202番道路。
爽やかな風が旅の始まりを祝福してくれるこの場所で、それに対抗するように激しいバトルが繰り広げられていた。
「陽葉、ラストだ! "たいあたり"!」
「あぁっ、コロボーシ!」
全力の体当たりを腹に喰らった相手のポケモンは吹き飛ばされ、砂埃が舞い上がる。
どうやら決着がついたようだ。
勝者である綺羅は両手を青空に掲げ、ぴょんと飛び上がる。
『よっしゃあ! 勝ったぜ、綺羅ー!』
「おう!よく頑張った……ぬぁッ」
胸に飛び込んできた陽葉を支えきれず綺羅は後ろに倒れ、地面に後頭部からダイブ。
後頭部に石が直撃したせいで、目玉が飛び出るかと思った(本人談)。
「っぐ……うおお……」
しばらく後頭部を押さえて悶えていると腰のボールが開き、蓋が慌てたように駆け寄ってくる。
『お、おい綺羅! 大丈夫か?!』
「うん大丈夫だよ。何か大きな川の向こうで死んだじいちゃんが手を振ってるけどね」
『うん全然大丈夫じゃないなお前じいちゃんの顔見たことねえだろ』
その後、最寄のポケモンセンターに黒髪の少女を担いだ男性が飛び込んできたのは言うまでもない。
* * *
「あははー。ご迷惑をお掛けしました」
『三途の川を渡らずに済んでよかったな』
真っ白いベッドの上で後頭部を恥ずかしそうに撫でる綺羅に対し、青年がはあ、と深く溜息を吐いた。
頭を抱える彼は、人型になった蓋だ。
「まったく。お前は本当に危なっかしいな」
蓋がもう一度ため息を零しそうになったところで、足元にいる陽葉と目が合った。
なにやら羨むような目で見つめられ、話しやすいようにしゃがみこむ。
「どうした? 陽葉」
そんなパートナー二人(二匹?)の和に入りたかったのか綺羅は少し身を乗り出してベッドの上から下を覗き込もうとするが、後頭部にずきりと痛みが走り、白いシーツに顔面から沈んだ。
一方、痛みに悶える主人はさておいて、陽葉は先ほどよりも距離が近づいた蓋に出来るだけ小声で言う。
『それ、どうやるんだ?』
「"それ"?……ああ、擬人化のことか。仕組みはわからんが……俺の場合は、コイツを守りたいと思ったことが多分きっかけだ」
ベッドの上で悶える綺羅を親指で指しながら、に、と笑った。
「コイツとは小せぇ頃からの付き合いなんだ。子供みたいなもんだな。俺が守ってやらなきゃいけねえ。だがポケモンの姿のままじゃあ出来ることは限られるだろう? 普通の人間とは言葉も通じないし。同じ目線に立ちたいと、守れるようになりたいと、そう願ったら出来るようになったんだ」
間に合わないこともあるが、と彼は苦々しい顔を浮かべる。
『俺も……俺も、綺羅を守りたい。ついこの間会ったばかりだけど…蓋みてぇに何年も一緒に居たわけじゃないけど。綺羅が良い奴てことはこんだけの短い期間でもわかる。だから、俺も!』
「ほう……」
陽葉の目に宿っているのは、鋭い決意だった。
「いいだろう、好きにしろ。だが、そう簡単にこの場所は渡さねえ」
対抗するように鋭い視線を投げかけられ、陽葉は後退りかける。
が、負けじと蓋を睨み返した。
「な~ん~の~は~な~し~だ~よ~」
その時、何やら拗ねたような声が降ってきて二人はベッドの上を見上げた。
頬を膨らませて陽葉と蓋をじとりと睨みつけている。
「俺を差し置いてなぁにヒソヒソしてんだよー!混ぜろ!」
「秘密だ。男同士のな」
そう言い、蓋は口元に人差し指をぴんと立てて添える。
そんな彼を見た綺羅はぱちくりと瞬きをして一言。
「蓋……可愛い路線狙ってんの? きしょ……」
「川渡るか?」
「ごめんなさい」