炎は、頬に当たる日差しとすぐ近くにある温もりで目を覚ました。
ふいと頭を上げると見慣れない顔がそこにある。
一瞬状況の理解が出来ず飛び起きかけたが、上半身を起こしただけになんとか留めた。
小さく息を吐いてカーテンの隙間から覗く朝日を見上げる。
すると。
「ん。おはよ、炎」
綺羅が目を擦りながら体を起こしてきた。
『…おはようございます、えっと…』
「ああ…そういやちゃんと名乗ってなかったかもな…綺羅だよ」
『綺羅…さん』
恐る恐る名前を呼ばれた綺羅は、嬉しそうに顔を綻ばせ、うん、と頷く。
「炎、どうした?」
『…慣れていなくって。名を呼ぶのも、呼ばれるのも。僕を育てていたブリーダーとは言葉は通じませんでしたし』
気恥ずかしそうにする炎の首元をそっと撫でる。
触れる瞬間、一瞬だけ身を引かれたが、思ったよりも素直に撫でられてくれた。
「嫌なことはしないつもりだけど、何かあったら遠慮せず言うんだぞ。折角言葉も通じるんだし」
『…はい』
顔を見る限りだと、撫でられるのはあまり嫌ではなさそうだ。
ふわふわの毛が心地よい。
「さてと…そろそろ起きるか」
身体を伸ばし、ゆっくりと起きた。
…つもりだったのだが。
手が掛布団に引っかかり持ち上げられたことによって上にいた蓋の身体が転がった。
そのまま彼は成す術なく床に頭から叩きつけられる。
『ぐはッ』
足をぴくぴくと痙攣させたまま痛みに悶える蓋に、綺羅は頬を掻いた。
「ごめん蓋。生きてるか?」
『頭から落ちてなきゃ死んでた…』
「そんな高くねぇじゃん」
「お前も落とすぞ。それより、具合はどうだ?」
蓋はポケモン型から人型へと起き上がりながら変身し、未だ痛むらしい頭に手を当てている。
そしてその逆の手で綺羅の寝癖のついた黒髪をそっと手櫛で梳いた。
「ん。大丈夫だよ」
『そうか』
嬉しそうな声色の蓋の頭をそっと撫でると綺羅はベッドから起き上がる。
顔を洗ったり歯を磨いたりパジャマから着替えたり、簡単に身支度を済ませるとリュックを背負う。
「よっし。行こうぜ、皆。今日は初めてのジム戦だ!」