「…ってなことがあってさ」
昨晩、あれから2時間ほど消えたタマザラシを探したが見つからず、渋々ポケモンセンターへ戻り、モヤモヤしながら床に就き、仲間たちと共に朝を迎えた綺羅はタウンマップを開きながらまるで世間話をするかのようにそれを仲間たちに話す。
「ちょっと待て。お前…一人で?そんな時間に外を出歩いたのか?」
「え?うん、眠れなくて……あだっ」
鉄槌が下った。
「お前な…そんな時間に!一人で!危ないに決まってるだろ!ぶつかったその男もたまたま何もしてこなかったものの、何かあってからじゃ遅いんだぞ!」
蓋は思わず語気を荒くする。
一方、拳骨を喰らった頭を抱える綺羅は、うぐ、と声を詰まらせた。
「何度心配を掛けさせるなと言わせる気だ?眠れないのなら俺を起こせ。今更気を遣うんじゃない。昔はよくトイレの度に怖いからと俺を起こして…」
「わー!ちょ、わかった!起こす、次から気を付けるから!それ以上言うな!」
タウンマップがくしゃりと歪んだ。
慌てて皺を伸ばす。
『それにしても、モンスターボールをガムテープで固定、ですか。随分酷い人間がいるものですね』
『全くだ。どんな理由があったとしてもやっていいことと悪いことがあるよな』
炎はこれだから人間は信用できないんです、とでも言いたげにため息を零した。
『モンスターボールが破裂したのは、恐らく無理やり抑え込んでいたからでしょうね。大方、モンスターボールをぶつけ、完全に捕獲する前に巻きつけたのでしょう』
「…まあ、どちらにせよ良い人間のすることじゃねえな」
『ええ。良くて物盗り、悪くてギンガ団、ですかね』
聞きなれない単語に、綺羅はぴくりと反応する。
「ギンガ団?」
『ご存じないですか?最近巷で噂の集団です。表は慈善事業集団ですが、裏ではポケモン改造や窃盗を繰り返しているとか。あくまで噂ですが、火のない所に煙は立たぬとも言いますし』
『聞いたことあるぜ。たまーにニュースとか載ってるよな。なんか変な恰好してるから多分見たらすぐわかるぞ』
ふうん、と綺羅は話半分、タウンマップを見つめた。
「人間は本当に何をするかわからんな…。まあ、そんなことはさておき、綺羅、次はどうする?」
「ん?あー、次のジムはっと…ハクタイシティだな」
現在地から目的地までのルートをマップ上で指でなぞる。
その時、ルートをなぞった指の上に、見慣れない白くて小さな手が置かれたような気がした。
手に導かれ、今なぞったものとは別な遠回りルートを指でなぞり直す。
"そっちは通れないの"
ふと脳裏に声が響いた。
思わず振り向くが、背後には晴天を映し出す窓しかない。
「…?」
『綺羅さん、如何しました?』
不思議そうに周囲を見回した綺羅を炎は心配そうに見上げる。
「ん、何でもない」
炎の背中を一度撫で、再度タウンマップに目を落とした。
導かれたルートをもう一度指でなぞる。
「コトブキに戻ってソノオから経由するのか?遠回りだろう」
「そうだけど…なんか、こっち行きたい。ダメか?」
自分よりも高い位置にある蓋の顔を見つめ、首を傾げる。
「ダメなんかじゃないさ。お前が決めたのなら俺は付いていくだけだ」
『ええ。急ぐ必要もないですしね』
『俺も構わないぜ!ソノオってとこ、どんなとこなんだろ!楽しみだなー!』
綺羅はタウンマップをリュックに仕舞い、それを背負った。
靴ひもを結び直し、よし、と気合を入れる。
「さ、行こうか!」