバーである。名前は……いや、君達にはコードネームを教えよう」
ばっ、と彼は両手を広げる。
国際警察……?
なんかよくわからんけど今までの様子を見る限り、隠密行動中じゃないのかこの人。
目立ちまくりだけど……。
こちらにまで注がれている周りの白い目が痛い。
「そう。コードネームは"ハンサム"! 皆そう呼んでいるよ。私の正体を見抜いた君達の名前は?!」
「綺羅……です……」
「僕はコウキといいます」
「そうか!いい名前だ!ところで君達、人のものを盗ったら泥棒という言葉を知っているか?」
突然、指をこちらにびしっと指し、そう言う彼。
人に指を指すのもあまり宜しくないのではないかというツッコミが喉元まで出かけたが、飲み下す。
「残念なことに、ここ、シンオウ地方にも人のポケモンを奪ったりする悪い奴らがいるらしい。そこで私は怪しい奴がいないか探していたのだよ!」
「少なくとも今この街の中で一番怪しいのはアンタだと思うけど……」
「それでお願いだが、もし私を見かけても仕事中だから話しかけないでくれ!……いや、寂しいから、じゃなくて、怪しい奴を見かけたら声をかけてくれ!それでは!」
そう言い、不審者……じゃなくて、ハンサムはどこかへ颯爽と去って行った。
「コウキくん、不審者には気を付けような」
「そうですね……。あ、そうだ。僕、ジュンを探さないといけないんです。綺羅さん、ジュン見てないですか?」
「ジュンくん?いや見てないな」
「そうですか。彼のお母さんから預かったタウンマップ、渡したいんですけど」
そう言って彼は、折り目の新しいタウンマップを取り出し困ったようにそれを見つめる。
綺羅も特に深い理由もなくそれに倣うように自身のタウンマップを取り出した。
色褪せ、折り目がいくつもついた、古いそれをそっと撫でる。
「それは綺羅さんのタウンマップですか?なんだか、少し古いような」
「ん?ああ、これ、お古なんだよ」
「お母さんか誰かのですか?」
「うーん。まあ、そんなとこ」
ふ、とどこか憂いた笑みを浮かべ、彼女はそっとタウンマップを鞄に戻した。