ポケモンセンターを背に出て、左手。
木々が鬱蒼と生い茂るその向こうにズイの遺跡はある。
そこに行くまでの道のりは段差が多く決して子供向きの道とは言えなかったが、綺羅は体力が有り余っていたのかぴょんぴょんと飛び越えていった。
「おっ、あれかな?」
ごつごつとした岩肌の中、粗く削られたその遺跡はぶっきらぼうにその口を開けている。
早く早くとせがむようにかたかたと揺れる麗水と魅雷とのボールを撫で、恐る恐るそこに足を踏み入れた。
外の明るさに反比例するように遺跡の中はどんよりと暗くて、心なしか気温も低いような気もする。
「誰もいなさそうだな。出てきていいぞ、皆」
『わーい!』
『おー! なんだこれ、ひんやりしてる!』
「お前ら、はぐれるなよ」
呆れたような蓋の声を聴いてか聴かずか、麗水と魅雷とは決して広くはない遺跡のフロアの中を駆けまわった。
他の仲間たちも各々好きなように遺跡内を動いている。
「なあなあ、綺羅。これ、なんだろ?」
綺羅は手招かれた通り、遺跡の奥に居た陽葉に近づいた。
彼の肩越しに指さされた遺跡の奥の壁を見つめる。
『それ、アンノーン文字じゃない?』
「アンノーン文字?」
「……なんか、目玉みたいでちょっと気持ち悪いですね」
気が付けば、後ろには蓋と炎、鈴も来ていて五人で固まって壁を凝視した。
『ご主人が読んでた本で見たことあるよ。なんか、大昔はこの文字が一般的に使われてたとかなんとか』
「そうなのか。現在の常用文字とは似ても似つかんな……読めん」
現在発刊されている普通の本であれば読める蓋だが、今回ばかりは首を傾げる。
流石に博識な彼でも古代文字までは難しいようだ。
「"右上"」
「……え?」
「"左下"、"右上"、"左上"…"左上"、"左下"……かな、多分」
『すごい、綺羅ちゃん、読めるの?』
綺羅はそっと壁を指先でなぞる。
不思議そうな顔だ。
「……教えて、もらったんだ…………誰、に……?」
「綺羅?」
「きいろい、黄色い」
「!!」
"ピンクの子と、あおい子と、きいろい子!たまにみずうみのちかくにいて、あそんでくれるの!"
蓋は、彼女がまだ幼い頃、腕の中で嬉しそうにそう言ったのを思い出す。
当時はよくわからなかった。
彼女には自分の知らない何かがあると気が付いてからも、ずっと目を逸らしていた。
自分の種族名や、今回のアンノーン文字など蓋が教えた記憶のないものを教える、"何か"の存在。
「綺羅、無理して思い出さなくてもいい。それより、ここに書いてあるの、ここの正しいルートじゃないか?」
「え、あ……」
蓋がそういいながら入口を背にして奥の方、右手にある階段を指す。
「行ってみようぜ」
こくりと頷いた綺羅は、さっさと降りていってしまった蓋の背を追いかけた。
後ろではしゃいでいた麗水と魅雷、感心したように壁を見つめていた陽葉、炎もついてくる。
『あーあ。蓋くん……自分でどうしたいか、わからなくなっちゃってるんじゃん』
最後尾、ぽつりと呟いた鈴はそっとその後ろに続いた。