「よーっし!張り切っていくぜ」
綺羅は拳を大きく空に掲げた。
勢いそのまま身体を伸ばし、目的地へ向かって歩き出す。
目指すはハクタイジム。
打倒ジムリーダーだ。
「ジョーイさんから聞いた話だと、ハクタイジムは草タイプがメインのジムだとかなんとか」
『草タイプ…ですか。僕の出番ですかね』
「そうだな。相手は3匹らしいから…今回は麗水には控えててもらおうかな」
麗水のボールを撫で、顎に手を当て思考を巡らせる。
タイプ相性を考えれば恐らくそれが良いだろう。
「とりあえず最初は陽葉な。次に蓋で、最後に炎。…どうだ?」
3匹が倒れてしまった場合は、麗水をひきずりださなければならないが、もちろん、麗水まで回すつもりはない。
「コンディションも問題ないし、行けるな?皆」
『任せろ』
『頑張るぜ』
『必ず勝利してみせましょう』
『ボクも応援、頑張るよっ』
さて、そう意気込んで歩き出したのは1時間ほど前。
やたら意気込んで歩き出した綺羅だったが、進んだ先はジムがある方向とは逆で、案の定道に迷った彼女は困っていたところを町民に助けられながらなんとかここまで辿り着いたのだった。
バトル開始前にかなり体力を削られてしまった。
「やっと着いた…」
『マスター…なんで地図持ってるのに迷子になるの…』
「…う…よ、よし、切り替えんぞ」
麗水の的確なツッコミに更に精神力を削られながらも、両頬を叩き、しゃきりと背筋を伸ばした。
ジムへ足を踏み入れようと一歩前に進む。
「うわっ」
「きゃんッ?!」
ジムへ足を踏み入れようとしたその時、目の前にあったドアが音をたてて開き、中から出てきた女性とぶつかってしまった。
とっせに体勢を崩した彼女の腕を引き、支える。
「だ、大丈夫ですか…?」
そう声をかけると、女性は勢いよく頭を上げ、そしてまた勢いよく下げた。
「ああぁ!ごめんなさいっ、私ったら…」
「いえ。こちらこそ、ちゃんと見ていなくって。すみません」
そうして再度頭を上げた彼女と目が合う。
オレンジ色のショートカットと肩に掛けたマントがふわりと揺れた。
「…もしかして挑戦者さん?」
「もしかしなくても挑戦者です」
にこりと笑みを浮かべると、彼女の目はみるみるうちに輝きを増す。
「な、なんて可愛いの…?こんな子が現実に居るなんて…ショタコンで良かった…」
「しょた…?」
「とりあえず挑戦者なのね!よし、わかったわ。ここに来てるってことは準備はバッチリよね!さぁ早速始めましょう!」
彼女の勢いに若干押されながらジムの中へと足を踏み入れると、目の前に広がった景色に綺羅は思わず目を見開いた。
広いフィールドには色とりどりの草花が咲き乱れており、ジムリーダーが立つであろう奥の壁には花を模した巨大な時計が飾られていた。
ジムの中を満たす甘い花の蜜の匂いが造花などではないことを物語っている。
そんな空間の真ん中、踊る様に回りながら、彼女は微笑んだ。
「あたし、ナタネ!挑戦者くん、どうか楽しませてねっ」