甘い誕生日
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ザンギエンは私の買い物に必ず着いてくる。
親方は体が資本ということで、私が食べるもの、日常で使うものを知っておきたいらしい。
なんなら私より安売りの情報に詳しかったり、献立の相談にも乗ってくれたりして頼もしい。
そんな日常のとある日。
その日も普段通り、スーパーへと食料品を買いに行った。
野菜、肉、その他諸々……一人暮らしだったのがふたり分へと変わったため、買う量もそこそこ多い。
カートを押しながら歩いていると、ふとザンギエンが気付いた。
「そういえば、卵も切らしてなかったか?」
「あっ」
「そこを見ていろ。取ってくる」
そう言って私より小さな姿のザンギエンは、金属の駆動する音を立てながら歩いていった。
一人残された私は、お菓子の棚を見る。
(そういえば、今日誕生日だ)
年々、自分の誕生日に対する意識が薄れていっている。実家にいて親が祝ってくれていた頃ならまだしも、一人で家事も仕事もこなさないといけない今は、作業に追われて記念日どころではない場合も多い。
(そういうのも、ザンギエンが来てくれてからかなりまともになったけど……)
ザンギエンに誕生日を話した覚えがない。祝ってもらいたい気持ちもあるけれど、当日に自分から言うと強要することになる気がする。
(ザンギエンが、そんなこと気にすることはないって、頭では分かってるけど……)
ザンギエンの優しさに甘えきってしまう自分は、許すべきじゃないように感じた。
もやもやと考えていると、ザンギエンが戻ってきた。
「いいものを見つけたぞ」
「いいもの?」
ザンギエンの手には、卵だけでないものが大事に抱えられている。
「ほら」
ザンギエンはそのままそっと、カゴにそれを入れた。
「あれっ……!?」
それは、二つ入りのショートケーキだった。
「これって……!」
「誕生日、なんだろう?」
ザンギエンは片目を閉じ、笑う。
「あ、ありがとう……!!」
「今日のデザートに食べよう。少し夕飯は少なめでな」
「うんっ……!」
カートを押す手が軽い。
夕飯後、二つのフォークと皿、そしてケーキのパックが並んだ。
恐る恐る、透明な蓋を開けていくと、真っ白なクリームと赤い苺が現れる。
「わあっ……!」
思わず喜びの声が漏れる。
ケーキは二つ揃って折り目正しく座っている。その一つずつを、そっとお互いの皿に運んでいく。
目の前には、まったく同じケーキがちょこんと並んだ。
「それじゃあ……」
自分からフォークを持って、声をかけたけど。
本当は、ザンギエンにしてほしいことがある。
「…………」
「どうした?」
動きを止めた私に、ザンギエンは何事もなく訊く。
「あ……あのねザンギエン、ちょっとだけわがまま、言ってもいい?」
「わがまま?」
手に握ったフォークが少しずつ冷たさを失い、熱を帯びていく。
「ざ、ザンギエンに……あーんって、してほしい、とか…………」
ザンギエンの顔が見れず、視線は彼の手元を漂う。
「なんだ」
答える彼の声は明るかった。その声に顔を上げると、ザンギエンはいつもと変わらぬ、真っ直ぐな視線を私に送ってくれていた。
「そんなことか? それぐらい、簡単なことだ」
ザンギエンはそばにあるフォークを持つと、私のケーキを少し取って、私の口に運んだ。
「ほら。あーん」
自然と近付く、ザンギエンの顔。かっこよさとかわいさと、優しさの顔。
人に食べさせられることに慣れていないのと、心臓の方から込み上げてくるものに精一杯になりながら、ぎこちなくフォークを口に含むと、たっぷりの甘さが口の中に広がった。
クリームもスポンジもふわふわとしていて、それは今の私の感覚と重なって、増幅する。
「どうだ?」
「お、おいしいよぉ……!!」
ザンギエンに微笑みながら問われて、私は言葉にできないほどの幸せから、なんとか言葉を絞り出す。
「次も、あーんしてほしいのか?」
ザンギエンからの質問。私は、必死に首を縦に振る。
「フッ。甘えんぼだな」
ザンギエンは笑うと、もう一度私にケーキを食べさせてくれた。
「あーん」
甘い感覚で、身も心もとろかされていく。
親方は体が資本ということで、私が食べるもの、日常で使うものを知っておきたいらしい。
なんなら私より安売りの情報に詳しかったり、献立の相談にも乗ってくれたりして頼もしい。
そんな日常のとある日。
その日も普段通り、スーパーへと食料品を買いに行った。
野菜、肉、その他諸々……一人暮らしだったのがふたり分へと変わったため、買う量もそこそこ多い。
カートを押しながら歩いていると、ふとザンギエンが気付いた。
「そういえば、卵も切らしてなかったか?」
「あっ」
「そこを見ていろ。取ってくる」
そう言って私より小さな姿のザンギエンは、金属の駆動する音を立てながら歩いていった。
一人残された私は、お菓子の棚を見る。
(そういえば、今日誕生日だ)
年々、自分の誕生日に対する意識が薄れていっている。実家にいて親が祝ってくれていた頃ならまだしも、一人で家事も仕事もこなさないといけない今は、作業に追われて記念日どころではない場合も多い。
(そういうのも、ザンギエンが来てくれてからかなりまともになったけど……)
ザンギエンに誕生日を話した覚えがない。祝ってもらいたい気持ちもあるけれど、当日に自分から言うと強要することになる気がする。
(ザンギエンが、そんなこと気にすることはないって、頭では分かってるけど……)
ザンギエンの優しさに甘えきってしまう自分は、許すべきじゃないように感じた。
もやもやと考えていると、ザンギエンが戻ってきた。
「いいものを見つけたぞ」
「いいもの?」
ザンギエンの手には、卵だけでないものが大事に抱えられている。
「ほら」
ザンギエンはそのままそっと、カゴにそれを入れた。
「あれっ……!?」
それは、二つ入りのショートケーキだった。
「これって……!」
「誕生日、なんだろう?」
ザンギエンは片目を閉じ、笑う。
「あ、ありがとう……!!」
「今日のデザートに食べよう。少し夕飯は少なめでな」
「うんっ……!」
カートを押す手が軽い。
夕飯後、二つのフォークと皿、そしてケーキのパックが並んだ。
恐る恐る、透明な蓋を開けていくと、真っ白なクリームと赤い苺が現れる。
「わあっ……!」
思わず喜びの声が漏れる。
ケーキは二つ揃って折り目正しく座っている。その一つずつを、そっとお互いの皿に運んでいく。
目の前には、まったく同じケーキがちょこんと並んだ。
「それじゃあ……」
自分からフォークを持って、声をかけたけど。
本当は、ザンギエンにしてほしいことがある。
「…………」
「どうした?」
動きを止めた私に、ザンギエンは何事もなく訊く。
「あ……あのねザンギエン、ちょっとだけわがまま、言ってもいい?」
「わがまま?」
手に握ったフォークが少しずつ冷たさを失い、熱を帯びていく。
「ざ、ザンギエンに……あーんって、してほしい、とか…………」
ザンギエンの顔が見れず、視線は彼の手元を漂う。
「なんだ」
答える彼の声は明るかった。その声に顔を上げると、ザンギエンはいつもと変わらぬ、真っ直ぐな視線を私に送ってくれていた。
「そんなことか? それぐらい、簡単なことだ」
ザンギエンはそばにあるフォークを持つと、私のケーキを少し取って、私の口に運んだ。
「ほら。あーん」
自然と近付く、ザンギエンの顔。かっこよさとかわいさと、優しさの顔。
人に食べさせられることに慣れていないのと、心臓の方から込み上げてくるものに精一杯になりながら、ぎこちなくフォークを口に含むと、たっぷりの甘さが口の中に広がった。
クリームもスポンジもふわふわとしていて、それは今の私の感覚と重なって、増幅する。
「どうだ?」
「お、おいしいよぉ……!!」
ザンギエンに微笑みながら問われて、私は言葉にできないほどの幸せから、なんとか言葉を絞り出す。
「次も、あーんしてほしいのか?」
ザンギエンからの質問。私は、必死に首を縦に振る。
「フッ。甘えんぼだな」
ザンギエンは笑うと、もう一度私にケーキを食べさせてくれた。
「あーん」
甘い感覚で、身も心もとろかされていく。