綺羅は玄関のドアノブを握ったまま膝から崩れ落ちる。
『綺羅…っ?どうした?』
「…ごめん……力、抜けた」
肩も手も震えていたが、心配させまいと力なく綺羅は微笑んだ。
「大丈夫…っすぐ立ち上がるから…」
『い、いいよ!無理すんな!』
へたり込む綺羅の膝の上に顎を載せ、寄り添うように座る。
お礼を口にする彼女に撫でられながら陽葉は顔を顰めた。
見上げると真っ青な顔がある。
この小さな体では彼女のその顔を包み込むことも、震える肩を抱くことも、冷え切った指先を握ることもできない。
こんな時、蓋だったら…彼だったら、きっと出来ただろう。
彼女を抱きしめ、髪を撫で、手を握りながら、安心しろと、俺が守るからとそう言えただろう。
だが今ここに居るのは蓋ではなく自分だ。
自分では彼女の不安を取り除いてやることができない。
せめて彼の様に擬人化が出来たら、綺羅よりも長い手足を手に入れることが出来たら。
『ごめんな、綺羅』
届かないとわかっていても。
無理だと分かっていても。
思わず彼女の頬に手を伸ばした。
「一緒に居たのが俺で…蓋じゃなくて」
ふわりと彼女の頬の感触が指先に走る。
温かい温度が足先まで広がった。
「……よ、陽葉…」
「…?」
驚く彼女の目を真っ直ぐ見つめる。
…真っ直ぐ?
先程まで彼女を見上げていたはずなのだけれど。
そういえば、普段なら絶対に届かないのに彼女の頬の感触が手のひらにある。
「え…あれ…」
自分の身体を見下げた。
いつもより高くなった目線、伸びた足、長い腕。
目の前にいる彼女は相変わらず目を真ん丸くしてこちらを見ている。
いつもより小さく見える彼女が途端にとんでもなく愛おしくなって思わず座り込んだままの彼女を抱きしめた。
「うわっ」
バランスを崩した彼女の頭が寄りかかる。
首筋に吐息が掛かり、くすぐったい。
「陽葉…?」
これなら、この姿なら彼女の手を引ける。
抱きしめられる。
「綺羅」
「…?」
「行こう。絶対に抜け出せる。俺が守るから」