所変わってポケモンセンター。
牧場が広がる長閑なズイタウンの真ん中に建っているポケモンセンターは小ぢんまりとしていて客室は殆ど空室だったのもあり、綺羅は静かな朝を迎えた。
軋む身体を伸ばし、深く息を吐く。
泥のように眠っていたのだろう、節々がぎしりと音を立てた。
そっとカーテンを捲ると陽射しが室内に差し込む。
太陽は既に真上ぐらいまで昇ってきていた。
「起きたのか。おはよう、綺羅」
「お、よく眠ってたな、おはよ」
『おはようございます、綺羅さん』
『マスターお寝坊さん!』
『綺羅起きた!おはよう!』
目が覚めた瞬間、室内は一気に賑やかになる。
「ん、あれ……ここは」
記憶が昨日のロストタワーの中で途切れている綺羅は辺りをきょろきょろと見渡した。
ばちりと、鈴と目が合う。
彼が黒い目を細め、腕を動かすとちりんと音が鳴った。
『綺羅ちゃん、昨日あの後寝ちゃったんだよ。勝手にポケモンセンターまで運んできちゃった』
「そうなのか。ありがとな、鈴」
『お安い御用だよ』
ベッド脇で嬉しそうに微笑む鈴の背を撫でる。
その時、ふかふかのベッドの上に麗水が飛び込んできた。
『マスター。あのねあのね!僕、行きたいところがあるんだけど』
「ん、どした?」
『ズイタウンには、遺跡があるんだって! "ズイの遺跡"っていうみたいなんだけど、すっごく楽しそうなの! ねえ、行ってみたい!』
麗水の頭を撫でながら、こくりと頷く。
「ああ、わかった。行こうか」
『やったー! やったね、魅雷!』
『おう! お願いしてみてよかったな、麗水!』
麗水と魅雷は楽しそうに手をぱたぱたと振った。
「よっし、早速出かけようか。準備するから待ってて」
「ゆっくりでいいからな」
「ん、ありがと」
蓋から渡された真っ白いタオルを受け取り、綺羅は洗面所に向かう。
その背中を見送る蓋の背中を鈴はじいっと見つめた。
『最初会った時から思ってたけど、やっぱり過保護だね』
「ほっとけ」
呆れたように言う鈴を横目で見る。
「そういうお前だって」
『え、何?』
「……いや、なんでもない」
鈴は首を傾げたが、蓋はそれ以上口を開くことは無かった。