ソノオタウンの東側。
谷間に建っているその発電所の周辺はソノオタウンに吹くものよりもずっと強い風が流れており、真っ白くて巨大なプロペラは心地よさそうに回っていた。
普段であれば静かで長閑なその風景が、今は水色と白黒のストライプとで煩雑に散らかっている。
「ふああ」
発電所の唯一の出入り口の前、見張りを命じられた下っ端は人目が無いのをいいことに大口を開けて欠伸を零した。
ここに突っ立ってかれこれ数時間。
町に居る人間はたまにこちらに近付こうとはするものの、声を荒げてやればすごすごと帰っていく。
楽な仕事だ、と思っていた。
ふと遠くから、地響きのような音が聞こえる。
何事かと音の方向へ目を向けた。
じいと目を凝らすと、小柄な人影がこちらへ鬼のような形相で駆けてくるのが見えた。
舞い上がる砂埃の向こうにある眼光は心なしか光っていて、先日テレビで特集されていた赤いギャラドスを彷彿とさせる。
「とうッ」
などと、楽観視している場合ではなかったが、気が付いたころにはもう遅い。
人影は目の前でそんな声を上げながら跳びあがり、勢いを少しも殺さないまま下っ端の顔面に豪快に靴の裏を叩きつけた。
およそ人体から聞こえてはいけないような音が聞こえ、下っ端はその身を宙に投げる。
数メートル転がった先で風車に激突した彼は首をこてんと力なく放り出し、泡を吹いて失神した。
「…やりすぎちゃった☆」
『マスター格好いい!ヒーローみたい!』
麗水のボールがかたかたと揺れ、ボールがひとりでに開き、飛び出してきた彼はきゃっきゃと笑う。
遅れて、蓋と陽葉と炎とのボールも開き、グロッキー状態の3匹も地面に突っ伏した状態で飛び出してきた。
すうはあと必死に酸素を吸引している3匹の背を撫でる。
『お、おうえ…』
『やっべぇ…まだ回ってるぜ…』
『麗水…あなた何故平気なんですか…』
『おじさん達よりも三半規管が強いからかな』
麗水のその言葉に反論すらできないらしい3匹は恨めしそうに綺羅を見上げた。
「ご、ごめんて…」
思わず目を逸らしたその時、発電所の扉の向こう、一部始終を見ていたのであろう、ぶるぶると子犬のように震える別の下っ端と目が合う。
「あー…えっと、どうも…」
「ひぃっ」
なるだけフレンドリーに声をかけたつもりだったが逆効果だったようだ。
彼は化け物でも見たような顔で何事か叫び、ドアを壊れるのではないかというほど力強く閉める。ほぼ同時に錠を落とす音が聞こえた。
「あっちゃー…閉められちった」
『余計なことするからだ』
「いやあ、ブレーキが間に合いそうになくてつい、ね」
さてどうしたものか、と綺羅は立ち上がり、辺りを見渡す。
『そういえば、さっき花畑に似たような奴らが入ってくのを見たな』
「お、本当か?そっちにいる奴らなら鍵とか持ってるかもな。行ってみっか。ほら、お前らボール戻れー」
『はーい』
「よーし走るぞー」
『え゙』
『す、少し休憩を…』
悲痛なその声は綺羅には届かなかった。